50 / 114
魔の手
しおりを挟む
「いやああああ! 」
マチルダは、これでもかと叫んだ。
伯爵家の一室は、調度品に手抜かりがない。
室内は寒色系で統一され、紺青のカーテンやペルシャ絨毯は、まるで深い海の底に潜り込んでしまった錯覚さえ起こす。
壁に掛けられた絵画は新進気鋭の画家の作品らしい。
黄金色の髪が腰まで波打つ人魚が、豊満な胸を揺らして、今にもその歌声で人々を惑わせるようなリアリティがあった。
岩の上からこちらに向けた琥珀の眼差しは、妖しげな色香を漂わせている。
どことなく、人魚が自分に似ている。
ぼんやりとそう思ったときには、真後ろから物凄い力で押されて、マチルダの体は天蓋ベッドのスプリングで跳ね上がっていた。
「やだやだやだ! 退いて! 」
最高級のマホガニー製のベッドは、娼館の仮眠室の安ベッドとは違って、かなり暴れても軋み一つしない。
「大人しくしろ! この女! 」
覆い被って、酒と煙草と歯槽膿漏の混じる息をマチルダの鼻先に吹きながら、梟そっくりの男はいらいらと舌打ちした。
「紳士じゃなかったの! 」
生臭い息に耐え切れず、首を捻じ曲げて背くマチルダ。
自分よりも五センチは背が低いくせに、力は半端ない。マチルダの膝に体重を掛けて足の動きを封じ、両手首を掴んで拘束する。
マチルダは身動きすら出来ない。
かろうじて自由なのは首だけ。左右に動かして、生臭いキスを避ける。
「紳士だよ、私は。これでもメイソン伯爵家の四男だ」
「危害は加えないんでしょ! 」
「ノコノコと部屋に入って、何が危害だ! 同意したも同然だろうが! 」
「騙したわね! 」
「甘いんだよ、女! 」
容赦なく頬をぶたれる。
一発、二発。続けて三発目が入る直前、 マチルダは目を尖らせて男を睨みつけた。
その眼力の圧に、男は一瞬たじろぎ、振り上げた拳を宙空で止める。
「お前はアニストン家のマチルダだろう? 男を惑わせる淫乱女め」
「ぶ、無礼な! 」
「男なら誰でも良いくせに」
「やめて! 」
頬をぶつことを止めた手が、胸元へと伸びた。
胸元の布地を引っ張られる。
開き過ぎのデザインだから、呆気なくマチルダの白い乳房が晒されてしまった。
「いやあああ! 」
男がその白くたわむ乳房の、その中央にあるピンクの突起に向けて、長い舌を突き出す。
「ロイ! 助けて! 」
咄嗟にマチルダが叫んでいた。
「ロイ! 」
「マチルダ! 」
蹴破られたドアが、轟音を上げた。
あまりの勢いによって、蝶番の捻子が弾け飛ぶ。
ロイが肩をいからせ、ハアハアと荒々しく上下させながら、仁王立ちしていた。
マチルダは、これでもかと叫んだ。
伯爵家の一室は、調度品に手抜かりがない。
室内は寒色系で統一され、紺青のカーテンやペルシャ絨毯は、まるで深い海の底に潜り込んでしまった錯覚さえ起こす。
壁に掛けられた絵画は新進気鋭の画家の作品らしい。
黄金色の髪が腰まで波打つ人魚が、豊満な胸を揺らして、今にもその歌声で人々を惑わせるようなリアリティがあった。
岩の上からこちらに向けた琥珀の眼差しは、妖しげな色香を漂わせている。
どことなく、人魚が自分に似ている。
ぼんやりとそう思ったときには、真後ろから物凄い力で押されて、マチルダの体は天蓋ベッドのスプリングで跳ね上がっていた。
「やだやだやだ! 退いて! 」
最高級のマホガニー製のベッドは、娼館の仮眠室の安ベッドとは違って、かなり暴れても軋み一つしない。
「大人しくしろ! この女! 」
覆い被って、酒と煙草と歯槽膿漏の混じる息をマチルダの鼻先に吹きながら、梟そっくりの男はいらいらと舌打ちした。
「紳士じゃなかったの! 」
生臭い息に耐え切れず、首を捻じ曲げて背くマチルダ。
自分よりも五センチは背が低いくせに、力は半端ない。マチルダの膝に体重を掛けて足の動きを封じ、両手首を掴んで拘束する。
マチルダは身動きすら出来ない。
かろうじて自由なのは首だけ。左右に動かして、生臭いキスを避ける。
「紳士だよ、私は。これでもメイソン伯爵家の四男だ」
「危害は加えないんでしょ! 」
「ノコノコと部屋に入って、何が危害だ! 同意したも同然だろうが! 」
「騙したわね! 」
「甘いんだよ、女! 」
容赦なく頬をぶたれる。
一発、二発。続けて三発目が入る直前、 マチルダは目を尖らせて男を睨みつけた。
その眼力の圧に、男は一瞬たじろぎ、振り上げた拳を宙空で止める。
「お前はアニストン家のマチルダだろう? 男を惑わせる淫乱女め」
「ぶ、無礼な! 」
「男なら誰でも良いくせに」
「やめて! 」
頬をぶつことを止めた手が、胸元へと伸びた。
胸元の布地を引っ張られる。
開き過ぎのデザインだから、呆気なくマチルダの白い乳房が晒されてしまった。
「いやあああ! 」
男がその白くたわむ乳房の、その中央にあるピンクの突起に向けて、長い舌を突き出す。
「ロイ! 助けて! 」
咄嗟にマチルダが叫んでいた。
「ロイ! 」
「マチルダ! 」
蹴破られたドアが、轟音を上げた。
あまりの勢いによって、蝶番の捻子が弾け飛ぶ。
ロイが肩をいからせ、ハアハアと荒々しく上下させながら、仁王立ちしていた。
64
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる