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嵐の前触れ
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「よお、色男。逢引きか? 」
土砂降りの予報で早々に山から引き揚げてきた坑夫が、通りがかりに軽口を叩いた。
「やめろ。それ以上余計なことを喋ったら、口を捻り潰すからな」
よもや、シェルビーが女であると口を滑らせたりはしないだろうが。
万が一がある。シェルビーは鳶のように眼光を尖らせる。
ガハハと坑夫はバカ笑い。バレそうでバレない秘密が楽しくて仕方ないらしい。
「これから飲みに行くからな」
「生憎だが、今日は休みだ」
「ああ、やっぱり」
いつもなら文句を垂れるところだが、今日はやけにあっさりしている。
「妙なやつらがうろついているからな」
「違う。雨予報だ」
シェルビーは訂正した。
「妙なやつらって? 」
が、聞き咎めて眉を寄せた。
「いかにも素性の悪そうなやつらだ。三人はいたか。女子供には念のため、家に閉じこもるよう伝えてある」
「その方が良いな」
開拓間もないこの土地には、国の目が届かず、無法者が集まって来る。取り締まるべき連邦警察も、まだ入っていない。
金を奪い、女を犯し、ピストルをぶっ放し、力を誇示する無法地帯だ。
幾らシェルビーが町を守っているといえど、限度がある。
ふと、頬を何かが弾いた。
それは一つ、二つと増し、その感覚が短くなっていく。
「雨だ! 」
昼間からと読んでいたのに。
読みが外れたことが悔しくて唇を噛めば、あっという間に雨の粒が矢のように体を打ち、水煙が上がった。
きゃあきゃあと、次々に窓が閉じられていく。
不意に目の前が白く光った。
間を置かずに響いた轟音。
「何やってるんだ! 」
雷がもう近くに迫っている。
突然のことに対処し切れず、ぼんやりと空を見上げるザクシスにシェルビーが声を張り上げた。
愚図愚図していたら、雷に打たれてしまいかねない。
「死ぬぞ! 」
シェルビーの怒鳴り声に、やっと意識をこっち側へ戻したザクシスは、大きく首を縦に降る。
雨の勢いはどんどん増して、地面を容赦なく叩きつける。あっという間にぬかるみとなった。泥が跳ね上がり、一丁裏が台無しだ。
だが、そんなことには構っていられない。
雷鳴は、がんがんと鼓膜を打つ。
頭から叩きつける雨が全身の熱を奪い、ガタガタと体中を震わせた。
腹を抉るほどの雷鳴が天を貫く。
より一層、雨が勢いづいた。
光が二人の影を濃くする。
死ぬぞ、との台詞は脅しではない。
「走れ! 」
短くザクシスに命じ、シェルビーは走った。
ぬかるみを蹴る音がすぐ後に続く。
ザクシスは、ちゃんとシェルビーの言いつけを守っている。
だから彼女は振り向きもせず、ひたすら走った。
『ザ・パレス』のスイングドアがこれでもかと激しく前後した。
走って走って、とにかく走って、店に飛び込むなりシェルビーは前のめりに倒れそうになった。
危うく額を硬い板間に打ちつけそうになったとき、真後ろから物凄い力で引かれる。
そのままシェルビーは傾いて、後頭部がごつんと何かにぶつかった。
ザクシスの鍛え抜かれた腹筋だった。
互いにずぶ濡れで、服の色は濃くなり、ピタリと生地が肌に張り付いて、体のラインが丸わかりだ。ザクシスの胸や、臍の形まで透けてしまっている。
ゼイハアと肩を上下させ、シェルビーはずぶ濡れのスカーフを取り払う。口や鼻に布が張り付いて、呼吸がままならなかった。
シェルビーは大きく息を吸った。
と、ザクシスが目をこれでもかと見開き、充血していることに気づいた。
シェルビーはとっくにザクシスの胸元から抜け出していたが、彼はまだ彼女の肩を支えた手つきのまま、固まっている。
「何だ? どうした? 」
彼の視線が一点に集中している。
シェルビーはその目線を辿るなり、飛び上がった。
ぐっしょりと濡れた自分のシャツに、膨らんだ胸の形そのままが浮き出していたからだ。
しかも、ハナから店を開ける予定はなく、会うのは親友だけだからと、今日はビスチェさえつけてはおらず。
シェルビーの両胸の乳首の形まで露わになっていた。
「何てことだ! 」
ザクシスは叫んだ。
土砂降りの予報で早々に山から引き揚げてきた坑夫が、通りがかりに軽口を叩いた。
「やめろ。それ以上余計なことを喋ったら、口を捻り潰すからな」
よもや、シェルビーが女であると口を滑らせたりはしないだろうが。
万が一がある。シェルビーは鳶のように眼光を尖らせる。
ガハハと坑夫はバカ笑い。バレそうでバレない秘密が楽しくて仕方ないらしい。
「これから飲みに行くからな」
「生憎だが、今日は休みだ」
「ああ、やっぱり」
いつもなら文句を垂れるところだが、今日はやけにあっさりしている。
「妙なやつらがうろついているからな」
「違う。雨予報だ」
シェルビーは訂正した。
「妙なやつらって? 」
が、聞き咎めて眉を寄せた。
「いかにも素性の悪そうなやつらだ。三人はいたか。女子供には念のため、家に閉じこもるよう伝えてある」
「その方が良いな」
開拓間もないこの土地には、国の目が届かず、無法者が集まって来る。取り締まるべき連邦警察も、まだ入っていない。
金を奪い、女を犯し、ピストルをぶっ放し、力を誇示する無法地帯だ。
幾らシェルビーが町を守っているといえど、限度がある。
ふと、頬を何かが弾いた。
それは一つ、二つと増し、その感覚が短くなっていく。
「雨だ! 」
昼間からと読んでいたのに。
読みが外れたことが悔しくて唇を噛めば、あっという間に雨の粒が矢のように体を打ち、水煙が上がった。
きゃあきゃあと、次々に窓が閉じられていく。
不意に目の前が白く光った。
間を置かずに響いた轟音。
「何やってるんだ! 」
雷がもう近くに迫っている。
突然のことに対処し切れず、ぼんやりと空を見上げるザクシスにシェルビーが声を張り上げた。
愚図愚図していたら、雷に打たれてしまいかねない。
「死ぬぞ! 」
シェルビーの怒鳴り声に、やっと意識をこっち側へ戻したザクシスは、大きく首を縦に降る。
雨の勢いはどんどん増して、地面を容赦なく叩きつける。あっという間にぬかるみとなった。泥が跳ね上がり、一丁裏が台無しだ。
だが、そんなことには構っていられない。
雷鳴は、がんがんと鼓膜を打つ。
頭から叩きつける雨が全身の熱を奪い、ガタガタと体中を震わせた。
腹を抉るほどの雷鳴が天を貫く。
より一層、雨が勢いづいた。
光が二人の影を濃くする。
死ぬぞ、との台詞は脅しではない。
「走れ! 」
短くザクシスに命じ、シェルビーは走った。
ぬかるみを蹴る音がすぐ後に続く。
ザクシスは、ちゃんとシェルビーの言いつけを守っている。
だから彼女は振り向きもせず、ひたすら走った。
『ザ・パレス』のスイングドアがこれでもかと激しく前後した。
走って走って、とにかく走って、店に飛び込むなりシェルビーは前のめりに倒れそうになった。
危うく額を硬い板間に打ちつけそうになったとき、真後ろから物凄い力で引かれる。
そのままシェルビーは傾いて、後頭部がごつんと何かにぶつかった。
ザクシスの鍛え抜かれた腹筋だった。
互いにずぶ濡れで、服の色は濃くなり、ピタリと生地が肌に張り付いて、体のラインが丸わかりだ。ザクシスの胸や、臍の形まで透けてしまっている。
ゼイハアと肩を上下させ、シェルビーはずぶ濡れのスカーフを取り払う。口や鼻に布が張り付いて、呼吸がままならなかった。
シェルビーは大きく息を吸った。
と、ザクシスが目をこれでもかと見開き、充血していることに気づいた。
シェルビーはとっくにザクシスの胸元から抜け出していたが、彼はまだ彼女の肩を支えた手つきのまま、固まっている。
「何だ? どうした? 」
彼の視線が一点に集中している。
シェルビーはその目線を辿るなり、飛び上がった。
ぐっしょりと濡れた自分のシャツに、膨らんだ胸の形そのままが浮き出していたからだ。
しかも、ハナから店を開ける予定はなく、会うのは親友だけだからと、今日はビスチェさえつけてはおらず。
シェルビーの両胸の乳首の形まで露わになっていた。
「何てことだ! 」
ザクシスは叫んだ。
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