独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第4章 独身男の会社員(32歳)が長期出張から帰還するに至る長い経緯

第2話「……豪遊?」

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 総務の佐々木さんに初っ端しょっぱな連れてこられた場所は映画館だった。

「……なんで映画館なん?」

 小さな声で呟いてみたものの、隣の座る佐々木の姉ちゃんは既に物語へ没頭しているため聞こえやしないだろう。

 完全に自分の趣味へ走っているじゃねえか。白熱のシーンの度に手や腕をぶん回しているし……ちょいちょい隣の俺の肩に当たって痛いんだけど。

 彼女へは一度、労いねぎらいの何たるかを説いてやりたい。


 まあいい。

 映画館という静かで落ち着ける場所でなら、色々と考え込むことが出来る。

 まずは何故俺へ異例のこの時期に特進して係長への昇進の内示が降りたのか。

 係長以上は基本的に管理職クラスであって、俺は会長からも九州での配属先の課長からも直々にメールを貰いチーフとしての現場入りが決定しているはずなのにだ。

 それに俺が現場入りなのは佐々木さんも言っていたことだ。

 考えられる可能性としては、係長としての裁量権を現場レベルで自由に使えるように配慮したというところだろうか。

 確かに短期間に現場を改革するとなればダイナミック且つ迅速的な行動が求められるのだが、チーフの裁量では常に係長以上への決済が求められ、許可が下りなかったり、許可されたとしても決定までに時間が掛かるとすればそれは停滞に繋がる。

 その点、係長の権限を持ちながらチーフのポジションに就くことができれば、効率的な業務の遂行が可能……

 おっと、金色の戦士たちが合体するのか!?

 おおっ!強ぇ!!マジ強ぇぇ!

 緑の悪魔がピヨってんじゃん!!

 いけッ!

 うおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!

 なんだっ!このヌルヌルの作画は!!

……

…………

……………


※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「マジやばかったな佐々木さん!!あの映画っ」

「ですよねー!!私なんか3回目なのに大泣きましたもんっ!やっぱこの映画はデラックスで見て大正解でしたっ」

 映画館を出て近くのファストフードショップで昼食を兼ねた映画談義に大いに花を咲かせていた。

 経費上限ナシの豪遊と言っていたのになんでハンバーガーやねんと突っ込みたかったが、先の映画に感動し過ぎてそんなことどうでもよかった。

 係長のことなんてどうでもよくなっていた。

 俺の頭の中は極寒の地で死闘を繰り広げる灼熱の戦闘民族たちでいっぱいだ。

 実を言うと、昔から俺はこの作品の大ファンで神海家では他の映画シリーズやTVアニメを恭子と一緒に見ていた。俺が恭子にこの作品の魅力を教えたのだが、今では逆転して知識的には恭子が上だ。あいつがいつもどんなダンスの最後にも荒ぶる戦士のポーズを取っているのはこの作品へのリスペクトから来ている。

 今回の作品も恭子と一緒に映画を見に行く約束をしていたのに、出張のおかげでうやむやになっていたんだった。

 きっと恭子も今頃、とっちゃんや姫ちゃんと一緒に見ていることだろうな。

 そしてやはりデラックスは凄かった。

「デラックスってやっぱ凄ぇよなっ!?敵の必殺技を受けた瞬間、リアルの風圧が掛かったときなんてマジで俺死ぬんじゃねえかと思った!」

「でしょ!でしょっ!?本当にあの割高のデラックスを会社の奢りで見られるなんて渡辺様々ですよっ!さらに最近できたこの店なんてハンバーガーセットなのに千円越えちゃうくらい高級なんで、入社5年目の薄給の私じゃ普段なら絶対に来られないですもんっ!」

 ランチが千円越えたら高級だなんて……この娘は多分豪遊というのを知らずに育ってきたのだろう。ピュアだな。得意先の接待とかにはまだ参加させてもらえていないに違いねぇ。

「そういや、ちなみに総務の経費ってどうなってるん?ウチの前職場じゃ掛け後払いが出来ない店や会社に請求書を回せるところ以外で経費扱いにする時は実費で立替えなきゃいけなかったんだけど」

 いくら経費で落ちるっていっても、申請から入金まで一ヶ月くらいかかるので薄給だと豪語しているこの娘に立替えさせるのは気が引ける。

 映画館やハンバーガーショップにツケが利くわけがない。

「ふっふっふ、そこは心配ご無用っ!総務課は経費の使用が多いので各課に一枚ずつ会社のクレジットカードを貸与されているんですよーっ。今回は特別課長から借りてきたんですぜっ」

 じゃーんとカードを取り出しては左右にフリフリしながら自慢する佐々木さん。

「あー、いいなっ、いいなっ!総務課は卑怯だなおい!」

 そんな他愛も無い会話をしながら、恭子だったら途中ストップをかけそうなほどのボリューミーなハンバーガーセットをペロリと平らげた。

 恭子か、恭子と言えば……

「あの映画、やっぱり恭子と一緒に見に行きたかったなぁ」

「……」

 あれっ?なんか佐々木さんの顔つきが変わった気がする……

 と、思った瞬間にその両手によってバコンとテーブルが響き彼女が勢いよく身を乗り出して来た。

「キョウコ!?きょうこって誰ですかっ!?彼女さんとかですかっ!この前九州に出張で来た時は渡辺さん彼女いないって言ってたじゃないですかっ!」

 なんだっ、なんだなんだ。

「えっ?いや……恭子は、とある事情でウチで預かっている妹というか姪っ子というか、まあ、その中間みたいな女子高生なんだけど」

「……妹、……姪っ子」

 なにやらそうブツブツ言いながら『ん゛っ』と彼女がひとつ咳き込む。

「まあいいでしょう、ギリセーフとします。それじゃあ、ドンドン行きますよー!豪遊大会ですっ」

 何が良いのか、セーフなのかは分からなかったが、手を引っ張られた俺は彼女の運転する社用車でボーリングやらバッティングセンターやらカラオケやらと日が暮れるまで次から次へと遊びに連れて行かれた。


 久々に青春の汗を流した気がする。
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