【創作BL】竹割屋敷の怪

入相海

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ちょうど児童公園の前を通りがかった時だった。
夕日に染まった公園には誰も居ないように見えたが、古びたブランコには井狭貫キナキが座っていた。
キナキはブランコを漕ぐでも無ければスマホを見ているわけでも無く、ブランコの鎖を掴んでぼーっとしている。
思わず声をかければ、キナキも顔を上げた。

「何やってん……」

ふっと顔を上げたキナキの目を見た常唯の足が止まる。
―夕日の影が落ちたキナキの両目は、不思議な黄色に染まっていた。
それはまるで黒猫のようでいて、暗闇で見る人ならざるナニカのような。
びっくりした常唯は声を上げる。

「エッ!? めっ、目!! オイッ大丈夫か!?」

常唯はキナキに駆け寄り、がしっと両肩を掴む。
慌てて顔を覗き込めば……

「……あ、あれ?」

キナキの目はいつものぼんやりとした黒目だった。
黒猫でも無ければ鬼のようなモノでも無い。

(え、あれ? 見間違いか……?)

「……いたい」
「あ、ごめん」

か細いキナキの声にハッとする。
反射的に掴んでいた肩から手を離して頭を下げる。……近くで見たキナキは随分と華奢だった。
キナキの肩の感触にどこか胸がざわついた気がして、その感覚を振り払うように手を下げた。

「えーと……井狭貫は何してんの?」
「……何にも」
「誰か待ってるとか?」

何度か拳を握り直しながら尋ねると、キナキはふるふると首を振った。口は真一文字で、やっぱり目は眠たげにぼんやりとしている。

(……何だか、子供みたいだな)

そんなキナキのどことなく幼い仕草に、常唯の心臓がぎっと軋んだような気がした。

「んん……?」

先ほどからの妙な感覚に首を傾げるが、そんな常唯を見てキナキも首を傾げる。
まるで某ソーラー人形のようなキナキの様子にふっと笑みがこぼれた。

(何かぽやっとしてんな、井狭貫って)

「……き、は……?」
「へっ?」

(今のって、キナキが喋った……んだよな?)

キナキは真ん丸な黒い瞳でじっと常唯を見ている。
思わず常唯も見つめ返すと、小さな唇が開いた。

「……御先は?」
「え」

まさか自分の名前を知っているとは思わなかった常唯は目を丸くした。
キナキはと言うとぼんやりと不思議そうに首をかしげている。

「なに?」
「や、えーっと! ……オレの名前。知ってたんだな~って思って」
「……ああ。うん。一応」

しかしそれ以上の言葉が続かない。
二人の間に妙な沈黙が落ちる。

(気まずいっつーか……何だろうなこの感じ)

口に出来ない妙な感覚だった。もやもやとして、形にならない類の。でも決して嫌な感覚では無かった。
何だか落ち着かなくなった常唯は頭を振る。

「あー……っと。ごめん、何だっけ?」
「……御先は、部活?」
「あ、そうそう。よく分かったな」
「竹刀袋……」
「ああ、それもそうか」

そこでまた、会話が途切れてしまう。
常唯は頭を掻く。井狭貫は気まずく思っているのか分からないが、やはり独特の間がある。

(……いやまあ、せっかくだし。断られたらそん時はそん時ってことで)

「あのー……さ。良かったら一緒に帰んねぇ? 井狭貫と喋ってみたかったし」
「……僕と?」

目をぱちぱちと瞬かせて、不思議だと言わんばかりの井狭貫に大きく頷いてみせた。

「そう、井狭貫と! 井狭貫が嫌じゃなかったらだけど。どう?」
「……ん。分かった」

ポツリと言って、キナキは立ち上がる。
常唯はそんなキナキの返事にホッとしつつ、竹刀袋を握り直した。

やはり口数は多く無いようで、キナキはあまり喋らなかった。
学校は楽しい?にはうん。
購買にはもう行った?もうん。
体育の授業、疲れたよなーにもうん。
全部がはいかいいえで終わってしまう。
それを歯がゆく思いながら、二人っきりで帰っている。

(ただ、会話が嫌な訳じゃなさそう……?)

キナキは『うん』か『ううん』しか言わないが、考える間があったりする。
常唯自身三人兄妹の長男と言うこともあり、返事こそ淡泊なものの、キナキは一生懸命考えて喋っているのだろうことは伝わっていた。

「んで! 購買にある幻のクッキーシュークリームパンってさ~……あ」
「ん……?」

ピタ、と足が止まる。
そこはちょうど、部活前に喋っていた竹割屋敷の前だった。
二階建ての日本家屋は相当古いようで、夕日を背にして黒々とそびえる瓦屋根はかなり不気味に見えた。
木と漆喰で出来た棟門の向こう、庭先にはそこそこ雑草が生い茂っていて、しばらく誰も出入りしていないことは明白だ。
足を止めた常唯に釣られたようにキナキも立ち止まる。

「ああ、えっとー……竹割屋敷って言う廃屋。ちょっと有名なんだけど、知ってる?」
「……」
「何か、奥から竹を割るような音が聞こえてくるからそう呼ばれるようになったんだって」
「……ふうん」
「気になる?」

キナキは黙ったまま、ぽっかり開いた門を見つめている。
そのまま視線がすうっと奥に向く。
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