アブノーマル・ラプソディー

星ノ宮幻龍

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第132話「エーラの局所集中を体得する修行③」

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  六月八日(水)二十三時十八分 真希老獪人間心理専門学校・体育館

 結局、エーラの局所集中を体得するまでに三日かかった。
 しかも、学校を休みつつほぼノンストップで修行しての三日(学校には質の悪い風邪に罹ったことにしてある)。
 正直凹む。
 が、そんな弱音を吐いてる暇など当然無く、十九時頃から修行は次なるステップへと移っていた。
 エーラを局所集中させるこの技術を、戦闘でも使い物にするための修行。
 言い方は悪いが、実際、戦闘で使えなければあまり意味のない技術でもあるし仕方ない。
 それが今行っている、瞬間的にエーラを局所集中させつつ相手の攻撃を受ける訓練だ。
 その相手というのが、嵐山。
 本日をもって、ようやく嵐山も出された課題とやらに取り掛かれるというわけだ。
 そんな嵐山との訓練内容。
 嵐山が俺の額を、エーラを集中させた拳で殴ってくるから、俺は額にエーラを集中させて受ける、というシンプルなもの。
 シンプルなもの、なのだが……。
「じゃあ、いくぞ。」
「来いっ!」
 嵐山はエーラを右拳に集中させ突き出す。
 俺はそのタイミングに合わせ、額にエーラを集中……
「がんっ‼」
 させたつもりが、間に合わずに頭から後ろへ飛び退く。
「遅い! 貴様、次の戦いで殺されたいのか!」
 飛んでくる梶先生の檄。
「ぐぬぬ……もう一回!」
 再び立ち上がって、嵐山の拳に構える。
 再度飛んできた拳に対して、エーラを集中!
 できた! ……が。
「ふぶっ‼」
 拳の勢いを止めきれず、後頭部から倒れてしまった。
 頭痛ぇ……。
「額への集中に気を取られて足回りのエーラが不十分となっている! 無様にすっ転ぶのは当たり前だ! 額のみならず両足にもエーラを集中させろ!」
「押忍!」
 三度立ち上がり、もう一度飛んでくる嵐山の拳に向かってエーラを集中させる。
 両足……両足……
「がつんっ‼」
 嵐山の攻撃を受けた瞬間、頭から大きく背後へ傾いてしまった。
「今度はエーラを足に集中させすぎだ! 額を守らないでどうする⁉ そんなに死にたいのか⁉ しかも、なんだ今の両足へのエーラの集中は⁉ 右足に集中させすぎだ! バランスを考えろ!」
「くっそぉー……」
 グラつく頭でようやく立ち上がる。
 全然上手くいかん。
「いいか⁉ エーラを集中させる箇所の使い分けは戦闘時に大いに役立つ! 単に肉弾戦での攻防で有利を取れるだけじゃない! 集中箇所でブラフを張って、本命の攻撃を隠すこともできるのだ!」
 梶先生の声はいちいちでかいからこういう時に頭に響いてきつい……。
 けど、言ってることは最も過ぎる。
「……もう一回‼」



「喜べ豚共。今から貴様らにつかの間の休息を与えてやる。十分だけだがな。」
 梶先生からのありがたい言葉を聞き、俺と嵐山は揃って水飲み場へ来ていた。
 その後も三十分ほど同じ訓練を繰り返したが、一度も嵐山の攻撃を防ぎきれなかった。
「いつつぅ……」
 額が真っ赤に腫れあがってる。
 蛇口を逆さにして水で冷やすが、刺すような痛みを額中から感じる。
 マジいてぇ……。
「大丈夫かよ。」
 ボコスカ殴ってきた張本人、嵐山が隣で水を飲み終えた。
 誤解無きよう一応言っておくが、嵐山は何も悪くない。
「全然平気。 待ってろよ、すぐに追いついてやるからな!」
「前向きだな……」
 呟くように言う嵐山。
「なにが?」
「なんでも。」
 蛇口の取っ手を掴んだ俺に対し、嵐山は目を逸らす。
「ところで、俺は三日かかってようやくこの有様なわけだけれど、嵐山はどんくらいでエーラの局所集中覚えたんだ?」
 再び嵐山が俺を見る。
「俺は割とすぐ……一時間くらいでできるようになった。」
「マジ⁉」
 俺はほとんど丸々三日間使っても全然できてないのに⁉
「やっぱ嵐山はすげぇな。なんでもできるもんな。」
「なんでもじゃねぇよ。」
 何気ない一言だったのだが、嵐山は気を悪くしたのか眉をしかめる。
「俺が今与えられてる課題。実はお前がエーラを纏う修行をしてた時から与えられてた課題なんだ。俺の弱点。それを未だに、克服できてねぇ。それに、それだけじゃねぇよ……」
「………。」
 嵐山は、そこから先は語らずに水飲み場を後にした。


  六月八日(水)二十三時五十四分 埼玉県上尾市・綾瀬川


 「ユウキ! お前はどうしてこんな事もできないんだ⁉」

 「ユウキ! お前まだそんなとこで止まってんのかよ? 俺たち先行っちゃうぜ?」

 「ユウキってなんかダサいよねー。」
 「あーわかるー。なんか地味だし覇気がないよねー。」

「あー、腰いてぇ。」
 既に動かなくなった女性の傍らで、レインコートの人物は地に這いつくばり、なにやら手を動かしていた。
 女性の体に刺さっているナイフの数は数十を超えており、シルエットだけで言うならば巨大なサボテンと変わらなかった。
「ふぅ…こんなもんか。……ったく、次からはやっぱり近くに壁があるところにしよっと。」
 立ち上がったレインコートの人物は腰のあたりを軽く叩く。
「あんたがこんなところにいるのが悪いんだ。壁のないところにいやがって。」
 精液を顔に受け、冷たくなっている女性を一瞥すると、レインコートの人物はそのままその場を去っていった。
 残されたのは、一つの死体と地面に残された血文字“Pepper”。
 月明かりがその二つを照らしている時、丁度日付が変わった。
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