独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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幕間2 回想録 とっちゃん日記―――都華子side

バレンタインへの一幕

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 この日の日記を読むとどうしてもニヤけてしまう。

 色んな意味で。

 青春だったねぇ。

※ ※ ※ ※ ※ ※

 某月 某日 外はまだ寒いけどハートは灼熱だぜぃ。

 この日はキョウと入江チャンと一緒にチョコレート作りを頑張りました、まる。



 数日前にキョウから頼まれたこと。

「とっちゃん、お願いします。私にバレンタインのチョコレート作りを教えてください」

 機械関係とかで頼られたことはあったけど、まさか料理に関することで頼られるなんて思ってもいなかった。

 だからこの時は体がゾクゾクして変な快感すら感じちゃった。

 確かにお菓子作りに関しては、キョウに多少なりとも負けていない自信があるようなないような気もしていたけれど、キョウとて決してお菓子作りが苦手なわけではない。

 そこを私に頼んできたということは、恐らく九州で孤軍奮闘しているオジサマに送るチョコレートには微塵の妥協も許したくないのだろう。

 きっと、クラスの男子にあげる義理チョコ程度なら晩御飯のデザートついでにサクッと作って終わらせていたに違いない。

 私はキョウの眼をジッと見つめ力強く頷いた後、人差し指で鼻の下を『へへっ』と擦った。

「満点以上のチョコが出来上がるまで、妥協は一切許さないよ!」


 そして本日、私の家のキッチンで材料と道具を揃えキョウの到着を待っていた。

 チャイムの音がしたので玄関までお迎えに上がると、そこにはキョウだけでなく、我がクラスの新聞部部長候補の入江チャンまでいたのでちょっとビックリ。

「え、と。さっき玄関先で会ったんですけど……」

「ふふふ、神海さんと相葉さんがチョコ作りをするって聞いたもんでね」

 嫌な予感しかしない。

 キョウは学園でも有名なので、この子が作るチョコってだけで民衆は興味深々なのだ。新聞部の一員にしたらこれほど美味しいネタはないだろう。

「あのね、入江チャン。今日のキョウは本気も本気のマジな感じなの。アンタの書くゴシップ記事に邪魔されるわけにはいかないんだよねー」

 すると、入江チャンはスッと右手を差し出して来た。

「本日は新聞部としてではなく、一人の乙女としてお邪魔させて頂けないかしら?」

 ふむ?

「部長を退任した3年D組の新井信二元部長に真実の愛を捧げるために、何卒ご教授を」

 なるほど、よろしい。ならば貴殿を迎えよう。

 ガッシリとシェイクした右手のそれが快諾の意であった。


 って、お互いに信頼を分かち合ったはずなのに、入江チャンは玄関に靴を脱いだ瞬間から興味津々にキョウへ質問を浴びせちゃってるので、ヤレヤレだ。

「ねぇねぇ、神海さんの本命は誰なの?誰にも言わないから、オフレコで教えてよー。私だって正直に言ったじゃない」

「え、と……ですね。あの……いつもお世話になっている……その、おじさんです」

 顔を真っ赤にして尻すぼみになるキョウだけど、律儀に答えなくても……

 入江チャンだって、既に知ってるくせに……

 だって、キョウって全然隠せてないんだもん。


 とまあ、そこまでは可愛らしいやり取りだったんだけど、一度キッチンに入るとそうでもなかった。

 いや、むしろとんでもなかった。

 ウチのお父さんとかって、普段はめっちゃ穏やかな人なんだけど車のハンドル握るとやたら人が変わっちゃうんだよね。

 キョウもそれと一緒なのだろうか、包丁を握るとちょっと、ちょっとちょっとな感じだった。

「ねぇねぇ、神海さんはそのおじさんのどこが好きなの?ラブなの?」

「全部です」

 即答したよ、この子!

「わおっ!……で、その人って例えるならどんな人なのっ?」

「神様です」

 もはや、人類ですらなかった。


 その勢いにイケると思ったのか入江チャンはやんちゃ振りのギアをトップにぶち込んできた。

「ほほぅ……で、もし、もしなんだけど、その人がほら、もし神海さんをアレコレ求めてきちゃったりしたら、どっ、どうするのっ?どうしちゃうの?」

「それは―――「アタァ!」」

 私がすかさずおタマで入江チャンの頭をバチコンしたので、なんとか事なきを得た。

 得たけれど……正直言っちゃうと、私も聞いてみたかった、その先を。

 何て言おうとしたのだろうか?

 それは―――『バッチ来いです』とか言っちゃってたら、私のゲシュタルトは崩壊していたに違いない。


 結局、私のゲシュタルト保持のために入江チャンを別室に連れ出して、キョウが包丁を持っている間はクリティカルな質問はタブーだと確約させることで一件落着した。


 おっと、話が脱線し過ぎちゃったけど、肝心のチョコ作りはどうだったかと言うと……

「入江チャン!!チョコレートは直接火に掛けないでぇー!!ちゃんと刻んで!そして湯煎してッ!」

 テンパリングくらい事前学習しておいて欲しかった。


 そして、キョウの具合はというと……

「できましたっ!!」

 うん、120点だね。約束の満点以上だね。

 でもね……キョウ、そのきめ細やかな編み込んだ糸のようなチョコレートは芸術的な工芸品と言っても過言ではないけれど。

「冷凍便で九州まで送ったとしても、到着したころには完全に崩壊しちゃっているよ」

 触っただけでも、今にも崩れそうだし。

 キョウがおっ?っていう目で見て来たけど、無理なものは無理と言うしかない。

 作り直しだね。


 結局、輸送に堪えうる防御力を有するものが出来上がるまでには、5度に渡る再三の作り直しを言い渡す羽目となった。

 
 そして、余談であるが、入江チャンが新井元新聞部部長に宛てて作った真実の愛チョコレートにはラッピングする際にコソっと胃薬を添えておいたので、当日に惨劇が繰り広げられる危険性は多少なりとも下がったと思う。

 この功績だけで、私の死後の天国行きは確定だろう。
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