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第69話「”十三厄災(ゾディアック)“⑩」
しおりを挟む五月二十二日(日)十一時七分 T県・某廃墟
「まぁ、連中の相手はあたしらに任せて、お前らは好き勝手やっててくれよ。欲望の赴くまま、情念の乱れるままに、さ。」
得意気に、特異気に、せせら笑う荒神。
自らの異質さを特別だと考える心理は、さながら無邪気な子供のようだが、彼女の齢はとうに二十代半ばを過ぎている。
これは異常だ。
精神年齢が一定値で止まっている。
停止している。
これまでの人生、歩んできた足跡、経験。
それらをもってしても彼女の精神になんら揺らぎを与えるには至らなかった証。
素晴らしい。
「野原の部隊は確かに彼らの相手に適しているね。」
薄く笑うのはタクト。
『パンドラの箱』を率いる指揮者。
神託の御子。
調律者、メトロノーム。
「おいおい余裕そうだねぇ~。もしかしたら、お前が色々企んでるうちに、あたしらが全部終わらせちまうかもしれねぇんだぜ?」
「ふふ。」
挑発する荒神に、タクトは静かに答える。
「もしもそうなったとしたら…彼らはそれまでの存在でしかなかったということだ。大丈夫。僕たちにはなんの支障も影響もきたさない些事さ。」
「ふーん。」
文字通り、牙を剥いて笑う荒神。
白い八重歯が粒のような光を反射させる。
各地で騒ぎを起こし、さりげなく『パンドラの箱』の存在を匂わせる。
そして、匂いに釣られた奴ら“人間心理専門学校”の連中を待ち構えて逆にこっちが一網打尽にする。
確かに、荒神の部隊には適任の仕事だろう。
“十三厄災“の、タクトと俺を除いた十一人は”災厄の天導球“から七、八人の部下を率いている。
とある分野に特化した性質、性癖の者が、似た性質、似た性癖の者を率いる。
それによって、各部隊には得意な役割がはっきりと色濃く反映されるようになった。
荒神の部隊には、主に戦闘に特化した印象を受ける能力者が多く在籍しているように思う。
彼女も含めて。
荒神の部隊ならば、あるいは本当に……。
とはいえ、奴らと相対するということは、即ち能力者と相対するということだ。
能力者同士の戦いにおいては、戦闘特化だとかは、ほんの僅かな勝ち筋程度にしかならない。
どんな“性癖”にも、どんな性癖にも、相性というものがある。
どれほど優れた能力だろうが、それだけで勝てるほど甘くないのが世の中だ。
そもそもにおいて、”変態性“だとか”性癖“だとかは、己の満たされない欲求を満たす為に存在している。
それを戦闘面でのみ評価するというのがそもそもの間違いなのだ。
だが、その間違いを、その不自然を、自然のままありのままに行える人物。
それが、この年端もいかぬ少年、神代託人だ。
さっきも言ったように、彼は指揮者であり調律師。
生まれついてのカリスマにとって、効率的に不自然を刷り込むことなど容易い。
今現在もつつがなく進行しているこの会議にしたってそうだ。
会議とは名ばかり、さして内容のないただの駄弁り場。
目新しい情報といえば、彼が“錠”と接触を図ろうとしていることくらいだろう。
そんな場ですら、彼にとっては空気を操る絶好の舞台装置と化す。
彼の思惑通りに人間を操るための。
「さて。」
ひとしきり『会議』も進んだところで、タクトは徐に立ち上がった。
「僕はそろそろ戻るよ。“錠”からはなるべく目を離したくないしね。だから、しばらくこっちには顔を出せそうにない。その間、こっちの指揮は任せたよ、望。」
綺麗な、一かけらの濁りもない純朴な瞳。
その奥に宿る狂気の炎。
「えぇー……」
あからさまに、露骨な嫌悪感を示す姫百合。
「仕方ないだろ。俺に割り当てられた役割は参謀なんだから。」
仕方ない、か。
随分と手垢のついた、聞き飽きた言葉だ。
姫百合の不満に対して、動いたのはタクトだった。
三歩前に出て、仰々しく両手を広げる、芝居がかった動き。
「それじゃあ、みんな。普通とされている人間たちに見せつけようじゃないか。彼らが目を逸らし、虚構として扱ってきた禁忌。箱に押し込められていた災厄が、八十八の星となって地上に降り注ぐ様を、ね。」
これも、芝居がかった台詞。
全ては姫百合を黙らせ、自身が想い描いた図を完成させるため。
事実、彼のわざとらしいこの言動に大抵の人間は骨抜きにされるだろう。
そういう性質がこの少年にはある。
一部を除いて、ね。
思わず零れそうになった笑みを堪える。
俺にはお前の芝居は通用しない。
お前の存在は、通用しない。
それでも、随分と気持ちのいい思いをさせてもらってるぜ。
“災厄の天導球“も、”十三厄災“も、そして勿論、神代託人、お前も。
俺にとっては『パンドラの箱』の全てが素晴らしい観察対象だ。
俺の”変態性“に従った、出来の良い素材。
ああ…愉しい。
お前は、どうなんだ?
内水は相も変わらずそっぽを向いている。
お前も俺と同じ、除かれた一部なんだろ?
気付かないとでも思ったか?
お前の、“鍵”と接触を図って以降の不自然な様子に。
お前は普段の言動、特に戦闘時のネジの飛びようから誤解されがちだが、実は冷静沈着でとても頭のいい人間だ。
だから、迂闊な真似はしない。
気付かれないだろうさ。
相手が俺でなけりゃあな。
迂闊な真似を避ける、という迂闊な真似。
お前は冷静で頭がいいが、迂闊な人間だ。
教えてくれよ。
今、お前は何を考えている?
落ち着き払ったその眼で、何を想っている?
時は遡って、真希老獪人間心理専門学校の職員室にて。
一人きりの空間を占領しつつ、下田従士はひたすらに白いだけの天井を眺めていた。
「はぁ~あ…。いやーんなっちゃうよねー、ほんと。」
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