独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第2章 独身男の会社員(32歳)が過労で倒れるに至る長い経緯

第20話「シンデレラの掲げた決意」

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 メイド服を着たままの姫ちゃんは学園祭の案内をするといって俺を色んなところに連れまわす。

 多胡町の歴史とか今更そんなもの研究されてもどないやねんと突っ込みたくなる展示を一緒に眺めたり、軽音部が総力を挙げて作った楽曲に『ソウルが全く足りていないわ!!』とか本気でダメだししている姫ちゃんを必死で抑えたり、お化け屋敷に入ったらお化けの方がメイド服の姫ちゃんを見て仰天したりと、楽しいというよりもなかなか忙しい。


 そして蓄積された疲労により、なんだか視界が段々ぼやけて来たこともあって、流石にちょっと休もうやと俺は姫ちゃんに切実な提案をした。

「あっ、そうだ。それならそこのベンチに座って待っていてくださいね!」

 姫ちゃんは俺を中庭のベンチに座らせると、タタタッと軽快な足取りで駆け出していった。


 俺は腰を落ち着けて、深く息を吸う。

 やたら頭が重く感じるが、下を向けば意識が飛んでしまうので、ソレを支えている首の力が重力に負けそうになると俺はその都度、小刻みに顔を振った。

 俺がそんな自分との戦いに専念していると、程なくしてか何やらソースの甘い香りが漂う美味しそうなものを両手に持ったメイドさんが戻ってきた。

「はい、これはタコガク学園祭の伝統の一品らしいです♪」

 姫ちゃんは片手に持ったその一つを俺に差し出す。

 これはいわゆる”たこせん”というやつだ。

 2枚の薄いせんべいの間に目玉焼き、そして刻んだネギと紅生姜や天かすを挟んでたっぷりのソースとマヨネーズかけられている屋台でお馴染みのアレ。

 直樹もこれについて何か言っていたなぁ、と俺は思い出す。

 この”タコガクたこせん”を食べるためだけに毎年学園祭に来る人がいるくらい有名だとかなんとか。
 
 うん、旨い旨い。そういや校門で貰ったパンフレットにもでっかく宣伝してあったわ。

「……でも、これを買うのにまさかクレジットカードが使えないなんて思いもよらなかったです」

 俺は思わず吹き出してしまう。

「……す、すまん。って、たかが学園祭にCAT端末なんて導入するワケねえよ」

 姫ちゃんは現金を持ち歩かない主義らしい。

「私、学生時代も教師になってからもこういった催しにはまともに参加したことがありませんでしたので……」

「……そっか、そうだったな」

 多分、学園祭はおろか出店のあるお祭りなんかにも行ったことが無かったのだろう。

「だから、今日が本当に楽しみで、今がとっても楽しくて。こんなにキラキラしている場所でこれほどワクワクしている自分がいるだなんて、少し前までは信じられなかった……」

「きっとお母さんはこんな幸せを知る日が私に訪れることを信じて、自分の心を壊してまで私を産んでくれたんだなぁ」

 俺が彼女に今してやれることは、感傷に共感することではない。そんな気持ちを忘れるまでに巻き込んで盛り上げることだ。

 涙が零れないように上を向いた姫ちゃんのその小さな口に、俺はパキッと折ったたこせんの欠片をねじ込んでやった。

「―――むぐっ」

「おふくろさんや咲子さんに姫ちゃんの幸せな姿を届けるには、まだまだ”楽しさ”が足りてないな。よし、もう一回り行くか!!このたこせん代もツケてんだろ?ついでに払いにいかんとだしな」

 俺は両膝をパンッと叩いて勢いよく立ち上がる。

「――――――いえ、これは野々村先生のクラスの模擬店でしたので彼女へ請求が行くようにしてありますから、全然大丈夫ですよ♪」

 口に含んでいたものをごっくんと飲み込んだ彼女はしれっとはにかんでそう言った。

 

 そして、俺は勢いよく立ち上がったものの、この行き先の失ったヤル気をどうすれば?と悩んでいたところへよく知る小さな女の子が走ってやってきた。

「あああーーー!!いたー。もうっ、オジサマも先生もこんなところで逢引きしちゃってさー、探したよぅ。電話にも出ないし」

 本当だ。電話もメッセージも結構入ってる。

「もうすぐキョウのミスコン始まるからっ!!」

 もうそんな時間だったか。やはり今の俺の体内時計はかなり狂っているようだ。

「じゃあ、私キョウのところに行くから、オジサマたちもちゃんと体育館に来るように!」

 とっちゃんは駆け足のままそれを俺たちに伝えると再び走って行ってしまった。

「それじゃ、姫ちゃん。俺たちも体育館へ行こうか」

 返事が返ってこない。

 俺は振り向いて姫ちゃんを見ると彼女は真顔になってミスコンが行われる体育館の方角を見つめていた。
 
「私は着替えてからそちらに向かいますので、先に行っていてください」

「ん?」

「このメイド服は今日の私にとってシンデレラのドレスみたいなものだったんです。……ごめんなさい、本当はもうミスコンが始まる時間だって私は知っていたんです。でも、もうちょっと大丈夫だって、まだ大丈夫だって、欲張って鐘の鳴る時計の針を勝手に止めちゃってました」


「渡辺さん。今日は本当に……どうもありがとう、ございました」


 彼女は最後に深く深く頭を下げて、校内へ戻っていく。


 ああ、そうか。そうだった。

 学園祭が終わったら恭子とちゃんと向き合うって言ってたもんな。

 
 姫ちゃんの僅かに震えている後姿が遠く目に映る。


 大丈夫さ、姫ちゃん。

 
 あの子にとって大好きな先生が大好きなお姉ちゃんに変わるだけだから。
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