独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん

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第4章 独身男の会社員(32歳)が長期出張から帰還するに至る長い経緯

第12話「大団円の後は」

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 翌日の早朝、真希先輩は誰よりも早く職場に出勤していた。

 無地のグレーのスーツにブラウスは真っ白なノーマルデザイン、そしてベージュのストッキングで身を固めていた彼女はどこはかとなく無垢で初々しい感じがする。

「この格好、本社の入社式のときに来ていたものなのよ。この年になってもまだ着れるってことはスタイルを維持できているのよね」

 勝負服ということだろうか。

 それとも初心に戻っての心機一転、もはや失うものはなにもないという覚悟の不退転の決意なのかもしれない。

 そして、チーム全員がオフィスの掛け時計をジッと見つめる中、九州支社における重役会議が始まる午前十時が迫ろうとしていた。

「それじゃあ行ってくるわね、みんな」

 最初に俺を見て、皆を眺めながらそう言った真希先輩は最後に平野に向かって一瞥した後に扉の方へ踵を返し、職場を後にする。

「……うす」

 平野の口から発せられた短い言葉が重低音となって張り詰めている空気へ響いていた。



 誰も口を開かず、手も動かさず、静寂の空間にコチコチとした時計針の音だけが聴こえる中で30分が経ち、そして一時間が経って徐々に皆の顔色から苦渋の色が見られ始めてくる。

「……なべ係長。主任、本当に大丈夫なんでしょうか?もうとっくに一時間は過ぎているんですけど」

「まあ、なるようにしかならないさ」

 不思議なもんだな。昨日まではあれだけ蔑んだ目で見ていた上司の事を一夜にして今度は心から心配しているだなんて。

「なるようにしかならないって……そんな、ちょっと無責任じゃないですか!!主任が今やっていることはなべ係長がアドバイスしたことですよねっ」

「うむ……俺は聞かれたことに対して一切隠し事はせず誠実に答えたつもりだったが、みんなからしたら確かに無責任な副主任に見えるかもしれんな」

 傍から見ればただリスクを負わせるような助言をしただけの男なんだ、俺は。

「もし……もしっ、これで、主任がクビになったり……やんごとなき状況になっていたら……」

 俺に苦言を呈していたその若い男性社員の弱音が段々とエスカレートしていったその時だった。

「こんのっ、糞たわけがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 それまで腕を組みジッと目を瞑っていた平野の怒号が鳴り響く。

「今まで主任を止ん事なき状況へ追い込んでいたのは誰やっ!俺らやぞっ!!自分らが蒔いた種やないかいっ!それを昨日一昨日来たばっかの上のモンに責任押し付けるつもりかいっ!!」

「腹ぁ括れやっ!覚悟を決めんかいっ!俺はもし主任が首を切られたら、そんときゃその隣で―――――自分の腹を掻っ捌いてやるわいっ!!」

 お、お、おおおおおぉぉぉぉぉ、、、お?なっ、なんて漢なんだ、平野。

 これぞ生粋の九州男児というヤツか。


 そしてそれと同時に、バタン、ドドッ、バタバタ、ドドンと何処かに力強く手を突いたり駆ける靴の音や躓く音に混じりながら激しい息切れの音が廊下からこちらのオフィスの方へ近づいていた。

「……やめて、よね。腹を、切るだ……なんてっ、そんなおっかないことっ」

 そう言いながら刹那、ドアから飛び込んできた真希先輩は、髪は乱れブラウスの胸のボタンは飛び散り、これでもかといわんばかりに揉みクシャになっている。

 それでも、その顔はまるであの時のようにキラキラと輝いていた。

「……主任」

「平野っ!!……大、、、至急っ、大日程とシフトを組んでちょうだいっ」

「それじゃあ……」

 彼女は皆の方へ向かってピースサインを送り、副社長の印が押された念書を掲げる。

「特別報酬15と休暇1っ、バッチリ確約させてきたわよっ!!」

 その言葉の後に続いたのはもの凄い大歓声だった。

 止まない主任コールに最後は何故か胴上げまで。

 それにしても、凄え盛ったな真希先輩。俺がやったのに比べて5万と2日上乗せしたなんて……強欲過ぎるだろ。


「よぉし!皆っ、気張って行くぞ、どうしても泊まり込みと休日出勤が出来ん日がある奴は今すぐ俺の所にメモを持ってこい!これは去年のリベンジやぞ!」

 なんと原始的なやり方の平野だった。メッセンジャーとか使えばいいじゃん。


 皆がすぐに取り掛かれそうな作業を猛烈な勢いで始めていた最中、平野はあっという間に大日程とシフトが完成させ、ホワイトボードに大きく張り出していた。

 恭子辺りが見たら発狂しそうな程の苛烈なシフトが一覧に表示されていたが、多分恭子が発狂することはないだろう。

 だって、何故か俺の名前だけがどこにも入っていないからだ。

 仲間外れ……じゃないよね?だって昨日の飲み会とか結構みんなと仲良くやってたもんな。

 そんな感じでマジマジと予定シフトを眺めていた時、平野が俺のところへやってきた。

「渡辺係長。話があります」

「えっ?あ、うん。いいよ、別に俺も同じ職場の仲間なんだからさ、皆と同じように気にせずシフト組んでよ」

 副主任というポジションなのに係長とかいう意味のわからない肩書きの所為で気を使わせてしまったんだろうか。

 それとも、副主任の俺を差し置いて大日程とシフトを組んじゃったことを気にしているのかな?でもそれは主任の指示だから何も問題ないんだけどなぁ。

「違います。係長をシフトに入れるつもりはありません。……今から俺の言うことは我ながら真に自分勝手ということは承知しております……が、なので気に障られたら俺のことをクビにしてください。決して恨んだりはしません」

「今回の大業務は係長ありきで終えるわけには絶対にいかんのです」

 ああ、そういうことか。

 平野は本当に武士のような漢だな。

 つまり真希先輩が率いるチーム川島を盤石化させるには、俺が名前が邪魔なわけなのだ。チームにとって最重要なのが俺になってしまえば、安定していない真希先輩立場がいつ危うくなってしまってもおかしくない。

 上層部に今後のチーム運営に必要なのが今の主任だということを知らしめるために、俺に実業務と管理業務の双方から外れて貰いたいということなのだ。

「主任には了承を得てはいますが飽く迄もこれは俺が言い出したことですんで、何卒主任へは変な誤解をされないようお願いします」

 最後にそう締めくくった平野の言葉には確たる覚悟と決意が感じられた。

 かつての師匠に言わせれば、それ俺には決して得られるものではないモノ。


「ん、わかった。でも最後くらいは俺にも一丁前の仕事をさせてくれ。……係長としての権限が行使出来るていで言わせてもらおう。今現在からきみに副主任の復帰を命ずる。……この椅子をあんたに返すよ。もう2度と失うんじゃないぞ」

 副主任以下の任命権は係長にあった筈だ。実際に係長として管理職に就いているわけではないので任命権なんてないのだが、後で課長から許可を貰えばいいだろう。

「このご恩一生忘れません」

 真希先輩の隣に並ぶデスクの椅子から立ち退いた俺に対して、平野は深く深くお辞儀をした。


 と、まあ、こうして副主任ですらなくなった俺は仕事も与えられずに主任補佐という肩書だけが残されたという本当に意味のわからない状態になってしまった。


 ちなみにその後の俺は会社の上層部の面々や他職場の人たちから『チーム再生工場』とか『職場再建請負人』とかそれこそ実に意味のわからない二つ名で呼ばれるようになったらしい。
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