アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

文字の大きさ
104 / 186

第104話「少年は力任せに嘘を吐く」

しおりを挟む

  五月二十九日(日)十六時三十二分 豊島区・光が丘公園

 あれから少しして、木梨さんが戻ってきた。
 何をしていたのかは知ってしまっていたので、訊く気にもなれず、何となく誰も話さない無言タイムが続いた。
 何をしていたのか訊いた方が自然だったと気が付いた時には、タイミングを失ってしまった感が否めなく、そもそも知ってて訊いたら嫌らしいし、いやらしいし、ただのセクハラなのでは? と思ったりもして。
 でも、その事について一切考えないこともできなく、パンツに染みがついていく感触をちんこの先端で味わっていた丁度その時。
 遠くから、五人の人影が見えた。
「やー、みんなお待たせー。みんな大好き痴漢先生だよーん。」
 片手を上げて、満面の笑みで歩いてくる下田先生。
 激闘の後だからか、この人の笑顔がそうさせるのか、なんだか一気に力が抜けていった。
 そして。
 そしてそして。
「シュウ君! 楓君!」
 女神が降臨なさった。
 甲斐甲斐しく走っていらっしゃる真の女神・心音まりあ様。
「まりあ様! よくぞご無事で!」
 まりあ様に走らせては失礼極まりない。
 まりあ様の下まで駆けていく。
「それはこっちの台詞だよぉ! ううん…シュウ君、全然無事じゃないよぉ!」
 はうぅぅっ!
 優しく抱き寄せ、胸元に顔を埋めてくれる。
 どこまで女神なんだこのお方は!
「いえいえっ! 全然げっ…んん……全然無事でございますよ! はっはっは!」
 よし、吐血はこらえた。
 今血を吐いたら、まりあ様のご尊顔を下賤な赤で染めてしまうことになる。
 それ以前に、御心配をおかけしてしまう。
 これ以上は、ダメ、ゼッタイ。
「強がり……」
 顔を上げたまりあ様は、目から大粒の涙を零していた。
「あばら、折れてるでしょ?」
 ぎくっ。
 やっぱり折れてたか、よりも先に、何故バレた? が出た。
「前にも言ったでしょ? 強がることはかっこいいけれど…それで死んじゃったら、かっこ悪いよ。甘えることも覚えなきゃだめだぞ。」
 柔らかい紅葉が、俺の頭を撫でる。
 慈愛の抱擁。
「はああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ‼」
 まりあさ…まりあさ…まりあ様ああああああああああああああああ‼
 はあああああああああああああああ‼
 はあああああああああああああああああああああああああああああああ‼
「ほらほら、二人ともー」
 唐突に手を叩いて水を差してくる下田先生。
「嵐山くんの応急処置も始まったから、神室くんもこっちおいでよー。」
 二人と一緒にやってきた三人の刑事さんたち(さっきの刑事さんたちとは別の方たち)が、嵐山の足を手当てしていた。
 刹那の至福、刹那の抱擁から引き剥がされ、先生たちの下へ行く。
 下田先生は、俺の姿を見ると、あたかも今思い出したかのようなアクションをわざとらしく行った。
「ああ…そう言えば、神室くんには応急処置も何も必要なかったよねー。だって、戦ったってことは、僕の言いつけ通り無傷を貫いたんだろう? 勝てたってことは、それだけ相手が弱かったってことだもんね? あれれー? 変だなー? それなのに、なんでこうもボロボロなんだい? まるで、相手の攻撃を一切防げずにボコボコにされたみたいだよー?」
「……っ!」
 ここまで白々しいわざとらしさを、俺はコ●ン君以外知らない。
 というか、そうだよ。そうだった。
 敵と交戦する時は一発も攻撃を受けない。
 そんな約束を、確かに交わしてるんだよ。
 さて、どうする?
 どう誤魔化す?
「……ボコボコ? 何言ってるんです? ボコボコになんてされてないですよ。約束通り無傷ですよ。これ全部泥です。」
 ついて出た嘘は、どう頑張っても嘘そのものだった。
「ふーん……」
 先生が、少し愉しそうに口元を歪める。
 サディストか。
「じゃあ、この切傷は何だい? 血が滲んでるけど。」
 俺の頬のあたりを指さす先生。
「……これですか? かまいたち現象ですよ。最近乾燥肌が酷くて……男でも肌には気遣わないといけないですねー。あははー。」
 肌以上に笑いが乾いていた。
「? お前、先生と何か約束してたのか?」
 手当を受けている嵐山が俺たちの会話に混ざってくる。
「そうなんだよー。今回、敵と戦うにあたって一つルールを決めててねー。それが、敵の攻撃を一発も受けないっていうものなんだけどー。」
 両手を広げる先生。
 嵐山は首を傾げた。
「あれ? お前、初っ端からいきなり殴られて」
「どぉどぉどぉどぉ! いきなり殴られたってなに⁉ あれ相殺したんですけど⁉ 頭突きで相殺したんですけど⁉ なんなら、あの後も攻撃全部相殺してましたし⁉ 実質ノーカンですから! ノーカンですから!」
「あ、ああ…そう……」
 圧に圧されたか、先生は後ずさった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...