独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯

第16話「弱気になった俺」

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 恭子は朝になっても部屋から出て来ることはなかった。

「本当に、まいった……なぁ」

 急な転勤命令に加えて恭子との衝突で俺自身、心身ともに衰弱しているのが自分でもわかる。

 なんと声を掛けて良いものだろうか?

 結局のところ俺は恭子の部屋の扉の前を行ったり来たりしているだけで、何もできてやしなかった。


 通勤時間になっても事態に変化がなかったので、俺はとりあえず直樹に電話をかけて事情を説明した。

『ナベさん仕事は俺がなんとかしますんで、今は会社を休んで恭子ちゃんのことに専念してください』

 申し訳ない、助かる、と直樹に礼を言って電話を切った。


 そして恭子が学校へ行く時間になっても、一向にあの子は部屋から出てこない。

 俺はと、嫌な予感が頭をよぎり、慌てて部屋にいる恭子へ電話をしてみたがコールの途中で切られてしまった。

 しかし電話切ったということは、ということだ。

 とりあえず、胸を撫で下ろした俺は次に恭子の担任でもある姫ちゃんに電話を掛けることにした。

 直樹と違って何の事情も知らない姫ちゃんに説明するのに時間はかかったが、なんとか理解をしてくれた。

『……そう、そんなことがあったのね。渡辺さん、以前貴方は私に『恭子を侮るな』と言ってくれたことがありましたよね?』

 ああ、姫ちゃんが咲子さんの事故の真相を恭子に隠したままフェードアウトしそうになったときのことだ。

『その言葉を今そっくり貴方に言い返します。あまり恭ちゃんを侮らないで。……すみません、今からホームルームが始まるので一旦電話を切らないと」

 そう言うと姫ちゃんは慌てて電話を切った。

 ……恭子をあまり侮るな、か。


 姫ちゃんへ恭子の欠席も伝えたので、俺は当面することが無くなった。

 会社でも何も手につかなかったが、家でもそれは変わらない。

 自分自身にすら答えが見つかってないのだから、何も前に進まないのだ。

 俺は昨日の夜から何も食べていなかった。食欲もないが、恭子も同く何も口にしていないことを考えると尚更食べる気がしなかった。



 それから俺は1時間ほど経つのにも関わらずリビングのテーブルに座り、ただただ終わりのない思考を無限にループさせることしかできずにいた。出すべき結論が自分のためのことなのか、それとも恭子のためのことなのかすら曖昧になっていて、頭の中がグチャグチャだ。

 師匠……教えてくれ、俺はどうしたらいい?

 藁にも縋る気持ちでそう問いかけていたら、まるでこの世に居るのない師匠が答えてくれたかのようにインターホンの音が鳴る。

 こんな時間に誰だろう?と俺は玄関に向かい扉を開けた。

「ひ、姫ちゃん……」

「ホームルームの後に早退して来ました」

 俺は思いも寄らなかったことにビックリはしたが、驚いた以上に嬉しい気持ちが強く涙が出そうになる。

「とりあえず、あがってくれ」

「ええ、そうね」

 姫ちゃんは家に上がると、俺の横をすり抜けリビングに向かった。

 恭子の部屋をスルーして。

「恭子の部屋には……?」

 リビングに入った姫ちゃんはキッチンで自分でコーヒーを準備しながら俺の問いに答える。

「人にはそれぞれ役割があると思うの。今は珍しく渡辺さんが弱気になった顔をみたくて立ち寄っただけですので」

 姫ちゃんは少し悪戯な顔をする。

 確かに今の俺は弱気も弱気だ、否定はしない。

「私には私にしか出来ないことを見つけたので、今日はすぐに帰ります。……あと渡辺さん、今の恭ちゃんは今の貴方と話したところで何も解決しないと思うわ。貴方たちはお互い肝心なところから目を背けて変な部分で決着をつけようとしているから」

 俺と恭子は何から目を背けているというのだろうか。

 わからなかった。

「ですので、今はそっとしておいてあげてください。渡辺さんは気晴らし―――する気分にはならないかもしれませんけど、今日のところは一人でどこかへ出かけるべきです。恭ちゃんが相談できる相手……恭ちゃんのことを大切に思っている人が貴方や私以外にもいるってことを渡辺さんはちゃんと知っているはずよ」


 姫ちゃんはそう言うと、自分で入れたコーヒーを飲み干し家から出て行った。

 今の俺には何も出来ないらしい。

 
 それに対する悔しい気持ちも確かにあるものの、姫ちゃんの言うことを信じて、少し頭を冷やすためにもとりあえず俺もひとりで外へ出ることにした。
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