大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

文字の大きさ
172 / 357
最終魔戦

謎の男と邪悪な神

しおりを挟む
 魔王を始末した男は、彼女のバラバラの遺体をもう一度見つめとバイクに股がった。
 そして男は静かに口を開いた。

「ギエイ、見ているのだろう。お前がたぶらかした娘に言うことはないのか?」

 そうは言うが、この場にはガスマスクの男以外は誰もいない。
 ……しかし。

「まったく、随分と恐ろしいやりかたをするな。ルキナが輪切りになっちまったぜ。脳味噌、目玉、はらわた、骨がかき混ざってグッチョグッチョだぜ」

 愉快そうな声が響きわたる。ガスマスクの男に、そう返答したのは神であるギエイであった。
 しかし魔王と会話していた先程のテレパシーのような脳間での情報のやり取りではなく、原始的な音波を用いた伝達であった。

「相変わらず、忌々しい奴だな」
「まあ、邪悪な神だからな。俺にとっては誉め言葉だ」

 男のくぐもった声に、ギエイは楽しげに返した。

「俺の計画の方向性はある程度まとまった。もう魔族は不必要、そして英雄どもも失敗作と化した。あとは、あいつを仕上げるのみだ」
「……まったく、とんでもない野郎だ」
「まあ、そんなこと言うな。手段は違えど最終的な目的はお互い同じだろう。じつに長い道のりだった。リズエルの封印から解かれてから、ここまでに至るのに千年以上もかかっちまった」

 ギエイは千年以上にわたる記憶を思い返した。

「リズエルが消えてから、アーカイブにわずかに残っていた情報をもとに俺は計画を練り実行させた。独自のやり方だがな」
「やり方が気にくわんな。魔族どもを転生させて、この惑星の人類と戦わせ、目的となる存在を作り出そうとするなど」
「仕方ねえさ。時間が無制限にあるわけでもないし、それにこうでもせんと効率が悪い。どのみち強い敵を送りつけて戦わせんと、この惑星の奴等が強くなるのに膨大な年月がかかる。……まあ、結局のところこの件は失敗に終わったがな」

 その話を聞いて、男はガスマスクの中で息を吐いた。

「そのために、この世界の仕組みを利用したわけか。別の世界からやって来た存在たる転生者は、高い戦闘能力を持つかわりに世界と共存できない魔族に必ず成りはてるという仕組みを」
「そのとおりだ。だが、知ってとおりその仕組は故意によるものじゃない……」

 ギエイは一度言葉を止め、再び語りだした。

「俺達が色々とやり過ぎて、そのような異常な仕組みができちまった。まあ、ある種の不可逆性の世界の不具合だな。二つの神が一つの世界を創造し、あらゆる存在をぶちこんでかき混ぜて煮込んだから、こんなになっちまったのかね?」
「さあな。いずれにせよ、お前は世界を完全に制御はできていないのだろう」
「ああ。この世界が異常をきたしすぎて、もう制御はしきれていない。それこそ、この先何が起こるなど予測不可能だ。星外魔獣コズミックビーストが何よりの証拠だな」
「……星外魔獣か」

 ガスマスクの男は、そう呟くと愛車を起動させた。

「メルガロスに現れたガンダロスは恒星系外からやって来た個体だ」
「ああ知っている。まさか、そんな領域から飛来してくるとは思っていなかったぜ。神である俺の超知覚をもってしても奴等の動きを探ることはできんからな。それに世界の異常のせいで隅々までこの世を把握することもできなくなっている、感知できるのは限られた範囲だけ。それに俺が封印されている間の情報も、ほとんど残っていないしな。何かするにも、手探り状態だぜ」
「……呑気なこと言ってる場合じゃないぞ。飛来してきたのはガンダロスだけではない。今、この惑星はかなりまずい状況にある」
「どう言うことだ?」
「それほど強大な星外魔獣になると、単独で惑星を壊滅させる。それが二体もメルガロスのどこかに潜んでいるんだ」
「……はは、マジかよ。恐ろしい程の成長速度だな」

 男の話を聞いて、ギエイは苦笑いをもらすことしかできなかった。
 そしてガスマスクの男はバイクのモーターの回転を確かめるためか、アクセルを三回捻った。  

「話が長引いたな、おれはいくぞ」
「あ、まて、二つばかり聞きたいことがあるんだ!」

 去ろうとする男を、慌ててギエイは引き止めた。

「なんだ?」
「魔王をしとめた、その刀はいったいなんなんだ? ルキナの肉体どころか、岩ごとバラバラに、しかも抵抗なくだ」

 そう尋ねるギエイ。
 すると男は腰から刀を抜き取り、それを見せつけるように真っ暗な上空に向けてかざす。

「斬る瞬間に刃から高エネルギーの光子を発生させることで接触した物体の分子を解離させる仕組みになっている。それにより抵抗なく対象を切断できるんだ」
「お前が開発したのか。相変わらず、とんでもないものを作る」
「とは言え何でもとはいかん。刀に供給されるエネルギー量や斬る対象の密度によって切断の速度や効率が左右されるからな。さっきの非対称性シールドもそうだが作るには、特殊な環境でしか製造できない電磁メタマテリアルや、この惑星には存在しないレアメタルが必要だ」

 そう言い終えるとガスマスク男は、腰に刀を戻し上空を見上げる。

「それで、二つ目の質問はあれについてか? ギエイ」
「そうだ、あのバカデカい竜のような生物についてだ。あれがどこから来たか分かるか? 転生でも転移でもない。俺がこの世界に呼び寄せたわけではないからな、あるいは別の神が関与してるのか」

 ギエイの言葉を聞いて、ガスマスクの男は少し考え込み。

「悪いが、おれもまだあれについてはよく分からん。解明するにも、かなりの時間が必要だ。しかし、これだけは言える。あの生物……いや、怪獣は自力で次元のはざまを通り抜けて来たんだ」
「怪獣? それが生物としての名称か」
「名は、たしかムラト。他の奴等からそう呼ばれていた」
「その怪獣とやらが次元移動する能力を持っている、と言うことか。しかしよぉ、ただの生物にそんな真似できるのか?」
「あれを、ただの生物と呼んでいいのかどうか。おそらく自力で次元を渡ってきたためだろうか、怪獣はこちらの世界の規範には束縛されていないようだ」

 それを聞いてギエイは、息がつまるように言い出す。

「……ふふ、やっぱりな。まったく恐ろしいぜ。敵には回したくないないものだな。……許してくれるだろうかね? サンダウロの戦いを仕組んだこと」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...