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第133話「致死量未満の快楽①」
しおりを挟む六月十二日(日)十六時二十四分 埼玉県大宮市・某会社
「結城先パーイ! この書類また間違ってますよー⁉」
茶色いソバージュの、そばかすが可愛らしいギャル風の女性がオフィスの扉を派手に開いた。
「………。」
結城と呼ばれた、油でべとついた整っていない黒髪の、暗い印象を与える男性が女性を湿った目で見る。
女性はつかつかと結城に近づき、持っていた資料を眼前に差し向ける。
「先パイ、私よりも五年早く入社してるんですよね⁉ なんでこんな簡単な資料も作れないんですか⁉」
「………。」
結城が資料を、やはり湿った目で眺めていると、一人の男性が二人に近づいてきた。
「まぁまぁ加賀美。」
控え目にかけたパーマを、ワックスを散らしつつ整えたヘアスタイル。甘い香水の香りを纏う、爽やかで清潔な好印象を与える男性が、加賀美と呼ばれた女性をなだめる。
「その辺にしといてやってよ。」
「彩芽先パイ……でも……」
「…………悪かった」
二人が顔を向き合わせている隙に、結城は下手をすれば聞こえないような声量で謝ると、加賀美から資料をふんだくった。
「あ……ちょっと!」
苛立つ加賀美を無視して、右親指の爪を噛みながら結城は左手でオフィスの扉を開け、どこかへ行ってしまった。
「なんなのあいつ!」
結城が出て行った扉を睨み、加賀美は憤る。
「仕事できないし、声小さいし! しかも風呂入ってなさそうだし、猫背だし、クチャラーだし、両手利きなのもなんかキモいし!」
「「しかも」の後はただの個人的嫌悪感だね。」
「生理的嫌悪感です!」
彩芽と呼ばれた男性が加賀美の肩に手を置く。
「日曜出勤で気が立ってるのもわかるけど、少し落ち着こうよ。あいつはあいつで一生懸命やってるんだからさ。」
「彩芽先パイは優しすぎるんです! だからあいつがどんどんつけあがってくんですよ!」
加賀美に睨まれた彩芽は、近くのデスクから椅子を引っ張り出してきて座った。
「まぁまぁ、もういいじゃん。そんなことより、今日出てるのは俺ら三人だけだっしょ? だったらもう終わりにしちゃおうぜ。日曜からやってらんねぇよ。」
彩芽は大きくあくびを掻くと、背もたれに全体重を預けた。
「彩芽先パイがそう言うんだったら……」
加賀美も椅子を引き、ちゃっかり彩芽の向かいに腰掛ける。
「それにしても平和だねぇー」
左手で後頭部を掻きつつ天井を見上げる彩芽。
「そうでもないですよ。ほら、例の連続殺人鬼!」
「殺人鬼」のところで語感を強調する。
「あー、県内中で起こってる事件?」
「そうです! 警察も未だに犯人特定できてないって言ってますし、もしこの町にいたらどうしようって思うと、私怖くて……」
顔を伏せる加賀美を見て、彩芽は口角を吊り上げた。
「案外この会社にいたりしてね。」
「やめてくださいよ!」
「あっはっはっは! 冗談だよ。」
怯える加賀美の反応を見て彩芽は満足気に大笑いする。
「もう! 本当に怖いんですからね、私!」
「悪かった悪かった。」
笑ったまま謝る彩芽。
そんな二人の様子を、僅かに開いたドア越しに結城はひっそりと見ていた。
時計の針が十七時を指し、オフィス内に定時終了を告げるチャイムが鳴り渡った。
「お、今日の仕事おっわりー。」
彩芽が椅子から立ち上がり、続けて加賀美も席を立った。
「結局私たち、最後喋ってばっかでしたね。」
「ま、いーじゃん。たまにはこういう日もないとね。」
大きく伸びをして、彩芽は本来の自分の席に戻り、帰り支度を進める。
「あれ?」
加賀美が何かに気付き、周囲を見渡す。
「彩芽先パイ。そういえば、あいつ結局戻ってきませんでしたけど、何してるんですかね?」
「んー? 結城のこと? 便所とか? 俺らと一緒でサボりじゃね?」
彩芽は大して気に留めた様子もなく、帰り支度を終了させた。
「まったく、どこが「一生懸命やってる」のよ……」
呟く加賀美に、彩芽は近づいていく。
「まぁまぁ、もう仕事も終わったんだしいいじゃん。そんなことより……」
そして、加賀美の顔に自分の顔を近づける。
「プライベートの時は下の名前で呼んでくれる約束だろ、恭子。」
その視線に、加賀美恭子は頬を紅潮させた。
「……うん、「祐樹」くん!」
彩芽祐樹は薄く笑い、加賀美恭子の唇に自身の唇を重ねた。
六月十二日(日)十七時一分 埼玉県大宮市・某会社前
「さて。」
異様に目立つ雰囲気を放つ金髪の少年が、とある会社の前に立っていた。
「今日はどうかな?」
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