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迷子の令嬢
眼前には、まるで一枚の大きな壁のような緑。
またもや行き止まりの生垣だ。
もうこれで五度目。
直角に曲がる通路を右、左と折れるが、一向に先へ進めていない。
諦めて入り口へと引き返そうと振り向けば、複雑怪奇な道ばかりで、最早、戻ることすら不可能。
よもや生垣の壁が自動的に動いて、元の道を塞いでいるのではあるまいか。
マチルダは途方に暮れて、がっくりとその場に蹲ってしまった。
「マチルダったら。いつものあなたらしくないわよ」
そんな妹の姿に、姉はくすくすと喉元を揺らせる。
「イメルダ、あなた、四度も来てるなら出口は知っているでしょう? 」
「さあ? どうだったかしら? 」
「意地悪しないで」
「ふふ。いつも偉そうにツンツンしているのに」
面白くて仕方ないらしい。
イメルダの背中に悪魔の羽が見える。
これで二度目だ。
マチルダが幼い頃にも、同じことがあった。
イメルダが実母を肺の患いで亡くし、一年と経たずに彼女の父は再婚した。
マチルダは、父が再婚して三か月も満たないうちに生まれたのだ。即ち、イメルダの母が伏せっているとき、父はすでに別の相手に目を向けていたということだ。
日毎に正気を失くしていく妻に対して精神的に困憊し、生き生きと輝くマチルダの母に安らぎを見出した。
イメルダ母子は裏切られた形だ。
それでも姉妹に変わりはない。問題も起こらず、上手くいっていた。
が、やはりイメルダの心に巣食う傷は根深い。
こんなふうに、時折、マチルダに辛く当たる。
そもそもマチルダが迷路を嫌いになったのは、イメルダを起因とする。
幼いマチルダを置いてけぼりにして、姉はさっさと迷路から飛び出したのだ。
マチルダは泣いた。
泣いて泣いて、泣き喚いた。
それでも助けが来ない。
行けども行けども、目の前を塞ぐ巨大な壁。
世界にたった一人きりで取り残されてしまったのだ。
結局、マチルダの泣き声に気づいた両親が助けに来たのは、それから一時間はとうに過ぎた頃だった。
姉は悪びれもせず、父に虚言をかまし、己の罪から逃れた。
姉がどのような言い訳を吐いたかはわからない。
マチルダは我儘娘だとレッテルを貼られた。
それ以降、何かにつけてマチルダの評判は悪い方へと傾いていく。
いつしか悪役令嬢などと噂まで広がって。
「あら。ロナルド男爵」
イメルダの声のトーンが上がったのは、身なりの良い紳士が現れたときだ。
「ロナルド卿も迷路にいらしてたの? 」
イメルダと同じ年くらいの紳士に、イメルダは甘えた声で問いかけた。
「ああ。イメルダ嬢は、妹君と? 」
「ええ。どうしても妹が訪ねたいと聞かなくて」
「おやおや。困った妹君だ」
またもや、マチルダの評価が落ちる。
イメルダは、してやったりとほくそ笑んだ。
「ご一緒してもよろしいかしら? 」
イメルダは彼の腕に自分の腕を絡めると、しなだれかかる。愛らしい笑みを巧みに使い、相手の首を縦に振らせるのは、天賦の才能と表現しても良いくらいだ。
睫毛を瞬かせて潤んだ眼差しを向けられたら、大抵の男は拒むことなど出来ないはず。
「妹君は? 」
「一人で挑戦したいみたい」
「では、あなたをエスコートしましょうか」
あっさりと紳士の意思はイメルダへと傾く。
二人はまるで初々しい恋人のようだ。ピッタリ寄り添っている。アンサーが見たら、たちまち憤慨することだろう。
「イメルダ。待って。待ってちょうだい」
マチルダは手を伸ばして引き止めようとしたが、そんな彼女を擦り抜けて、イメルダは紳士と消えた。
またもや行き止まりの生垣だ。
もうこれで五度目。
直角に曲がる通路を右、左と折れるが、一向に先へ進めていない。
諦めて入り口へと引き返そうと振り向けば、複雑怪奇な道ばかりで、最早、戻ることすら不可能。
よもや生垣の壁が自動的に動いて、元の道を塞いでいるのではあるまいか。
マチルダは途方に暮れて、がっくりとその場に蹲ってしまった。
「マチルダったら。いつものあなたらしくないわよ」
そんな妹の姿に、姉はくすくすと喉元を揺らせる。
「イメルダ、あなた、四度も来てるなら出口は知っているでしょう? 」
「さあ? どうだったかしら? 」
「意地悪しないで」
「ふふ。いつも偉そうにツンツンしているのに」
面白くて仕方ないらしい。
イメルダの背中に悪魔の羽が見える。
これで二度目だ。
マチルダが幼い頃にも、同じことがあった。
イメルダが実母を肺の患いで亡くし、一年と経たずに彼女の父は再婚した。
マチルダは、父が再婚して三か月も満たないうちに生まれたのだ。即ち、イメルダの母が伏せっているとき、父はすでに別の相手に目を向けていたということだ。
日毎に正気を失くしていく妻に対して精神的に困憊し、生き生きと輝くマチルダの母に安らぎを見出した。
イメルダ母子は裏切られた形だ。
それでも姉妹に変わりはない。問題も起こらず、上手くいっていた。
が、やはりイメルダの心に巣食う傷は根深い。
こんなふうに、時折、マチルダに辛く当たる。
そもそもマチルダが迷路を嫌いになったのは、イメルダを起因とする。
幼いマチルダを置いてけぼりにして、姉はさっさと迷路から飛び出したのだ。
マチルダは泣いた。
泣いて泣いて、泣き喚いた。
それでも助けが来ない。
行けども行けども、目の前を塞ぐ巨大な壁。
世界にたった一人きりで取り残されてしまったのだ。
結局、マチルダの泣き声に気づいた両親が助けに来たのは、それから一時間はとうに過ぎた頃だった。
姉は悪びれもせず、父に虚言をかまし、己の罪から逃れた。
姉がどのような言い訳を吐いたかはわからない。
マチルダは我儘娘だとレッテルを貼られた。
それ以降、何かにつけてマチルダの評判は悪い方へと傾いていく。
いつしか悪役令嬢などと噂まで広がって。
「あら。ロナルド男爵」
イメルダの声のトーンが上がったのは、身なりの良い紳士が現れたときだ。
「ロナルド卿も迷路にいらしてたの? 」
イメルダと同じ年くらいの紳士に、イメルダは甘えた声で問いかけた。
「ああ。イメルダ嬢は、妹君と? 」
「ええ。どうしても妹が訪ねたいと聞かなくて」
「おやおや。困った妹君だ」
またもや、マチルダの評価が落ちる。
イメルダは、してやったりとほくそ笑んだ。
「ご一緒してもよろしいかしら? 」
イメルダは彼の腕に自分の腕を絡めると、しなだれかかる。愛らしい笑みを巧みに使い、相手の首を縦に振らせるのは、天賦の才能と表現しても良いくらいだ。
睫毛を瞬かせて潤んだ眼差しを向けられたら、大抵の男は拒むことなど出来ないはず。
「妹君は? 」
「一人で挑戦したいみたい」
「では、あなたをエスコートしましょうか」
あっさりと紳士の意思はイメルダへと傾く。
二人はまるで初々しい恋人のようだ。ピッタリ寄り添っている。アンサーが見たら、たちまち憤慨することだろう。
「イメルダ。待って。待ってちょうだい」
マチルダは手を伸ばして引き止めようとしたが、そんな彼女を擦り抜けて、イメルダは紳士と消えた。
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