独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第4章 独身男の会社員(32歳)が長期出張から帰還するに至る長い経緯

第10話「小さな前進に向けて」

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「みんな、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど……」

 PM4時55分。

 定時5分前になってようやく真希先輩は深く深呼吸した後に崩壊したチームのメンバー全員に向かってそう切り出した。

 時間前なのにも関わらず既に帰り支度を始めていた社員もチラと時計と主任の顔を交互に見て仕方なく手を止める。

「あのね、今日……今日、みんなでちょっとだけ残っていかない?……30分だけでいいから。手持ちの仕事が無い人も別にここに居るだけでいいし、ただお喋りするだけでも構わないわ」

 その言葉に数人が真希先輩へ目を向けたが、それは『一体、何が狙いだこの人』と言っているような冷めた目付きだった。

「……もちろん、用事がある人は無理にとは言わないわ」

「でも、出来ればみんなで残って、、、ほしい」

 真紀先輩の言葉尻が窄む。そして言い終えた後に視線をデスクへ落したのはきっと皆の反応を見るのが怖かったからなのだろう。

 しかし、恐らく祈るような気持ちでいた先輩の願いとは裏腹に一人の若い女性社員が静かに席を立って主任デスクのすぐ側にある出入り口のドアを開こうとしていた。

「小柳……さん」

 ドアを開けた音に反応して顔を向けた真希先輩の声は余りにも弱々しく、それだで現場リーダーとしての威厳も何も既に崩落していたことが俺にもわかった。

 この子は多分そのまま無言で出ていくだろう。俺も、多分先輩もそう思っていたのだろうけれど、意外にも足は暫くの間その場所に留まっていた。

「あの……定時で帰れるものだと思っていたので………歯医者を予約が」

「あっ、そうよね。ううん、気にしなくていいわ、気を付けてね。……えっと、実はもうここのみんな、小柳さんの分も含めて全員0.5時間超過勤務を申請しちゃっているから、朝30分早く来て仕事していたことにして頂戴」

 真紀先輩のその言葉には、無表情だった小柳さんとか言っていた二十歳そこそこの姉ちゃんも流石に驚きの顔を見せていた。

 周りを見渡せば、他の皆も同様に驚きを隠せない様子。

「………残業つくんですか?………………なら、歯医者さんに断りの電話を入れてきます」

 歯医者て……冷たい顔して可愛いなオイ。

「えっ?良いのよ、わざわざ予約変更しなくても。急に変な事言い出したのは私の方なんだから。今日の残業はほんのささやかだけど今までの付けれなかった分だと思って―――」

「そんなズルしたら、この会社と同じことを自分がすることになりますからちゃんと残ります」

 そんな二人のやり取りを聞いていた他の皆の中で主任デスクにもの凄い険しい顔をして歩いて行ったのは元副主任である平野とかいう男だった。

「川島主任、どういうことなんですかい!?……仕事の配分もしていないのに残業をつけるって……課長だってそんなこと認めやしないでしょうよ」

 この平野とかいう男性社員は真希先輩の元で暫く副主任として勤めていたのだが、前の部長課長から無理難題を押し付けられた真希先輩と他のメンバーとの間で板挟みになり、暴発してしまった結果こんなスト紛いの仕事放棄を先導して副主任の任を解かれたとのことを事前に真希先輩から聞いていた。

 先輩は彼を一番の被害者にしてしまったと自分を悔やんでいた。

「平野。……課長にはちゃんと脅してきたから大丈夫よ。残業つけれないなら私をクビにしてくれってね。課長は胃を抑えながら部長への言い訳を必死で考えていたわ」

 苦笑いで応えた先輩だったが、仕事放棄を先導した首謀者の彼からしたら『はい、そうですか』とはいかないだろう。

 社員の扱いと対応の酷い会社に対して応戦すると決めた彼が、意味不明な歩み寄りに向かい合うにはまだ自身に折り合いが付けれないのだろう。

「……何を今更」

「……みんなを倒れるまで働かせておいて、残業すらつけることが出来なかった私を許してもらおうだなんて思っていないわ。だから私は平野に、みんなに謝るだなんて失礼なことはしない」

「ただ、これからは業績として結果に繋がったから残業をつけるのではなく、まず働いた分はきちんと残業をつける……そんな当たり前のことをしたいという私の勝手な我儘だから。……それにどうせ私がチーフから外されるまでのちょっとだけの間のことだから平野は気にしないで今まで通りにしていて良いからね」

 結局、真希先輩の言葉をジッと聞いていた彼は無言のまま自分のデスクに戻って行った。

 その表情は苦虫を噛み潰したような悲痛の顔つきでありながら困惑しているようにも思える。

 そして終業時刻を迎えるまでの間、皆全員一言も口を開かなかった。

 各々がそれぞれ様々な思いを頭に過らせていたのだと思う。


「よしっ、5時半だ!初日くらいはチンで帰ろう。では皆さんお疲れさん。おっと、昼前に言ったように明日は全員午後出勤なんでヨロシクッ」

 取り敢えず、一番先に帰り支度を終わらせた俺は皆に向かってシュタっと手を上げて重い空気をぶっ壊しておいた。

 
 さて、明日はどうなることやら。



 因みに、とっちゃんに釘を刺されていたので夜は俺の方から恭子に電話した。

 昨日の説教をちゃんと聞くって約束していたしな。

『お、お、お、お、お、、、おじさんですかっ!?私は神海恭子ですっ、コンバンハ!!』

 俺から電話をかけた筈なのだから、その電話応答は間違っていると思う。

 色々とめっちゃテンパってた。

 
 改めてこれからは恭子のこともきちんと考えなければいけないな。
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