大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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最終魔戦

魔王の最期

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 闇夜の中、眩しい光を灯しながらトルク音を響かせる高速の存在があった。
 ルキナに接近しくるそれは、この世界にはあまりにも不似合いなもの。
 しかしルキナは近づいてくるそれに見覚えがあった。いや、しょっちゅう目にしていた。
 だが、この世界でではない。それを目にしていたのは死ぬ前のこと。そう以前いた世界の道路で行き交っていた乗り物。

「……自動二輪車オートバイ?」

 ルキナは目を丸くした。明らかに、おかしいのだ。
 今いる、こんな中世のような世界に原動機で走行する乗り物など存在するだろうか?
 そして大型バイクが魔王の目の前でブレーキをかけた。
 その二輪車は、非常に厳つく、重量感があり、堅牢そうな装甲に覆われていた。
 ……装甲二輪車アーマーバイクとでも呼べばよいだろうか。

「まったく、手間を取らせてくれる」

 二輪車に股がっていたのは不気味な男であった。
 身長一九〇程で、渡世人のような服装、そして防毒仮面ガスマスクを思わせるもので顔をかくしている。
 そのライダーは二輪車から降りると、背後で真っ白な尻尾をなびかせた。その数は九つ。
 どうやら、毛玉人のようだ。

「な、なんだ、お前は!」

 ルキナは後退りながら言った。
 眼前の男の正体が分からない。メルガロスの者だろうか? しかし、この世界に相応しくない物を乗り回している。とにかく異常な存在であるのはたしかだ。
 そう考える彼女を追い詰めるようにガスマスクの男は歩み寄る。

「今から死ぬ貴様に名乗る名はない。この世は、転生者どもの遊び場ではない。部外者と化した連中には、とっとと消えてもらう」

 ガスマスクの影響だろうか、男の声はくぐもっている。そして、ルキナが転生者であることを見抜いていた。

「なぜ私が転生者だと分かるの?……私が死ぬですって? なめないでよ! できるものならやってみなさい!」

 ルキナは残り少ない魔力を消費して、魔術の根源となる魔粒子を圧縮する。そして、形成されしは多数の氷の槍。

「アイス・ジャベリン!」

 ルキナが詠唱すると、彼女の周囲で浮遊していた無数の鋭い氷が高速で射出された。
 言わずもがな魔王の魔術は、この世界ではトップクラスの威力をもつ。それが情け容赦なくガスマスクの男を穿とうとする
 しかし魔王の魔術は男を貫くどころか、触れることさえできなかった。
 氷の槍は男を打ち抜くことなく、全て見えない何かに弾かれたのだ。

「無駄だ。神の力を没取された、お前の魔術など通用せん」
「……ば、馬鹿な」

 ルキナは驚愕することしかできなかった。魔術の防壁だろうか? 
 しかし魔王の魔術を防ぐなど勇者や賢者のような存在でもなければ不可能だ。
 だが、このガスマスクが英雄の類いとはとても思えない。
 ……いったい、なんなのか?

非対称性力場ひたいしょうせいりきば。特殊なシールドを発生させている」
「シールド……ですって。馬鹿な、防御魔術で私の攻撃を防ぐなど無理よ……」
「魔術ではない。それに、おれは魔力を持っていない。高度なテクノロジーを用いれば、神秘も奇跡も再現できる」

 ガスマスクの男はそう語りながら、さらにルキナに詰め寄る。そして腰に携えている印籠を指で軽くつついた。

「こいつがシールドの仕掛けだ。この力場は特殊なものでな、お前からの攻撃はとうさないが……」

 そう言った瞬間、男の腕が高速で動いた。つかんだのは印籠と同じく腰につけていた短筒であった。
 夜の空間に発砲音が二回響き渡る。もの凄い早撃ちだった。

「うあ゛あぁ!!」

 両膝を撃ち抜かれたルキナは、激痛でその場に崩れた。ドクドクと溢れる血で魔王の美脚がたちまちに汚れる。
 男が手にしていた短筒は見た目こそ火縄レトロだが、実際は自動式拳銃オートマチックであった。

「おれからの攻撃はすり抜けるんだ」

 男は拳銃を腰に戻して先ほどの話を続けた。

「……こ、こんな、なんで? こんなこと? あり得ない……ここ異世界なのに……ファンタジーなのに」

 ルキナは銃で撃たれるなど初めてであった。
 初めての痛みと、時代にそぐわない物を見た影響で彼女は混乱していた。 

「どうして……私はただ、みんなと平和に過ごしたかった……それだけなのに?」

 ルキナは出血のひどい両脚を引きづり、ほふく前進するように動いた。そして、近くにあった岩によりかかる。
 そこに無慈悲にガスマスクの男が歩み寄る。

「たしかに悪いのは、お前を騙した神かもしれん。だがな、お前の心の未熟さが招いたことでもある。元の世界で理想が得られなかったから、別の世界で理想を求める。そんな考えだから、神に騙されて捨て駒にされたのではないのか?」
「そんな……私は……ただ幸せになれなかった人達を笑顔に……」
「そして、あらゆる世界の奴等を転生させたか。この世界での転生者は死ぬことが運命付けられていることも分からずに」

 男はルキナの目の前で脚を止めると、また新たな武具を手にした。腰から抜き取ったのは刀。柄から鞘まで拘りつくされている作り、日本刀と呼べそうな逸品であった。
 ルキナの目の前で月光を反射する刀身が輝く。

「お前は人を喜ばせたのではなく、神からの頂き物で自分は転生者達を導く特別な存在だと思い込み、地獄への道連れを増やしただけではないのか?」
「……ち、ちがう……私は……本当に」

 男の言葉を否定するルキナ。
 だが自分が神から授かった力を使用して人々を転生させたばっかりに、多くの人々が魔族になり、再び苦しみながら死ぬ運命に晒されていることには違いはない。
 ただ、不幸の最中で死んでいった者達を理想の世界に導きたかっただけ。それだけだった。
 しかし善意と思っていたことたがこんな結果を招いた。それが事実で現実。

「ここはな、神から力を貰って夢をかなえる場所じゃないんだ。転生ごっこはこれまでだ、今度こそ真面目に死ぬんだぞ」

 男はそう告げるとルキナに神速の斬撃を浴びせた。
 一太刀ではなく幾度も刀が振るわれる。常人の目では捉えられない速度。その鋭さは、抵抗なく対象を切り裂いていた。
 ルキナが寄りかかっていた岩が無数の輪切りになり崩れる。

「あばよ」

 男が刀を鞘に戻すと同時に、ドチャドチャと無数の肉の輪切りが大地に散らばった。
 肉の塊と化した魔王を見て男はガスマスクの中で一息つくと、左手に装着された小型端末を起動させた。そして誰かに通信を送る。

「おれだ、魔王は始末した。逃げ延びている魔族がいないか探ってくれ。観測衛星を使用してかまわん」
「分かりました、我が主様あるじさま

 端末から聞こえたのは女の声であった。

「すまんな、色々と任せて」
「いえ、とんでもありません。私は貴方のものです」
「ふむ、お前がそれで良い言うのなら構わんが。あまり自分を道具のように認識するなよ。そんなことのために、お前を助けたのではない」
「……申し訳ありません。その言葉、私にとってはこの上ない至福です」
「頼んだぞ、リズエル」

 男は最後にそう口にして通信を切った。 
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