クトゥルフの雨

海豹ノファン

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インスマスの影

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ーーー

「あれ?ここは…」

薬品と言うのか、アルコールっぽい臭いが鼻をつく。

「病院かしら…?」

私は最初そこにいる場所が病院では無いかと思った。

薬品ぽい匂いが鼻をつき、何かの治療に使われているとされる器具、そして何やら難しげな厚い本が置いてある。

しかし私はすぐさま自身がおかしな事になっているのに気づく。

「あれ…?私手足を拘束されているっ!?」

そう、私の手足には枷《かせ》がかけられており、身動きが出来なくなっていた。


『目を覚ましたかね?』

そこで、人間のものとは言いがたい声が日本語で私に語りかけているのが聞こえ、ある人物がカーテンを開いて私はその姿を見て更に驚いた。

「!!!」

なんと入ってきたのは爬虫類のような緑色の鱗に覆われたような目がギョロっとして口の裂けたような顔の人物が白衣を纏って現れた。

「あわわ…」

私はその姿におぞましさを覚えた。

『そんなに怖がらなくても私はお前を殺しはしない、それどころか君を助けてあげたいのだ』

男は私を安心させるように言うがその顔でそんな事言われても信じられる筈がない。

『私は遥か古《いにしえ》に沈没したとされる「ルルイエ」族の末裔、我々ルルイエ族は日本に戦争を持ちかけさせ、日本に多大な損害を与えてしまった、その為神からこの姿に変えられたが…立派な人間なのだよ』

半魚人の男はこう言う。
ルルイエ族って何なの?
この男訳の分からないこと言ってるけどそんなの信じられる筈ないじゃない!

『いきなり言われても信じられないだろうね、今我々は人間の肉体を若返らせ活気を与える薬を開発したのだ』

男はそう言って薬を持ち出す。

「私を人体実験しようっての?」

私はゴポゴポと踊るその薬とおぞましい顔をした半魚人に恐れを抱き放つ。

『人体実験とは人聞きの悪い、人類開発プログラムと言ってくれたまえ!』

そう言って半魚人は液体の入ったコップを私に飲ませようとする。

嫌!まりりんか結愛ちゃん助けて!

『まだ信じてくれていないようだね?』

当たり前よ!そんな夢話みたいな話…誰が信じると言うの!?

『宜しいならば教えよう…』

半魚人は目を細めて言葉を紡いだ。

『我々は世界を混乱させたせいで神々の怒りに触れ、このような姿に変えられ、地上で過ごす事が許されなくなった、その罪滅ぼしの為に我々は人を更に進化させる新人類プロジェクトを施行中なのだ!』

益々言ってる事がわからない!

『何言ってもわからないか…おおよそわかってはいたが…我々ルルイエの民と君達日本人は考え方があまりにも違いすぎる…』

半魚人は溜息を漏らした。
そして半魚人は液体の入った瓶をちらつかせる。

『これを飲むと良い…毒は入ってないしこれを飲めば君にも特別な力が手に入る!』

「いや、やめて!」

私は首をブンブンと振り拒否をする。
特別な力?それって人間を捨てるって事じゃないの!

『わからん奴だ!』

半魚人は手のひらを広げてそれを私に突き出し、そこから光を発した。

ビリリッ!

私の体が動かなくなる。
桜さん…助けて!

私は半魚人の変な能力によって大口を広げ天井を向いたままの姿勢にされ、液体の薬を飲まされた。

に…苦い。

『刺激が強すぎたか…しかし良薬口に苦しと人間の諺《ことわざ》にもあるだろう、じきに効果が現れる…』

「こ…効果って…あっ!」

私は体の奥底から血が駆け巡ってくるような感覚を覚える。
力が湧いてくると言うのか…私の手足を拘束している頑丈な鉄枷をも打ち破れるような感じが私を襲ってきた。

『どうだ…力が湧いてくるだろう…試しに君を縛りつけている鉄の枷を打ち破ってみせるが良い!』

「そ…そんな事…!」

『ものは試しだ、やってみるが良い!』

議論するよりやってみろって事?
やってやろうじゃないの!

「本当でしょうね?ギギギ…っ!」

私は縛りつけている鉄枷をぶち破らんと力を込めた。

ギリギリ…地面を固定している鉄枷が少しずつ破られていく手応えを感じる。

これはいけるかも知れない!

「ニギギ…っ!」

私は歯を食いしばり更に力を込めた。

ブチンっ!!

私は全身に血管が浮き出んほどに力を踏ん張り、ようやく鉄の地面を打ち付けていた鉄枷は外れ、腕を動かせるようになった。

『見事だ!これで君は「インスマス」として生まれ変わった!』

「い…インスマス?」

『ルルイエ語で「進化した者」の意だ!これで君は人間より一歩進化した!君の望む「正義」の施行も思うがままだ!』

何も言っていないのにこの半魚人、「正義」と言う言葉を使い出した。

「あ、あなた心が読めるの!?」

『我々ルルイエ人は心を読む事も出来る、君は望んでいただろう、正義の味方となる事を!』

それは勿論そうだ。

『しかしまだ完全では無い…君に眠るその力を引き出す方法をこれから教えよう!』

半魚人はこのように言い出した。

『申し遅れたが私の名はハートンだ、覚えておくが良い!』

半魚人改めハートンは私に力を引き出す極意を授けてくれた。

それには座学の他体を激しく動かすような武術も含まれていたが何故か今の私には苦にならなかった。

最も、苦痛に感じなかったのは体を動かす事だ。
45歳でしかも女性の私には信じられない程の身体能力を身につけていて自分でも恐ろしい程だった。

その代わり、座学はさほど頭に入らなかった。
何でこの歳で勉強しなければならないんだと言う気持ちが強かったからだ。

頭が良ければ警官にでもなっていただろう。
しかし面倒くさい事の嫌いな私には無理だ。
今はそんな事言える状況ではなく覚えるまで徹底的に頭に叩き込まれた。

そして二ヶ月程経って私はようやく解放された。
正義の味方になるんだからもう仕事もする必要ない。

「え?仕事辞めちゃうの!?」
「はい、他の仕事見つかりましたし」

正義の味方になれば給料はハートンさんが負担してくれるらしいし、こんな仕事もする必要無いでしょう。

「考え直してくれないかね、君がいないと困る」

お気持ちは有難いが二足のわらじを履く程の元気は有り余っていない。

私は無理を行って会社を去った。
さあこれから第二の人生のはじまりよ!
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