アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第77話「時に少年は、食事処にて友人の冷淡さに食らいつく」

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  五月二十二日(日)十二時十分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室

 二限目の授業も終わり、下田先生も教室を退散していった。
 昼休み。
 たんまり一時間も休んでいいらしいその時間だが、そういや昼飯のことを考えていなかった。
 前に校舎内を軽く案内してもらった時、食堂があるのを教えてもらった。
 多分今もやっているだろうが(やっていなきゃおかしいと思う)、しかし一人で行くのには勇気のいる場所だ。
「なぁ、後金。食堂行こうぜ。」
 前の席で鞄から弁当が入っている包みを取り出している後金に声をかけてみる。
 振り返った後金は、申し訳なさそうに眉を下げていた。
「悪ぃ。折角なんだけど、俺、昼は一人で飯食う派なんだ。」
 そう言って、再び前を向いた後金は、いそいそとスマホを取り出した。
 ……ストーキング、か。
 邪魔するのも悪いと思い(それはそれで悪い事のような気がする)、今度は嵐山を誘おうと横を向く。
「………。」
 しかし、そこに嵐山の姿は無く、主を失った机が寂しそうに置かれているだけだった。
 そして、横を向いている俺の背後からは、まりあ様と木梨さんが談笑しながら弁当をつついている声が聞こえてくる。
 女子二人をご飯に誘えるほど俺のナンパスキルは高くない(まりあ様がいることは全く関係ない。本当だ。)。
 仕方ない。
 少し寂しいけど、一人で食堂に行くか。
 食堂までの道は、ちょっと怪しいけど大体なんとなくふんわり覚えている。
 記憶を頼りに進むこと五分ほどで、一安心。
 迷うことなく、食堂と書かれた札を掲げる扉の前まで到着した。
 ガラス張りの扉を開け、中に這入る。
 例によって白を基調とした壁や天井。茶色い木製の床に、薄茶色の、これまた木製の長机に椅子が並んでいる。
 しかし、長机も椅子もそう数は多くない。
 この新校舎が出来上がった経緯を考えれば当然だろう。
 実際、今いる利用者もまばらだ。ほとんどいない。
 入り口入って左奥に、受付と書かれた張り紙を貼っているカウンターがあった。
 近づくと、奥に立っていたおばちゃんがにこやかに対応してくれた。
 割烹着を着た、どこにでもいそうな、これといった特徴のない普通のおばさんだ。
 俺の顔を見て、すぐに食堂の利用が初めてであることを察してくれて、おばちゃんは食堂の利用方法を一から丁寧に説明してくれた。
 説明通り、カウンターに置かれているメニュー表に目を通す。
 ハンバーグ定食と書かれているのを見て、迷わずそれを注文。
 おばちゃんは温かい微笑みを浮かべると、奥に消えていった。
 そして、五分も経たずに白い湯気を沸かせている白飯、同じく温かそうなみそ汁、そして軽いサラダに美味しそうなハンバーグをお盆に載せて運んできてくれた。
 和風ソースがかかっているハンバーグ。
 おばちゃんによると、かかっているソースは日替わりらしく、今日は和風ソースだが、チーズや目玉焼きの日もあるらしい。
 これからがかなり楽しみだ。
 お盆を受け取り、さて、どこに座ろうかと辺りを見回す。
 今現在、椅子に座ってご飯を食べているのは三人だけで、しかも一グループ。
 それに対して、席はかなり余っている。
 どこに座ってもいいが、逆にそうなると迷いが生じるのが人間というものだ。
 より良い場所を探す欲が生まれてしまう。
 あそこのグループがいる席に近いところは一応よしとくか。
 知らない人しかいないし……上級生かな?
 グループには、男が二人と、一人、目立つ金髪の女性がいる。
 随分綺麗な、モデル顔負けの顔立ちだ。
「おい、あまりジロジロ見るな。」
 不意に、背後から聞こえてきたのは嵐山の声。
 振り返ると、やはり嵐山が、カレーライスを載せたお盆を持って立っていた。
 いないと思ったら、お前も食堂に来てたのか。
「嵐山……。」
「あの人たちは二年の先輩だ。目を付けられるぞ。」
 それだけ言って、嵐山はさっさと手頃な席に着く。
 俺も後を追って、向かいの席に腰掛けた。
「おい、なんでこっち座るんだよ。」
 露骨に不満を露わにする嵐山。
「いいじゃん別に。俺たち友達だろ?」
「お前……やっぱ図々しいわ。」
 嵐山は熱そうにしながらも、湯気立つカレーにさっさと手をつけてしまった。
 早く食って俺から離れる気満々だ。
 こうも冷たくされると普通に傷つくなぁ……。
 さっきは優しくしてくれたのに。
「お前さぁ、ずっと思ってたんだけど、ちょっと冷たいよな。いや、かなり冷たい。もう少し距離感縮めてくれても良くね? 仲良くしようぜ。」
「お前の距離感が近すぎるんだよ。」
 カレーを口に運びつつの短い反論。
 傷つくを通り越して少し腹が立った。
「嵐山。お前、もう少し人との付き合い方見直した方がいいぞ。面が良いから、それでも女は寄ってくるんだろうが、心からの友達はそんなんじゃあ絶対できないね。男女の友情は成立しない派なんだ、俺は。」
 つい口調に苛立ちが混じってしまった。
 だが、嵐山はそんなこと気にも留めず、俺を見すらもせずに言う。
「必要ない。」
 カッチーン。
「お、ま、え、なぁ……」
「やー、二人とも。相変わらず仲良いねー。」
 危うく立ち上がり、詰め寄りかけた俺を止めるかのように声が割り込んできた。
 嵐山のではない声。
 見ると、そこには弁当を持参した下田先生が立っていた。
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