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(今年度からクラスメイトになった井狭貫はちょっと……いや、かなり変だ)
時刻は三時を少し過ぎ。そろそろ授業も終わりそうな時間だった。
西鹿高校二年の御先常唯はまとわりついてくる眠気を振り払いながらぼんやりしていた。
頬杖をついた常唯の視線の先には窓際の、端の席に座った井狭貫が居る。
(……転校してしばらく経つのに、まだ誰とも喋ってんの見たことないんだよなぁ……)
ちょうど斜め前の席にいるクラスメイトの井狭貫は、綺麗な姿勢で黒板を見つめている。
窓辺の白いカーテンに反射して、元から白い彼の顔は更に真白に見えていた。
井狭貫キナキは常唯の学年が上がって少し経った頃、この高校に転校してきたのだ。
しかしそろそろ二か月くらい経つというのに、未だ誰とも喋っている所を見たことが無い。
いや、連絡事項等で喋っているのは見かける。
それ以外の、いわゆる交流のためにクラスメイトや誰かしらと喋っている様子が一切ないのだ。
(それどころか……)
『ね、またどっか見てるよ井狭貫くん……』
『やっぱり噂ってホントなのかなぁ?』
現在クラスメイトの口に上っているように転校生・井狭貫キナキには『おかしな噂』があった。
(ホントかねぇ……幽霊が見えるなんて、さ)
常唯だって信じている訳ではなかった。
教室に居る時、キナキ自身は読書をしていたり、ただぼうっとしていることも多いのだが、わいわいやかましい同級生たちに比べて大人しいもので、いずれの場合も喋らないのは同じだ。
しかし今現在噂し合っている女子たちの言う通り、キナキ一人なのに誰かと喋っているところを見かけた、と言う人間が多く居るらしい。それもまた事実だった。
―キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、本日最後の授業も終わった。
掃除とホームルームさえ終われば、教室内の生徒たちも三々五々に散っていく。この次は部活だ。
それが、ごくごく一般的な高校二年生である御先常唯の日常だった。
常唯はふるると身を震わせ、ぐうっと背伸びする。
もう既に井狭貫キナキの姿は無くなっていた。
(気になるんだよなぁ……まあ一人が好きなら構うのも変というか迷惑だろうけど…………あ)
ふと窓の下を見れば、キナキのつむじが見えた。
キナキはやっぱり一人で帰っている。
(部活とか、入んねぇのかな)
「御先~。何ボーっとしてんだ? 部活行くぞー」
気づけば同じ剣道部の部員だが隣のクラスに所属している生徒が二人、教室の入り口に立っていた。
呼ばれた常唯も立ち上がってそちらを見る。
「あ、うん!」
「珍しいな。どうした?」
「悩みごと?」
「あー……いや、何でも」
別に知られたくないわけではなかったが、曖昧に笑って話を誤魔化してしまった。
しかしどやどやと入って来た二人は、同じように常唯の肩口からひょいと下を覗き込む。
「んんー? アレって確か~」
「転校生じゃね?」
「そうそう。誰だっけ?」
「何か変わった苗字の……イサヌキだっけ?」
「あ、それだ。イサヌキがどうかしたのか?」
好奇心旺盛な部活動仲間に苦笑しつつ、常唯も窓下に視線を戻す。
けれども既に井狭貫の姿は無くなっていた。
「あー……いや。何か一人だなーって思って」
「一人が好きなんじゃね?」
「やっぱり?」
「ってかイサヌキってアレだろ。お化けが見えるとかっていう……」
やはり時季外れの転校生は珍しいようで、隣の教室でも噂になっているらしい。
「じゃアレかな。竹割屋敷のも見えるんかな」
「……竹割屋敷ってアレか。通学路にあるヤツ」
「そうそう」
常唯もその、竹割屋敷の噂は聞いたことがあった。
もう何年も無人になっている日本屋敷だが殆ど廃屋化しており、時折屋敷の奥から竹を割るような、不思議な物音が聞こえてくるという話だ。
幽霊やお化け等の姿を見た者は居ないが、近くにそんな音を発するような建物や施設もないため、下は保育園児や高校生、大人まであまり近付かないという、いわゆる心霊スポット的な場所だ。
「でもアレ、空気の流れが~とかそういうヤツなんだろ? 自然現象的な……」
「え? いや知らん」
「知らんのかい!」
剣道部員の二人はケラケラ笑いながら竹刀袋を背負い直して御先の肩を叩く。
「もう行こうぜー」
「遅れたら大目玉だぞう」
「あ、悪い」
常唯も教室後ろに置いていた竹刀袋を背負い、鞄を手に後を追う。
ちらりと振り返った窓からは、眩しい夕日が射し込んでいた。
—数時間後。
剣道部の練習が終わり、日もとっぷりと暮れ始める頃。
そこそこ練習に慣れてきたとは言え常唯の身体は空腹を訴えていた。
(なんか買い食いして帰ろっかー……ん?)
「……井狭貫?」
時刻は三時を少し過ぎ。そろそろ授業も終わりそうな時間だった。
西鹿高校二年の御先常唯はまとわりついてくる眠気を振り払いながらぼんやりしていた。
頬杖をついた常唯の視線の先には窓際の、端の席に座った井狭貫が居る。
(……転校してしばらく経つのに、まだ誰とも喋ってんの見たことないんだよなぁ……)
ちょうど斜め前の席にいるクラスメイトの井狭貫は、綺麗な姿勢で黒板を見つめている。
窓辺の白いカーテンに反射して、元から白い彼の顔は更に真白に見えていた。
井狭貫キナキは常唯の学年が上がって少し経った頃、この高校に転校してきたのだ。
しかしそろそろ二か月くらい経つというのに、未だ誰とも喋っている所を見たことが無い。
いや、連絡事項等で喋っているのは見かける。
それ以外の、いわゆる交流のためにクラスメイトや誰かしらと喋っている様子が一切ないのだ。
(それどころか……)
『ね、またどっか見てるよ井狭貫くん……』
『やっぱり噂ってホントなのかなぁ?』
現在クラスメイトの口に上っているように転校生・井狭貫キナキには『おかしな噂』があった。
(ホントかねぇ……幽霊が見えるなんて、さ)
常唯だって信じている訳ではなかった。
教室に居る時、キナキ自身は読書をしていたり、ただぼうっとしていることも多いのだが、わいわいやかましい同級生たちに比べて大人しいもので、いずれの場合も喋らないのは同じだ。
しかし今現在噂し合っている女子たちの言う通り、キナキ一人なのに誰かと喋っているところを見かけた、と言う人間が多く居るらしい。それもまた事実だった。
―キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、本日最後の授業も終わった。
掃除とホームルームさえ終われば、教室内の生徒たちも三々五々に散っていく。この次は部活だ。
それが、ごくごく一般的な高校二年生である御先常唯の日常だった。
常唯はふるると身を震わせ、ぐうっと背伸びする。
もう既に井狭貫キナキの姿は無くなっていた。
(気になるんだよなぁ……まあ一人が好きなら構うのも変というか迷惑だろうけど…………あ)
ふと窓の下を見れば、キナキのつむじが見えた。
キナキはやっぱり一人で帰っている。
(部活とか、入んねぇのかな)
「御先~。何ボーっとしてんだ? 部活行くぞー」
気づけば同じ剣道部の部員だが隣のクラスに所属している生徒が二人、教室の入り口に立っていた。
呼ばれた常唯も立ち上がってそちらを見る。
「あ、うん!」
「珍しいな。どうした?」
「悩みごと?」
「あー……いや、何でも」
別に知られたくないわけではなかったが、曖昧に笑って話を誤魔化してしまった。
しかしどやどやと入って来た二人は、同じように常唯の肩口からひょいと下を覗き込む。
「んんー? アレって確か~」
「転校生じゃね?」
「そうそう。誰だっけ?」
「何か変わった苗字の……イサヌキだっけ?」
「あ、それだ。イサヌキがどうかしたのか?」
好奇心旺盛な部活動仲間に苦笑しつつ、常唯も窓下に視線を戻す。
けれども既に井狭貫の姿は無くなっていた。
「あー……いや。何か一人だなーって思って」
「一人が好きなんじゃね?」
「やっぱり?」
「ってかイサヌキってアレだろ。お化けが見えるとかっていう……」
やはり時季外れの転校生は珍しいようで、隣の教室でも噂になっているらしい。
「じゃアレかな。竹割屋敷のも見えるんかな」
「……竹割屋敷ってアレか。通学路にあるヤツ」
「そうそう」
常唯もその、竹割屋敷の噂は聞いたことがあった。
もう何年も無人になっている日本屋敷だが殆ど廃屋化しており、時折屋敷の奥から竹を割るような、不思議な物音が聞こえてくるという話だ。
幽霊やお化け等の姿を見た者は居ないが、近くにそんな音を発するような建物や施設もないため、下は保育園児や高校生、大人まであまり近付かないという、いわゆる心霊スポット的な場所だ。
「でもアレ、空気の流れが~とかそういうヤツなんだろ? 自然現象的な……」
「え? いや知らん」
「知らんのかい!」
剣道部員の二人はケラケラ笑いながら竹刀袋を背負い直して御先の肩を叩く。
「もう行こうぜー」
「遅れたら大目玉だぞう」
「あ、悪い」
常唯も教室後ろに置いていた竹刀袋を背負い、鞄を手に後を追う。
ちらりと振り返った窓からは、眩しい夕日が射し込んでいた。
—数時間後。
剣道部の練習が終わり、日もとっぷりと暮れ始める頃。
そこそこ練習に慣れてきたとは言え常唯の身体は空腹を訴えていた。
(なんか買い食いして帰ろっかー……ん?)
「……井狭貫?」
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