大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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最終魔戦

破滅しかない者

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 女王の間は血の臭いで溢れていた。
 壁や床や柱はもちろんのこと、メリルが日頃から使っている玉座までもが血液でドロドロとしている。まさに血の海と言える光景。

「最期に何か言い残したいことはあるかね?」

 ニオンは、四肢を根本から切断されて床の上でモゾモゾと蠢く魔王の付人であるシンシアに問いかけた。
 ニオンの横には、二人になってしまったクレディアの遺体が転がっている。しかし魔術で二人に分身したとかではない。脳天から体を縦に両断されてしまったのだ。
 シンシアの四肢切断、クレディアの脳天からの唐竹割り。これらをやってのけたのはニオンである。その剣技は人間の域を遥かに越えているだろう。
 シンシアは芋虫のように床の上で足掻き、どうにか体勢を変えるとその目でクレディアの死体を確認した。遺体からは血液が抜けきったらしく、彼女の柔らかそうな肌は蒼白に染まっていた。
 そして、涙を流しながらシンシアは語りだす。

「……最後に教えてくれ、なぜ私達は死ななければならなかったのだ? ルキナ、いや、魔王様は大陸全土を支配下においたあと、お前達人類と差別なく共存しようと考えていたんだぞ……それなのに、お前達は……」

 種は違えど魔族は人類と分かり合える部分がある。だから、いずれともに生きていけると魔王は考えていた。
 そうなれば全員が苦しみから解放された新世界が訪れると思って、シンシアは懸命にルキナを手助けしてきたのだ。しかし、もうその希望は断たれた。

「知りたいのであれば、答えよう。君達魔族は、その身から自然を崩壊させる毒性を放出しているのだ」
「……な! なんだと!」

 穏やかな表情で真実を告げるニオン、それを聞いてシンシアは驚愕のあまり声を荒げた。
 ニオンは刀をシンシアの首筋に近付け、彼女を見下ろした。彼のその瞳は優しげだが、奥には冷血と狂気がやどっていることがうかがえた。

「毒の発生は魔族が生命活動を続けるかぎり止まることはない。どの道、魔族は滅びるしかないのだ」
「……そ、そんな。それじゃあ、私達は何のために」

 ニオンの話を聞いて悲痛の声をあげるシンシア。
 つまり転生して魔族に成り果てた時点で破滅が決定づけらていたことを意味していた。
 仮に魔族が世界を掌握できたとしても自らが放出する毒で惑星が朽果て、いずれ全生命が滅びてしまう。
 真実を知ったシンシアは、涙を滲ませながら前世を思い出した。まるで走馬灯のように。




 彼女がいた世界は超能力にあふれ、何ら不便がない場所だった。しかし突如として、その平穏は崩壊を迎えた。
 どこからともなく強大な力を持った暗黒のごとき巨人が襲来したのだ。
 その巨人がどこからやって来たのかは分からなかった。
 闇のように黒い体には血管のような赤いラインが巡り、胸には紅に輝く発光体があった。まさに暗黒の巨人としか言いようがなかった。
 もちろん巨人を超能力で迎え撃とうとしたが、なぜか奴の前では能力が行使できなかった。能力が使えない超能力者など、ただのひ弱な人間でしかなく、人々はことごとく死んでいった。
 その暗黒の巨人は、極超音速で飛行し、恐るべき怪力を持ち、腕からは強大な破壊力を秘めた光線を照射するなど、超常的な能力でシンシアの世界を蹂躙してしまったのだ。
 そして、シンシアもその戦火の果てに命を失った。
 その時だった転生して魔王ルキナと出会ったのは。

「私と一緒に新しい世界を築こう。苦しみがない世界を。あなたは転生したのよ」
「転生? ……あなたは?」
「私は魔王ルキナ。私に力を貸して、あなたを必ず幸せにしてあげるから」

 それからと言うもの、魔王に全てを捧げて彼女に助力した。
 大変な時もあったが、同じ転生者である皆が支えてくれた。
 なにより自分に二度目の人生を与えてくれたルキナがいたから、頑張ることができた。
 自分の半分はあの子のもの、今でもそう思っている。




 だが、もう全ての夢が朽ち果て、自分にあるのは死ぬことだけ。
 絶望のどん底の中、シンシアはゆっくりと口を開いた。

「……ルキナちゃんは、どうなるの?」
「魔王のことかね? 無論、見つけしだい殺すしかない」

 静かに言うニオン。その言葉になんら迷はなかった。まるで当然と言わんばかりに。

「……おねがい、あの子だけは……」
「悪いが、それはできない」

 シンシアの懇願を振り払うかのように、ニオンは刀を一閃させる。音をたてて玉座にシンシアの首がぶつかった。
 そして、ニオンは頭のなくなったシンシアの亡骸を見て言うのであった。

「命に変えても主君を逃がしたその忠義は賞賛しよう。君達が魔族でなかったら、ともに生きていけたのだがね」

 ニオンは刀の血糊を振って払いのけた。そして刀を鞘に戻すと、自分の様子をうかがう三人に目をむける。
 メリル、ミース、ジュリは悲しげな表情をしてニオンを見つめていた。本当は、こんな結果など見たくなかったはずだ。……しかし、どうすることもできないのだ。

「すぐに魔王の捜索を始めましょう、魔族は一人たりとも逃がしてはいけません」

 静まり返った女王の間に、ニオンの声だけが響いた。




 どうしてこんなことになったんだろう?
 ただ皆が笑顔になれる場所を作りたかった、それだけだと言うのに。
 転移魔術の使用で疲労したルキナは、深夜の草原を速足で駆けることしかできなかった。
 魔王のみやこは遥か先、無事に帰れるかも分からない。
 そして、シンシアとクレディアを見捨ててきてしまった。
 
「シンシア……クレディア」

 ルキナは二人のことを思わずにはいられなかった。
 もう二人は殺されているだろう。
 涙が溢れ出てきた、しかし今は逃げることに専念しなければならない。
 彼女達は命がけで自分を逃がしてくれたのだ、それに報いなければ。

「きゃっ!」

 石につまずきルキナは転倒した。
 痛みをこらえて立ち上がろうとしたとき、頭の中に聞き覚えのある声が響いた。
  
(いやはや、しぶといな。いい加減諦めたらどうだね? そもそも、お前はもう死んだ身だろ)

 嘲笑うかのような言葉がルキナの頭の中に入り込んできた。
 以前までは災魔神さいまじんと呼んで崇拝していたが、今では自分達を理由なく見捨てた忌々しい存在でしかない。

「……うるさい、あんたなんかと話したくない」

(そうか。では一つ伝えておく。もう、お前に帰る場所などない)

「……それって、どう言うこと?」

(今、魔族の領域はメルガロスの連中に襲撃されている)

「なんですって! み、みんなは?」

(残念だが、ことごとく殺されているぜ)

 ルキナは膝をつく。
 いったいどうして、なぜここまでしてメルガロスは自分達を殺そうとするのだろう。
 そんな彼女の心を読み取ったのか、邪悪な神が脳に言葉を流し込む。

(今まで秘密にしていたが、魔族はこの世界では生きていけぬ)

「生きていけない? どういうこと……」

(魔族は生命活動を続けるかぎり、自然に有害な物質を発生させる生き物なんだ。だからこそお前達は、この世から駆逐されそうになっているんだ)

 それを聞いてルキナは青ざめた。
 そして、あの言葉を思い出す。メリルが言っていた「魔族とは共存できない」という言葉を。……このこと、だったのだ。

「私達が毒を出してるから……どうして教えてくれなかったの!? いや、なんでそんなものに転生させたのよ?」

 神に向けて怒号をあげるルキナ。これでは、ただ死ぬために異世界に転生してきたようなもの。
 この邪悪な神はいったい何を思って、破滅しかないものに転生させたのか。

(この世界の規範では、転生者は必ず魔族になるように仕組まれているのさ。魔族以外に転生するのは不可能だ)

 とその時、微かではあるが何か自然的でない音が聞こえてきた。
 ギュルルルと言う、まるで巨大な電動モーターが回転しているような。

(おやおや。魔王ルキナよ、どうやらこれまでのようだ。諦めは肝心だ)

 その機械的な音に邪悪な神も気づいたらしく、ほくそ笑むように言った。 
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