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第3章 独身男の会社員(32歳)が長期出張を受諾するに至る長い経緯
第18話「親友」―――都華子side
しおりを挟む恭子が学校を休んだその日、都華子が放課後に彼女の部屋の前へ訪ねて来ている。
ノックはせずに、閉ざされたドアの前で声を掛ける都華子。
「キョウ……」
純一が何を言っても開けられることがなかったその扉は、親友の一言によりスッと開かれる。
「とっちゃん……、とっちゃん。とっ……ちゃんッッ!!」
あの日とは逆に自分より背の低い都華子の胸へ飛び込む恭子。
言葉が足らずとも、伝わる感情と恭子の想い。
都華子は暫くの間、恭子の背中を優しく撫でていた。
「話はオジサマから聞いたよ。辛かったね、ずっとひとりで悩んだんだよね」
都華子はどうして私に相談してくれなかったのか、とは決して言わなかった。
「とっちゃん、私はわかっているんです……。自分はとっても酷い、……最低です」
恭子の部屋に入った2人はベッドの上で膝を抱え、反対を向き、お互いの背中をピッタリと合わせていた。
彼女の独白に対して都華子は軽く下げていた頭をあげるとその後頭部がコツンと恭子の長い後ろ髪に触れる。
「オジサマは何でもできるスーパーマンじゃなかったんだね」
都華子の返答は恭子の自問自答への否定でも肯定でもなかった。
「キョウ……オジサマのことキライになった?」
カーテンは閉められ電気も暖房も付けていないその部屋でただ、一枚の毛布に包まれている2人。
「―――え?」
考えたこともなかった都華子の質問に、恭子は驚嘆の声をあげることしかできなかった。
「ムセキニンだよね。炊事も掃除だってロクに出来ないくせに、残業でいつも遅く帰ってくるくせに、休みの日にどっか連れて行ってくれるって約束してても『スマン仕事になった』っていっつもほったらかしのくせにさ。それなのにキョウが社会に出るまで俺がちゃんと面倒を見るだなんていっちょ前にさ―――」
「……とっ、ちゃん?」
「今回のことだって、一番近くにいる大切な人を気持ちを全然汲んでくれなくて、自分勝手に常識とかわけわかんないことを押し付けようとしてる」
「とっちゃん、違うんです。―――違うの。おじさんは、おじさんは私のことを本当に一生懸命考えてくれて、私にとって一番良い方法を考えてくれているだけで……」
恭子は都華子の辛辣な言葉に思わず体を反転させ都華子の肩にしがみついて言葉を返した。
「そっか……わかってんじゃん」
短くそう言った都華子は、そのあと長く重いため息をついて、前を向いたまま自分の肩の上に置かれた恭子の拳の上へ更に手を重ねた。
「それがわかってんなら、ちょっとくらいオジサマに仕返ししても、八つ当たりしたっていいじゃんさ。私だったら絶対にそんな風には思えないけど、やっぱりキョウはキョウなんだね」
ある意味で恭子への僻《ひが》みだったのかもしれない。
そして、それは恭子らしさを再認識した瞬間でもあった。
都華子は改めて恭子に向かい合って彼女の両手を取る。
「オジサマは絶対に最後は自分の考えを曲げてでもキョウのしたいようにすると思う。だから私はキョウがどうするかなんて聞かないし、自分がキョウにどうして欲しいかも言わない」
「でもね、私がキョウの親友であることは絶対に変わらないから。キョウが九州に行ってもバイトでお金を貯めて必ず会いにいくし、姫ちゃんのところに残ったら無理やりにでも晩御飯を作らせにいく」
「とっちゃん……とっちゃん!とっち゛ゃんッ!!」
嗚咽が混じるその声に都華子は思わず再び胸へ抱き寄せる。
―――どこにいても絶対にそれは変わらないから。
それは恭子に対する偽りない精一杯の気持ちだった。
ただ、
それでも、
恭子の決意や判断が如何様であったとしても、彼女が自分の中で隠している本心を表へ現わさない限りは本質的な部分を解決することは出来ないだろうと、都華子は心のどこかでそれを感じていた。
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