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第104話「少年は力任せに嘘を吐く」
しおりを挟む五月二十九日(日)十六時三十二分 豊島区・光が丘公園
あれから少しして、木梨さんが戻ってきた。
何をしていたのかは知ってしまっていたので、訊く気にもなれず、何となく誰も話さない無言タイムが続いた。
何をしていたのか訊いた方が自然だったと気が付いた時には、タイミングを失ってしまった感が否めなく、そもそも知ってて訊いたら嫌らしいし、いやらしいし、ただのセクハラなのでは? と思ったりもして。
でも、その事について一切考えないこともできなく、パンツに染みがついていく感触をちんこの先端で味わっていた丁度その時。
遠くから、五人の人影が見えた。
「やー、みんなお待たせー。みんな大好き痴漢先生だよーん。」
片手を上げて、満面の笑みで歩いてくる下田先生。
激闘の後だからか、この人の笑顔がそうさせるのか、なんだか一気に力が抜けていった。
そして。
そしてそして。
「シュウ君! 楓君!」
女神が降臨なさった。
甲斐甲斐しく走っていらっしゃる真の女神・心音まりあ様。
「まりあ様! よくぞご無事で!」
まりあ様に走らせては失礼極まりない。
まりあ様の下まで駆けていく。
「それはこっちの台詞だよぉ! ううん…シュウ君、全然無事じゃないよぉ!」
はうぅぅっ!
優しく抱き寄せ、胸元に顔を埋めてくれる。
どこまで女神なんだこのお方は!
「いえいえっ! 全然げっ…んん……全然無事でございますよ! はっはっは!」
よし、吐血はこらえた。
今血を吐いたら、まりあ様のご尊顔を下賤な赤で染めてしまうことになる。
それ以前に、御心配をおかけしてしまう。
これ以上は、ダメ、ゼッタイ。
「強がり……」
顔を上げたまりあ様は、目から大粒の涙を零していた。
「あばら、折れてるでしょ?」
ぎくっ。
やっぱり折れてたか、よりも先に、何故バレた? が出た。
「前にも言ったでしょ? 強がることはかっこいいけれど…それで死んじゃったら、かっこ悪いよ。甘えることも覚えなきゃだめだぞ。」
柔らかい紅葉が、俺の頭を撫でる。
慈愛の抱擁。
「はああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ‼」
まりあさ…まりあさ…まりあ様ああああああああああああああああ‼
はあああああああああああああああ‼
はあああああああああああああああああああああああああああああああ‼
「ほらほら、二人ともー」
唐突に手を叩いて水を差してくる下田先生。
「嵐山くんの応急処置も始まったから、神室くんもこっちおいでよー。」
二人と一緒にやってきた三人の刑事さんたち(さっきの刑事さんたちとは別の方たち)が、嵐山の足を手当てしていた。
刹那の至福、刹那の抱擁から引き剥がされ、先生たちの下へ行く。
下田先生は、俺の姿を見ると、あたかも今思い出したかのようなアクションをわざとらしく行った。
「ああ…そう言えば、神室くんには応急処置も何も必要なかったよねー。だって、戦ったってことは、僕の言いつけ通り無傷を貫いたんだろう? 勝てたってことは、それだけ相手が弱かったってことだもんね? あれれー? 変だなー? それなのに、なんでこうもボロボロなんだい? まるで、相手の攻撃を一切防げずにボコボコにされたみたいだよー?」
「……っ!」
ここまで白々しいわざとらしさを、俺はコ●ン君以外知らない。
というか、そうだよ。そうだった。
敵と交戦する時は一発も攻撃を受けない。
そんな約束を、確かに交わしてるんだよ。
さて、どうする?
どう誤魔化す?
「……ボコボコ? 何言ってるんです? ボコボコになんてされてないですよ。約束通り無傷ですよ。これ全部泥です。」
ついて出た嘘は、どう頑張っても嘘そのものだった。
「ふーん……」
先生が、少し愉しそうに口元を歪める。
サディストか。
「じゃあ、この切傷は何だい? 血が滲んでるけど。」
俺の頬のあたりを指さす先生。
「……これですか? かまいたち現象ですよ。最近乾燥肌が酷くて……男でも肌には気遣わないといけないですねー。あははー。」
肌以上に笑いが乾いていた。
「? お前、先生と何か約束してたのか?」
手当を受けている嵐山が俺たちの会話に混ざってくる。
「そうなんだよー。今回、敵と戦うにあたって一つルールを決めててねー。それが、敵の攻撃を一発も受けないっていうものなんだけどー。」
両手を広げる先生。
嵐山は首を傾げた。
「あれ? お前、初っ端からいきなり殴られて」
「どぉどぉどぉどぉ! いきなり殴られたってなに⁉ あれ相殺したんですけど⁉ 頭突きで相殺したんですけど⁉ なんなら、あの後も攻撃全部相殺してましたし⁉ 実質ノーカンですから! ノーカンですから!」
「あ、ああ…そう……」
圧に圧されたか、先生は後ずさった。
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