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紋章の花
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「一瞬だったが。えらく装飾された銃だったかも知れん」
一同の視線がガルシアに集中する。
「いや。今になって記憶が蘇ってきたんだがな。確か蔓模様で、何かの紋章が入っていた」
ガルシアは身振り手振りで、その銃の形状を表現しようとするが、ピストルらしいこと以外わからない。
「どのような紋章か、思い出しませんか? 」
ルミナスの右隣に腰を降ろしていたイザベラが尋ねる。
「よくわからんが。ひらひらした花びらだった」
「ひらひら? 」
「こう、ひらひらとしてだな、シンメトリーになって、三枚あったか」
ガルシアは宙空で人差し指で描くものの、さっぱり形を掴めない。
ひらひらした三枚の花びらは何種類かありそうだが、誰も思い当たらず。
ガルシアはいちいち花の名前など暗記していない。
「絵は描けますか? 」
ルミナスの左隣にいるアリアが提案する。
すかさずメラニーが、ガルシアに紙とペンを差し出した。
「ああ。確か、こんな花で」
「パパったら。下手ねえ」
「うるさいぞ、メラニー」
記憶を辿りながら、よれよれの線が紙に引かれていく。
アリアは何とか形を成したそれに、花の名を当てた。
「スイートピーですね」
三枚の花びらといい、形といい、ミミズののたくる線画だが、おそらく間違いはないだろう。
「そんな名前の花か」
ガルシアが感心する。
「このような花の紋章を持つ家を探すしかないな」
ルミナスは難しい顔で唸った。
「わからないの? 」
アリアは困惑する。
物知りな父でもわからないとは。
「この国にどれくらい貴族がいると思っている? いちいち覚えてなどいない」
苛立たしげに父は言い返す。
王族公爵から男爵、一代男爵や騎士まで合わせると、この国の貴族は七百五十前後はいる。代々続く名家ならともかく、それぞれの紋章など把握しきれていない。
「ねえ、パパ。他に何か情報はないの? 」
メラニーが助け船を出す。
「他に? 」
ソファに凭れながら、ガルシアは太った首を捻って考え込んだ。
「以前、フレットウェル社を訪ねた際に、ジョナサン殿が何やら深刻な顔で手紙を読んでいたな。あのときの、吊り上がった目は珍しかったな」
「いつ? 」
メラニーが意外そうに声のトーンを上げる。
「銃で狙われる三日ほど前だ」
またしてもガルシアは、目線を左上へとずらした。
「確か、『敵は商売相手だけとは限りませんよ』だとか。『美しい奥方を迎えた代償ですよ』とも言っていたな」
敵は商売相手だけとは限らない。
美しい奥方を迎えた代償。
「ふむ。アリア絡みということか」
ルミナスが推測する。
「結論づけるのは時期早尚よ」
「そうだな」
アリアが脇から咎め、ルミナスは素直に頷いた。
「私も仕事仲間に聞いてみよう。ジョナサン殿を誰かが目撃していないか」
ガルシアはアリアの膨らんだお腹を眺め、気の毒そうに目を眇めた。
臨月間近で夫が行方不明になり、同情をしている。
アリアは泣き出したい気持ちを堪え、膝の上で拳を震わせた。
一同の視線がガルシアに集中する。
「いや。今になって記憶が蘇ってきたんだがな。確か蔓模様で、何かの紋章が入っていた」
ガルシアは身振り手振りで、その銃の形状を表現しようとするが、ピストルらしいこと以外わからない。
「どのような紋章か、思い出しませんか? 」
ルミナスの右隣に腰を降ろしていたイザベラが尋ねる。
「よくわからんが。ひらひらした花びらだった」
「ひらひら? 」
「こう、ひらひらとしてだな、シンメトリーになって、三枚あったか」
ガルシアは宙空で人差し指で描くものの、さっぱり形を掴めない。
ひらひらした三枚の花びらは何種類かありそうだが、誰も思い当たらず。
ガルシアはいちいち花の名前など暗記していない。
「絵は描けますか? 」
ルミナスの左隣にいるアリアが提案する。
すかさずメラニーが、ガルシアに紙とペンを差し出した。
「ああ。確か、こんな花で」
「パパったら。下手ねえ」
「うるさいぞ、メラニー」
記憶を辿りながら、よれよれの線が紙に引かれていく。
アリアは何とか形を成したそれに、花の名を当てた。
「スイートピーですね」
三枚の花びらといい、形といい、ミミズののたくる線画だが、おそらく間違いはないだろう。
「そんな名前の花か」
ガルシアが感心する。
「このような花の紋章を持つ家を探すしかないな」
ルミナスは難しい顔で唸った。
「わからないの? 」
アリアは困惑する。
物知りな父でもわからないとは。
「この国にどれくらい貴族がいると思っている? いちいち覚えてなどいない」
苛立たしげに父は言い返す。
王族公爵から男爵、一代男爵や騎士まで合わせると、この国の貴族は七百五十前後はいる。代々続く名家ならともかく、それぞれの紋章など把握しきれていない。
「ねえ、パパ。他に何か情報はないの? 」
メラニーが助け船を出す。
「他に? 」
ソファに凭れながら、ガルシアは太った首を捻って考え込んだ。
「以前、フレットウェル社を訪ねた際に、ジョナサン殿が何やら深刻な顔で手紙を読んでいたな。あのときの、吊り上がった目は珍しかったな」
「いつ? 」
メラニーが意外そうに声のトーンを上げる。
「銃で狙われる三日ほど前だ」
またしてもガルシアは、目線を左上へとずらした。
「確か、『敵は商売相手だけとは限りませんよ』だとか。『美しい奥方を迎えた代償ですよ』とも言っていたな」
敵は商売相手だけとは限らない。
美しい奥方を迎えた代償。
「ふむ。アリア絡みということか」
ルミナスが推測する。
「結論づけるのは時期早尚よ」
「そうだな」
アリアが脇から咎め、ルミナスは素直に頷いた。
「私も仕事仲間に聞いてみよう。ジョナサン殿を誰かが目撃していないか」
ガルシアはアリアの膨らんだお腹を眺め、気の毒そうに目を眇めた。
臨月間近で夫が行方不明になり、同情をしている。
アリアは泣き出したい気持ちを堪え、膝の上で拳を震わせた。
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