アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第105話「男女平等に関する考察」

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  五月二十九日(日)十七時四十七分 国道○○号線・車内

 その後、警察の車で送られ、無事埼玉駅まで戻ってきた。
 先生と刑事さんたちが軽くなにかを話した後(距離があったから聞こえなかった)、みんなで先生の車に乗り込んだ。
 後部座席には、嵐山を真ん中に、まりあ様と木梨さんがそれぞれ両隣に、助手席に俺が乗り、運転席には当然、下田先生が乗り、車は学校へ向けて発進した。
 俺がまりあ様の隣に乗りたかったが、重傷を負っている嵐山の手前、我儘は言えなかった(多分、嵐山が軽傷でも我儘は言えなかっただろう。俺ってシャイだし)。
 先生も、嵐山の身を案じてか、信じられないくらいの安全運転で車を走らせている。
 そんな、平和な車中。
「女性が優遇され過ぎている・・・・・社会、ねー。痴漢くんはそんな事を言ってたわけかー。」
 運転中、バックミラー越しに後ろを覗く先生。
 嵐山の容態……というよりは、デリケートな話題に対する女性陣の反応を窺っているのだろう。
「信じらんないですよね! わけわかんない理屈並べて、自分の行いを正当化したいだけですよ、あんなの!」
 ぷんすか怒る木梨さん。
 「信じらんない」「わけわかんない」か……。
「うーん……」
 難しそうな顔をして、難しそうな声を出す先生。
「痴漢の戯言、と一蹴してしまうのは簡単だけれど……残念だけど、そう言った意見を唱える人は一定数いるんだよねー。」
「えぇっ⁉」
 大声を張り上げて木梨さんは驚いた。
 オーバーリアクション…ではないんだろうなぁ、多分。
「実際、女性のみ、ってパターンは日常生活でも見かけるでしょ? 女性専用…女性用化粧室の隣には男女共用化粧室…とかねー。男性専用はないけど、女性専用はある。そういうところに男としてのプライドを傷つけられたと一部の男性は感じるみたいなんだ。」
「そんなことに目くじら立てられても……ねぇ、神室っちとかもそんな風に思ってるの?」
「えっ⁉ 俺っ⁉」
 急に話を振られてビビった。
 というか、どうも他人同士の会話には聞きに徹する癖があるな、俺。
「別に普段、意識したりしてなかったな。」
 けど。
 けど、痴漢野郎の話を全く理解できなかったわけではないし、それどころか……
「まぁ、男が男みんながそう思ってるわけではないんだけどねー。この手の意見は声が大きくなるか、声が大きく聞こえがちだからねー。どうしても突出した、総合の意見のように感じられてしまうんだよね。」
「ふーん。」
 バックミラー越しに見える木梨さんは、声の通り納得のいっていない顔をしている。
「実際のところ、現社会は女性が優遇されているのでしょうか?」
 小さく手を挙げて(可愛い)、まりあ様が質問する(美しい)。
 揺れないなぁ、女神様は……。
「現状を受け取る人それぞれの主観的要素が多分に含まれている問題だからねー。難しいけれど……僕の主観が多分に含まれている、限りなく客観視したと考えている意見でいいのなら、それは「ない」、と思うよー。」
 ハンドルを握りながら、先生は人差し指を立てる。
「女性が優遇されて男のプライドが傷ついている…と感じる段階で、失われた男性利権主義を復活させようとしている意志が垣間見える……と、僕は考えている。元々はこうだった、でも、やられたからやり返す、でも、無意識の内にそういう意思が働いているんじゃないのかなー。」
 そう…なのだろうか。
 そう、かもしれない。
 そうじゃないのかもしれない。
「大事なのは、お互いがお互いを想い遣る心、だと思うよー。」
「心、ですか?」
 両手の指を合わせるまりあ様。
 尊い……。
「そう。」
 車は右折のウィンカーを出し、そののちゆっくりと右折を開始する。
「僕は男だから、あまり深く詳しいわけではないけれど…女性は男性に比べて筋肉量も少ない傾向にあるし、身体的構造上、日常生活における制限もあるだろ? これは生物学上仕方のないことだし、逆に男性にないものを女性は持っている。「生物としての性」を尊重すること。だから、女性専用の施設が多いのも、言ってしまえば当然であると考えられる。これこそ、本来の男女平等、その姿だと。この考えを、もっと広く、もっと深く周知していけば、そんないがみ合いも生まれることはないのかもしれない。」
 ……そう、だな。
 それがいい。
 その方が、いい。
「ま、色々言ったけど、痴漢くんの言ってることは所詮、痴漢の戯言。犯罪を犯しているのは彼の方なんだ。今は特に気にしなくてもいいよ。犯罪を犯してしまえば犯罪者の言い分。だからこそ、僕たちが先に動くべきではあるのかもしれないけどねー。」
 触りたいから、触った。
 単純な犯罪を犯した者の末路。
「痴漢願望の実行を防ぐ手段はないのでしょうか?」
 まりあ様の質問はまだ続く。
 痴漢願望持ちを救う手立てを考えているのか。
 心の底から女神様だな、この人は。
「防ぐ……となったら、やっぱり痴漢系風俗の発展。よりリアリティのあるサービスの充実、かな。高校卒業まで待たなきゃいけないけれど、元が法で禁じられていることの再現だからねー。多少の制約はしょうがない。むしろ、長年の焦らしがより一層の快楽を…それこそ、実際に痴漢を行うよりも得られるかもしれないねー。もしくは、そういったプレイに協力してくれるパートナーを探す。見つける。こっちの方は難易度高いと思うけれど、エロの力は偉大だ。その為になら相当の努力ができるだろうし、その為に得たものはきっと、他でも活用できる、生涯の宝になるだろうねー。」
 確かに、風俗店やアダルトコンテンツの発展以降、パートナーを探す事に消極的な男性が増えていると聞く。
 努力を怠っても、金銭である程度の欲求なら解決できるからだろう。
 それでも、金銭だけじゃ困難な欲求なら。
 あるいは、標準的な欲求を抱く者よりも遥かに、種を残すという社会貢献により積極的になるのかもしれない。
 ……なんだか、痴漢の話が変に高尚な話になってきたな。
 これもエロの力は偉大ってことなのだろうか。
「ところで、そこでずっと膨れてる木梨さん。」
 先生は目を細めてバックミラーを見つめる。
「なんだか痴漢をすごく憎んでたみたいだけれど、過去になにかあったのー?」
 っ!
 すっげぇ急にぶっこむなぁ、この人。
 今訊いていい話題なのかよ。
 何考えてるかほんとわかんねー。
 でも、確かに気にはなってるんだよなぁ。
 果たして木梨さんは答えてくれるものだろうか。
「………のよ。」
「ん?」
 なにかを呟いた木梨さん。
 屈託のない笑顔で先生は訊き返す。
「私だけ! 狙われなかったのよ! 中学の時! 友達と四人で電車に乗って! 私だけ触られなかったの! 他の三人は痴漢された自慢しまくるし! 露骨に私のこと馬鹿にした雰囲気出して! 触られた方が正義みたいなさ! 意味の分からない理不尽さともの悲しさに腹立って! 私ってそんなに可愛くないのかなぁって!」
 これでもかと大口開けてまくし立ててくる木梨さん。
 ……そんな理由?
 それこそ逆ギレなんじゃ、とか、その頃から遊んでる匂い放ってたんだろうなぁ、とか、色々思ったけれど、火に油を注ぐこと請け合いだったので黙っておくことにした。

  五月二十九日(日)十八時八分 真希老獪人間心理専門学校・駐車場

 程よいドライブも程よく終わり、我がホームへと帰還を果たした。
 ………なんか一か月ぶりくらいの校舎だな。
 気のせいだろうが。
「みんな、お疲れさまー。ひとまず今日はこれで解散。ゆっくり休んでねー。」
 最後に車を降りた先生が手を叩く。
 「お疲れ様でしたー。」と、全員声を揃えて頭を下げた。
 とりあえずこれで任務は終了、って感じでいいのかな?
 初任務が終わったということで、俺のことを案じてくれたまりあ様、木梨さんと寮へ戻ろうと歩き出すと、先生に引き留められた。
「あ、神室くんはストップ。」
「?」
 えぇ…。
 もっと女神様と一緒にいたいのに……。
「嵐山くんと神室くんには、今から会ってもらう人がいるんだー。」
「会ってもらう人?」
「うん。」
 先生は人差し指を立てた。
「この学校の天使・・だよー。」
 ……天使・・
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