75 / 186
第75話「自己の恋人、または伴侶が無断で性行為を行った第三者に身心を奪われることによって発生する性的興奮・快楽に関する授業④」
しおりを挟む「さて、縄文時代の話をする前に…なんだけどー。」
先生が教卓に両の手を乗せ、自身の全体重を預けて、言い放つ。
「男は女に勝てない!」
至極真面目に真っ当な、真剣そのものに細い目を光らせる下田先生。
急に何言ってんだこの人。
「それは先生の趣味なのでは?」
冷めきった目で先生を見据える嵐山。
なんつー目をするんだこの男は。
……ん? 先生の趣味?
「ち…がーっう‼」
大仰に両手を広げ、髪を振り乱して首を横に振る先生。
テンションが高くて不気味すぎる。
「いいかい⁉ 地球上における雌雄異体の生物種の中で、雄の立場が雌よりも上だ…と言われているのは我々人類だけなんだ! 他の生物はみな、雌の方がより優位な立場にある! 寿命は長く、体力もあり、例えばカマキリのメスなんてオスよりも体が大きく、交尾中にオスを頭から噛り付いて食べてしまうんだ! オスカマキリは童貞を卒業したら食われて死ぬ! 愛する者に食われて死ぬ! それはそれで幸せな結末なのかもしれないが…いいやとんでもなく不幸で可哀相な結末だ!」
ほんと何言ってんだこの人⁉
「人類に語り継がれている神話においては、人類初の女性は人類初の男性の肋骨から創り出されたと謂われているが、実際にはその逆だとされている! 女性の体を基に男性の体が創られた、という説が最もポピュラーだ! 事実、男性の体には本来必要のない女性特有の器官が退化して残っているかのような痕跡がいくつか見つかっているからだ! 乳首なんかが代表例だ(性感帯としては十分機能しているが)! 自然界、他の動物種たちはみな、それが事実であるかのように、メスのためにオスが存在しているような生態を有している! 自然界の掟がその説を肯定しているんだ! 人類だけなんだよ! オスが先だと言っているのは!」
圧倒的熱意、他の追随を許さぬ情熱をもって、先生は早口でまくし立てる。
暑苦しくてうざったいことこの上ない。
「数十年前より、男女平等の実現に向けて人類は動き出した! しかし、それは本来間違った考えだ! 地球上の生物はみな、男女不平等でなくてはならないんだ! 勿論、男ではなく、女性が上! 女性が優位の社会形態だ! 女性を男に合わせる⁉ 否! 男が女性を懸命に追いかけるべきなんだ! 人類はずっと間違っている!」
目を伏せ、教団の上をうろうろ、行ったり来たりしている。
「なぜ、こんな間違いが生まれたのか! 生まれてしまったのか! そこで縄文時代だ! 縄文時代、人類は生きるため、生き残るために食料の確保に二通りの方法を考えた! それが植物を育て食物を作り上げる農耕と、他生物を狩りとり食物を奪い取る狩猟だ! この方法にどういうわけか人類は! 農耕に女性を充て、狩猟に男性を充てた! これが間違いの始まり! 全ての始まりだったんだ! ……今、どういうわけかと言ったけれど、これもまた自然の摂理だったのだろう。狩猟という危険な仕事を女性に割り振れば、女性という貴重かつ重要な性を失う恐れがある。仮に女性を全て失えば、その後の繁殖も事実上不可能となり、人類はそう遠くない未来に絶滅していただろうからね。本能寺の変も無血革命もモーゼの奇跡も月面着陸もカラーテレビも二度目の日本オリンピックも女子テニス世界ランキング一位もなにもかもがなかっただろう。その気になれば女性のみでも妊娠は可能だと、最新の科学は説いている。原始的だからこそ、太古の人類はそれを理屈ではなく本能で理解していたのかもしれないね。」
……台詞なげぇよ。
俺の心の声に、しかし全く気付く様子もなく(当然だ)、下田先生は独自の解釈による文字通りの持論かつ自論を展開していく。
「……長くなってしまったけれど、何が言いたいかと言うと、このようにして人類は、男性の方が力を持ち、男性の方が権力を持ち、今の今まで生存し続けてきたわけだ。戦争、政治、社会奉仕……およそこの世の重大要素全ての中枢に男性が居座り続けたまま、ね。だからこそ、人類のその遺伝子にも刻み込まれているんだ。男性の方が上だ、と。」
急に静かな口調で語り始める。
情緒の上下にまったくついていけてないが……なるほど、そういうことか。
「そして、大正時代や戦後に話を戻すと…当然、人類はこの誤った遺伝子の記憶、間違いを繰り返し続けたまま、それらの時代を迎えている。だからこそ、当時の村の権力者なんかも男性だ。権力を持つ男性は、自らの性欲からくる本能と遺伝子の記憶からくる本能を結び付けてしまった。そうしてできたのが、“夜這い”の風習、因習だよ。」
「あくまでも僕の個人的な考えだけれど、ねー。」と言って、そこまで言ってようやく一区切りをつけた……と思いきや、先生はまたしても続けて口を開いてしまった。
正直、話を聞き続けているのがしんどくなってきたぞ。
「当人の息子や村の若者……つまりは自身の支配下にある男性が性的快楽、種の繁殖行為を行える時、それはつまり、自分も同じ快楽を得るチャンスだ。……そう解釈した我々の祖先たる男性は、まったく疑う余地も躊躇う理由もなく、この穢れた因習を作り上げた。しかも、村の権力者が夫婦の性活を滞りなく行うために手取り足取り一から性交を手ほどきするという名目の“処女権”や“初夜権”なら、他の者を置いて自らが一番にその女性から性的快楽を得た——という優越感、その後に他の者に渡ろうとも、結局は最初が自分、即ち最後まで自分の物だ、あくまでも心は自分の物だ——という自己顕示欲、所有欲も同時に満たせる。ほんと、人間はずる賢いというか、良くできたシステムだよねー。」
先生はそこまで一息で語りつくした。
そしてこれで、今度こそやっと、ようやく一区切り。
御清聴、ありがとうございました。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる