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新しい生命
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淡々と診断名を告げて、医者が帰って行った。
アリアは頭がくらくらして、目の前が真っ暗になってしまった。
父が仕事で出掛けていたのが幸いだ。どのような顔で向き合えば良いかわからない。
「わ、私……どうすればいいの? 」
結婚もしていないうちから、新しい生命を授かってしまった。
貴族は性に奔放な割に、未婚での出産は忌み嫌う。そういった行為を好んでしているから、結果は付き纏うのに。そして泣き寝入りするのは、決まって女の方だ。
この世界は、未婚の母には厳しい。
しくしくとアリアは泣いた。
「大丈夫よ、アリア。私達がついているから」
イザベラはアリアを抱きしめると、優しく背中を撫でる。
「相手は誰? その方に報せないと」
「嫌よ。報せない」
ケイムに報せたところで、彼にはもう相手がいるに決まっている。
今更、覆せない。
関係を終わらせたのは、他ならぬ自分なのだから。
「相手は結婚出来ない方? 」
「……ええ」
「奥様がいるのね? 」
「いないわ」
「身分のせい? お父様は身分なんて気になさらないわよ」
「身分は申し分ないわ」
「だったら、どうして相手の名前が言えないの? 」
「どうしても言えないの」
まさか、家族が知り過ぎているケイムおじさまなんて、言えるわけがない。
「私、どうしても産みたいわ」
泣きながら、これだけは言わなければとアリアは口にする。
迷いはなかった。
こういった場合、内密に堕胎するのが常だ。極秘裏に手術を行う専門医がいるらしい。
きっと、アリアもそうしろと父は命令する。
父は、アリアに相応しい結婚相手を見つけることを使命としているから。
「大好きな人との子供よ。産んで、育てたいわ」
ケイムとの関係は終わってしまったが、彼が残してくれた命が芽吹いたのだ。
そのせいでアークライトの家族との絆が絶えてしまおうと。
育ててくれた父の恩を仇で返すことになろうと。
アリアのお腹の命も、かけがえのない家族だ。
「お願い、お母様」
「でもね、アリア」
「働くわ。働いて、子供を育てる」
「若いあなたが? 赤ちゃんを育てながら? 無理よ」
「働き口を探すわ。援助なんていらない。たとえ反対されても、産むわ」
「勿論、援助はするわよ。あなたの親なんだから。でもね、アリア。現実的に」
「産みたいの。好きな人の子供を」
イザベラの言葉を遮り、アリアは断言する。
アリアは自分の生い立ちもあり、周りの甘ったれた貴族の娘とは一線を画している。
肝が据わっているというか。
いつ、どのようなことにも対処出来るよう、家事炊事一通りはこなせる。
勉強嫌いだが、貴族の公用語と他言語の挨拶と一言二言の返しくらいは出来る。
イザベラが仕込んだ。
アリアは淑女として充分だ。
彼女は宣言通りに、一人で生きる力が備わってはいる。
だが、それを許すことなど出来るわけがない。
娘には幸せな人生を歩んでもらいたいに決まっている。
イザベラだって紆余曲折を越えて好きな人と添い遂げ、今に至る。
だからこそ、アリアの気持ちは痛いほど理解出来る。好きな人の子供は産みたい。
しかし、アリアはまだ十六歳。まだ未来はある。
そんな葛藤する母の気持ちを知りつつ、それでもアリアは意思を曲げるつもりはなかった。
アリアは頭がくらくらして、目の前が真っ暗になってしまった。
父が仕事で出掛けていたのが幸いだ。どのような顔で向き合えば良いかわからない。
「わ、私……どうすればいいの? 」
結婚もしていないうちから、新しい生命を授かってしまった。
貴族は性に奔放な割に、未婚での出産は忌み嫌う。そういった行為を好んでしているから、結果は付き纏うのに。そして泣き寝入りするのは、決まって女の方だ。
この世界は、未婚の母には厳しい。
しくしくとアリアは泣いた。
「大丈夫よ、アリア。私達がついているから」
イザベラはアリアを抱きしめると、優しく背中を撫でる。
「相手は誰? その方に報せないと」
「嫌よ。報せない」
ケイムに報せたところで、彼にはもう相手がいるに決まっている。
今更、覆せない。
関係を終わらせたのは、他ならぬ自分なのだから。
「相手は結婚出来ない方? 」
「……ええ」
「奥様がいるのね? 」
「いないわ」
「身分のせい? お父様は身分なんて気になさらないわよ」
「身分は申し分ないわ」
「だったら、どうして相手の名前が言えないの? 」
「どうしても言えないの」
まさか、家族が知り過ぎているケイムおじさまなんて、言えるわけがない。
「私、どうしても産みたいわ」
泣きながら、これだけは言わなければとアリアは口にする。
迷いはなかった。
こういった場合、内密に堕胎するのが常だ。極秘裏に手術を行う専門医がいるらしい。
きっと、アリアもそうしろと父は命令する。
父は、アリアに相応しい結婚相手を見つけることを使命としているから。
「大好きな人との子供よ。産んで、育てたいわ」
ケイムとの関係は終わってしまったが、彼が残してくれた命が芽吹いたのだ。
そのせいでアークライトの家族との絆が絶えてしまおうと。
育ててくれた父の恩を仇で返すことになろうと。
アリアのお腹の命も、かけがえのない家族だ。
「お願い、お母様」
「でもね、アリア」
「働くわ。働いて、子供を育てる」
「若いあなたが? 赤ちゃんを育てながら? 無理よ」
「働き口を探すわ。援助なんていらない。たとえ反対されても、産むわ」
「勿論、援助はするわよ。あなたの親なんだから。でもね、アリア。現実的に」
「産みたいの。好きな人の子供を」
イザベラの言葉を遮り、アリアは断言する。
アリアは自分の生い立ちもあり、周りの甘ったれた貴族の娘とは一線を画している。
肝が据わっているというか。
いつ、どのようなことにも対処出来るよう、家事炊事一通りはこなせる。
勉強嫌いだが、貴族の公用語と他言語の挨拶と一言二言の返しくらいは出来る。
イザベラが仕込んだ。
アリアは淑女として充分だ。
彼女は宣言通りに、一人で生きる力が備わってはいる。
だが、それを許すことなど出来るわけがない。
娘には幸せな人生を歩んでもらいたいに決まっている。
イザベラだって紆余曲折を越えて好きな人と添い遂げ、今に至る。
だからこそ、アリアの気持ちは痛いほど理解出来る。好きな人の子供は産みたい。
しかし、アリアはまだ十六歳。まだ未来はある。
そんな葛藤する母の気持ちを知りつつ、それでもアリアは意思を曲げるつもりはなかった。
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