50 / 110
第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯
第10話「前編、渡辺純一×神海恭子」
しおりを挟む「恭子、餅つきも大変だったのに夕食のご馳走なんて本当に無理をしなくていいんだぞ」
集まった面々も既に解散しており、後片付けも終えて今は恭子と二人。
昼に騒いだことを気遣ってか、今夜は姫ちゃんやとっちゃんも我が家にいなかった。
「いえ、下ごしらえは昨晩と今朝にほとんど終わってますから。それに、とっちゃんに作り方教えてもらったので前からケーキ作りにも挑戦したかったんですよ」
朝からチキンの香ばしい匂いがしていたのはその所為だったのか。
一応、社交辞令程度の遠慮はしておいたので『それは楽しみだな』と改めて本心を露わにする。
「はい、楽しみにしていてください」
恭子は微笑んだ。
「もう冬休みに入ったんだっけか」
俺は色々と準備をし始めた恭子の後姿に語り掛ける。
「そうですよ。終業式でいただいた通信簿をおじさんは見てくれなかったじゃないですか」
「いや……そりゃ、2学期のやつを見た時余りにも異次元過ぎてだな……」
「そういえば姫紀お姉ちゃん、今回も凄いハナマル書いたんですよ!あれきっとおじさんに見て欲しかったんだと思います」
俺が以前に高熱を出したときのアレか……
「ま、まあ、そのうち見るよ。来年あたりに、多分」
恭子は『もうっ』と言って、俺に見るつもりのないことを彼女は悟る。
「……もうすぐ、正月だな」
「そうですね、今年一年あっという間でした」
「恭子も元旦くらいは振袖とか着たいだろう」
俺がそう言うと、恭子は準備を中断して俺の元にやってきた。
俺の買ってやると恭子の要らないを今まで何度も繰り広げてきたので恭子の何を言おうとしているのかは大体予想がつく。
「それは……家にあったのが残っていましたら着てみようかな?とも思いますけど、自宅と一緒に処分されていると思いますし、わざわざ買うなんて言わないでくださいね」
ほら、釘を刺された。
「思い出の品か」
恭子は自分の胸に手を当てて俺の目をジッと見る。
「おじさん。確かに私は失ったものも多いですけど、ここに来て、おじさんの元に来させていただいて得たものの方がとても大きいんですよ」
失った者はどうしようもないけど、失った物は……
「恭子、失ってはいないよ」
恭子は瞳を閉じた。
「はい、ちゃんと私の胸にあります。今でもこれからもずっと」
「違うんだ、そうじゃない。本当に失っていないんだ」
「え?」
確かにあったはずだ。俺は記憶の掘り起こして確信すると、リビングの引き出しに常備してあるアルコールチェッカーを自分の口に当てた。
よし、昼に飲んだビールはもう残ってないな。
「恭子、食事の準備中になんだけど、今からちょっとだけ出かけないか」
恭子は少しづつだけど、ちゃんと思い出として受け入れることが出来ている。
恭子に返してやれるなら、少しでも早い方が良いに決まっている。
俺の提案に戸惑いながらも『は、はい』と答えた恭子の手と車のキーを握って家の外へでると、そこには小さな粉雪が舞っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。
亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った―――
高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。
従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。
彼女は言った。
「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」
亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。
赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。
「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」
彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ
みずがめ
ライト文芸
俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。
そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。
渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。
桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。
俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。
……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。
これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる