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第71話「少年は被害妄想を爆発させる」
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我先にと、競い合うように後金と共に教室へとゴール・イン。
「セーッフ!」
野球の審判のような動作で騒ぐ木梨さん。
授業こそ始まったものの、どうもどうやら下田先生はまだ来ていないらしい。
二人そっと胸を撫で下ろし、各々席へと座る。
「なーに? 二人してうんこ?」
「女の子がうんことか言うなっ! うんちって言え!」
歯を見せてからかう木梨さんに、見当違いなツッコミを入れる後金。
うんちもどうかと思うぞ?
「間に合ってよかったね。頑張って走ってきてえらいぞ♪」
「えへへ。」
まりあさんの笑顔に、俺の表情も綻んでしまう。否、心までも綻んだ。
隣の席の女神さまは相変わらず女神さまだ。
「あ……」
「?」
思わず声が出てしまい、慌ててまりあさんから目を逸らす。
そういや、後金はまりあさんを好きになるのはやめておけとか言ってたよな。
結局、あれはどういう意味だったんだ?
というか、今更できないよ。
改めて自分の気持ちに気付いたら、隣に座ってるだけで心臓バックバクなんだもの。
破裂寸前なんだもの。
心臓の音が聞こえていないか、横目でまりあさんを見る。
芸術的美しさだ。
好きになるなって方が無理あるだろ、こんなに優しくて綺麗な女神さまを。
……待てよ。
優しくて綺麗……この上なく完璧なこの人を、好きになっているのは俺だけか?
そんなわけがない。
当然、この人を好きになる男は腐るほどいるだろう。
もうありえないくらいモテモテのはずだ。
ってことは、もう彼氏がいたっておかしくはない。
いや、彼氏がいない方がおかしいだろ。
待て待て待て。
まずいぞ、これ以上考えるな。
いや、でも、そうなると、この人の彼氏に選ばれるくらいの男だ。
全てにおいて完璧なのは、論理的帰結というものだろう。
オナニーしか能のない俺では、到底敵うことのない化物超人なんだろう。
やばい、泣きそうになってきたぞ。
落ち着け。
もうこの事を考えるのはよそう。
一旦な、一旦。
あれ、でも、後金は俺の為だとかも言ってたよな?
ってことは、なんだ?
もしかして、まりあさんの彼氏って、俺の知ってる奴ってことか?
俺とまりあさんの共通の知り合いなんて、しかも男なんて、五人しか知らないぞ。
その内、学長と教師陣二人は除けるとして(除けなかったらそれこそ大問題だ。いや、この学園なら有り得るか?)、そうなると容疑者は早くも二名に絞られる。
後金…はないから(失礼すぎる)、……そうなると、残る容疑者は既に一名のみ。
……嵐山楓ぇ…お前かぁ……。
確かにあの野郎はイケメンだし、頭も良いし、運動神経も良い。
三I(イケメン、頭良い、運動神経良い)揃っちまってんじゃねぇかよぉぉぉぉぉ。
なんてことだ!
くそっ!
やられたっ!
後金にバレてるんだ。
きっと俺がまりあさんを好きなことは、この教室中に知れ渡ってしまっている。
ってことは、ああ…なんてことだ。
きっとみんな、今も心の中で俺を笑ってるんだ。
あいつ、俺が忠告してやったのにまだ心音のこと好きでいるよ。
かわいそー。楓っちみたいなイケメンにお前みたいなのが敵うわけないじゃん。ご愁傷様ー。
あいつ、俺の女に手を出す気マンマンだな。まぁ、負ける気も負ける要素も一切ないわけなんだが。
私の事好きだなんて、ちょっとは身の程ってものをわきまえて欲しいよね。私は楓くんみたいな完璧イケメンにしか興味ないんだから…。オナニー狂いのキモ男が気安く好意を抱いていい相手じゃないことくらい察してよね。つーか、さっきから臭いんだよ。息すんな。
ああああああああああ。
聞こえる、みんなの心の声が聞こえる! ※被害妄想です。
辛い!
ここにいるの辛い!
今すぐここから逃げたいよぉ。
具合悪いって言って保健室に避難しようかなぁ……。
頭を抱えていると、授業開始から数分遅れでようやく下田先生が到着した。
くそっ。これで逃げられねぇ。
下田先生は振り乱した長髪を整えもせず、教卓に手を置いて元気いっぱいに声を上げた。
「みんな、“NTR”って知ってるかい?」
「な……」
なんつータイムリーな話題なんだっ!
五月二十二日(日)十一時六分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室
「えぬてぃーあーる……? なにそれ?」
木梨さんが小首を傾げる。
頭にハテナマークが浮かんでいるのが見えた。
「神室君、知ってるかい?」
下田先生に指名される。
なんで俺に振った⁉
「えぇっと……」
とにかく動揺を隠そう。
落ち着こう。
深呼吸しよう。
あれ、これ普通にバレね?
「“NTR”っていうのは寝取られ……つまり、自分の恋人、妻などのお互いに好意を抱き合ってる人物、愛を誓い合った人物を、第三者との肉体的交配から来る快楽によって、体のみならず心までも奪い取られていく、という状況に性的興奮を覚える性癖、のことです。」
「せいかーい。」
微笑む下田先生。
なにヘラヘラしてんだ⁉
「流石だな。」
こっちも見ずに呟く嵐山。
あぁん⁉
何が流石なんだ⁉
おい、この野郎!
「セーッフ!」
野球の審判のような動作で騒ぐ木梨さん。
授業こそ始まったものの、どうもどうやら下田先生はまだ来ていないらしい。
二人そっと胸を撫で下ろし、各々席へと座る。
「なーに? 二人してうんこ?」
「女の子がうんことか言うなっ! うんちって言え!」
歯を見せてからかう木梨さんに、見当違いなツッコミを入れる後金。
うんちもどうかと思うぞ?
「間に合ってよかったね。頑張って走ってきてえらいぞ♪」
「えへへ。」
まりあさんの笑顔に、俺の表情も綻んでしまう。否、心までも綻んだ。
隣の席の女神さまは相変わらず女神さまだ。
「あ……」
「?」
思わず声が出てしまい、慌ててまりあさんから目を逸らす。
そういや、後金はまりあさんを好きになるのはやめておけとか言ってたよな。
結局、あれはどういう意味だったんだ?
というか、今更できないよ。
改めて自分の気持ちに気付いたら、隣に座ってるだけで心臓バックバクなんだもの。
破裂寸前なんだもの。
心臓の音が聞こえていないか、横目でまりあさんを見る。
芸術的美しさだ。
好きになるなって方が無理あるだろ、こんなに優しくて綺麗な女神さまを。
……待てよ。
優しくて綺麗……この上なく完璧なこの人を、好きになっているのは俺だけか?
そんなわけがない。
当然、この人を好きになる男は腐るほどいるだろう。
もうありえないくらいモテモテのはずだ。
ってことは、もう彼氏がいたっておかしくはない。
いや、彼氏がいない方がおかしいだろ。
待て待て待て。
まずいぞ、これ以上考えるな。
いや、でも、そうなると、この人の彼氏に選ばれるくらいの男だ。
全てにおいて完璧なのは、論理的帰結というものだろう。
オナニーしか能のない俺では、到底敵うことのない化物超人なんだろう。
やばい、泣きそうになってきたぞ。
落ち着け。
もうこの事を考えるのはよそう。
一旦な、一旦。
あれ、でも、後金は俺の為だとかも言ってたよな?
ってことは、なんだ?
もしかして、まりあさんの彼氏って、俺の知ってる奴ってことか?
俺とまりあさんの共通の知り合いなんて、しかも男なんて、五人しか知らないぞ。
その内、学長と教師陣二人は除けるとして(除けなかったらそれこそ大問題だ。いや、この学園なら有り得るか?)、そうなると容疑者は早くも二名に絞られる。
後金…はないから(失礼すぎる)、……そうなると、残る容疑者は既に一名のみ。
……嵐山楓ぇ…お前かぁ……。
確かにあの野郎はイケメンだし、頭も良いし、運動神経も良い。
三I(イケメン、頭良い、運動神経良い)揃っちまってんじゃねぇかよぉぉぉぉぉ。
なんてことだ!
くそっ!
やられたっ!
後金にバレてるんだ。
きっと俺がまりあさんを好きなことは、この教室中に知れ渡ってしまっている。
ってことは、ああ…なんてことだ。
きっとみんな、今も心の中で俺を笑ってるんだ。
あいつ、俺が忠告してやったのにまだ心音のこと好きでいるよ。
かわいそー。楓っちみたいなイケメンにお前みたいなのが敵うわけないじゃん。ご愁傷様ー。
あいつ、俺の女に手を出す気マンマンだな。まぁ、負ける気も負ける要素も一切ないわけなんだが。
私の事好きだなんて、ちょっとは身の程ってものをわきまえて欲しいよね。私は楓くんみたいな完璧イケメンにしか興味ないんだから…。オナニー狂いのキモ男が気安く好意を抱いていい相手じゃないことくらい察してよね。つーか、さっきから臭いんだよ。息すんな。
ああああああああああ。
聞こえる、みんなの心の声が聞こえる! ※被害妄想です。
辛い!
ここにいるの辛い!
今すぐここから逃げたいよぉ。
具合悪いって言って保健室に避難しようかなぁ……。
頭を抱えていると、授業開始から数分遅れでようやく下田先生が到着した。
くそっ。これで逃げられねぇ。
下田先生は振り乱した長髪を整えもせず、教卓に手を置いて元気いっぱいに声を上げた。
「みんな、“NTR”って知ってるかい?」
「な……」
なんつータイムリーな話題なんだっ!
五月二十二日(日)十一時六分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室
「えぬてぃーあーる……? なにそれ?」
木梨さんが小首を傾げる。
頭にハテナマークが浮かんでいるのが見えた。
「神室君、知ってるかい?」
下田先生に指名される。
なんで俺に振った⁉
「えぇっと……」
とにかく動揺を隠そう。
落ち着こう。
深呼吸しよう。
あれ、これ普通にバレね?
「“NTR”っていうのは寝取られ……つまり、自分の恋人、妻などのお互いに好意を抱き合ってる人物、愛を誓い合った人物を、第三者との肉体的交配から来る快楽によって、体のみならず心までも奪い取られていく、という状況に性的興奮を覚える性癖、のことです。」
「せいかーい。」
微笑む下田先生。
なにヘラヘラしてんだ⁉
「流石だな。」
こっちも見ずに呟く嵐山。
あぁん⁉
何が流石なんだ⁉
おい、この野郎!
応援ありがとうございます!
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