大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

文字の大きさ
189 / 357
潜みし脅威

激闘の前兆

しおりを挟む
 闇夜を明るくせんとばかりに猛火が家々を貪るように焼き尽くしていた。
 避難したらしく、この都市に住民はもういないようだ。あるのは燃え盛る建物だけであった。
 そして、その紅蓮の輝きの中を突き進む隊列をくんだ無数の兵士達。
 その者達は、強固そうな鎧を纏い、剣や槍を片手に一心不乱に燃え盛るなかを前進する。そして、その顔には生気がなく、まるで亡霊のようであった。




 その魔導大国は、神が死した地とされるサンダウロから北東部に存在している。
 毛玉人達が建国した国家で、非常に優れた毛玉人の魔導士達が集う国であった。
 その大国の魔導士達は膨大な魔力と多数の魔術を持っており、大陸最高の魔導騎士の組織を創設していた。
 その強大な戦力が抑止力となって、他国からの脅威にさらされない安定した国家が築かれていた。
 しかし、その大国が今まさに落とされようとしていた。

「……我々はどこで失敗してしまったのだろうな」

 城のバルコニーに佇む、ライオンの毛玉人が呟く。しかし、その体毛は普通のライオンとは違い美しい純白であった。
 白獅子の王は冷静な面持ちであるが、その目には悲しみが宿っている。
 彼が眺める先に広がるのは地獄絵図であった。
 真っ赤な炎に焼かれる都市。そして城に迫る数百もの軍勢。
 その兵達が都市崩壊させた、そして今度は王である自分の命を狙って進軍してきている。

「もはや、ここまでか」

 白獅子は諦めるように、うつむいて息を吐いた。
 状況から見るに間違いなく、この国は占領され、そして自分も助からないだろう。
 ……しかし希望は、まだある。
 そう思い、王は力強く顔をあげた。

「国王様! 都民の避難は終わっています、国王様も早く!」

 王が佇むバルコニーに悲鳴のような声が響き渡った。
 姿を見せたのは、ボロボロのフードを深く被ったものであった。声で少女であるのは分かるが、その素顔はフードで隠れて見えない。
 そんな彼女に国王は優しげな表情を見せた。

「お前達だけで逃げるのだ」

 白獅子はゆっくりとフードの少女に歩みより、彼女が抱えているものに目を向けた。
 それは自分と同じ純白の体毛に覆われた獅子の赤ん坊であった。

「レオ、お前がこの国最後の希望」

 王は寂しげな表情で言った。
 彼が見つめる赤ん坊は、周囲が悲惨な状況にも関わらず穏やかにスヤスヤと眠っている。

「あとのことは、たのむ」

 そして白獅子の王は視線をフードを被った少女に移した。
 彼女の顔は見えないが、おそらく今にも泣き出しそうな表情をしているだろう。

「さあ、行くのだ」
「……な、なにをおっしゃいます。ともに行きましょう」

 国王の言葉に耐えきれなかったのか、少女はついに震えた声をあげる。

「余は、この国の王。この国と運命をともにする、それが最後のつとめ」
「そ……そんな」
「それに誰かが奴等を足止めせねば、お前達二人はとても逃げきれまい。そして、あのような卑劣な者達に好き勝手はさせん、ただではこの命やらんぞ」

 もうこの城内に敵兵は侵入しているだろう。
 となれば誰かが敵の注意をそらさなければ、彼女達が脱出するのは困難なはず。
 ここに残っているのは王である自分と少女と白獅子の赤子だけ。
 ならばやることは一つである、国王は厳しい顔を少女に向けた。

「最後の命令だ、息子をつれてここを離れよ。余は命つきるまで戦い続ける」
「国王様! わたしも!」
「ならん! お前は、もう戦える体ではないんだぞ。それにレオは、どうなる? その子を守れるのは、お前しかいないのだ。……頼む」

 白獅子の国王は少女の懇願を突き放した。
 おそらく彼女は、王とともに戦い一緒に死ぬのが所望なのだろう。
 だがしかし、ここで二人が倒れれば最後の希望は断たれる。

「……うぅ……あぁあ」

 すると、少女は踵を返して嗚咽をあげながら駆け出すのであった。

「行くのだ、ミアナ! 振り返らずにゆけ! その子の生命いのちあるかぎり、我々に終わりなどない!!」

 国王は叫び声をあげた、フードの少女が背を向けて駆ける姿を見ながら。
 彼女の背には悲しみが感じられた。だが、けして終わりではない。
 白獅子は彼女の姿が見えなくなると、満足げに顔を緩めた。

「ミアナ、大魔導騎士隊マジカル・ナイツ唯一の生き残り。後は頼む。……騎士隊かれらがいれば、こうはならなかったのだろうな。しかし、まだ望みはある」





 草木が一本も存在しない領域。そこは以前まで魔族達が占領していた領域である。
 彼等が生きる上で放出した毒素の影響で、ここにはもう緑は戻らない。
 しかし、そんな草木が一本も生えない場所を歩く二人組がいた。
 その容姿は、色白で細身、整った顔立ちにとがった耳、金髪の青年達であった。彼等はエルフである、とある理由でここに来ているのだ。
 その二人の様子だが、一人は足早に歩くが、相方のエルフは片手に鐘をもち頻繁にカランカランと音を鳴らしていた。

「ところで、さっきから何をやってるんだ? そんな鐘なんかならして」

 足早に歩いていたエルフが相方に問いかけた、この枯れ果てた場所に踏み行ってから度々に鐘を鳴らしていたため気になっていたのだ。

「あぁ、これか。ドワーフ達から貰った魔除けの鐘だよ。魔族どもが二度と現れないようにと願いをこめて作った物なんだ」

 そう言って相方のエルフは、またカランカランと鐘を鳴らした。

「なんでも素材は、生け捕りにした魔族を溶鉱炉に沈めて作ったらしいぞ。こりゃあ魔除けには最適だな」
「……そ、そうか。取り合えず、調査をつづけるぞ」

 楽しげに語る相方に、足早に歩いていたエルフはひきつった顔で返答し任務へと戻った。
 彼等がなぜこんなところに調査をしに来たのか、それには理由があった
 事の始まりは異常な現象からだった。
 一週間程前から、この辺りで異様な地鳴りが続いているのである。
 使い物にならないこの不毛の大地を管理するためにも、多少なりこの領域への出入りはある。そんななかで継続的な異様な振動を感知したのだ。

「生き残りの魔族が何かを企んでいるのか、あるいは……」

 足早に歩いていたエルフがいきなり言葉を中断した。
 わずかながら大地が揺れだしたのだ。
 そして、それは一気にやって来た。ゴゴゴゴと唸るような音がなり、立っていられない程の震動が来たのだ。
 いきなりのことに思わず二人は地面に這いつくばる。
 数秒程で揺れはおさまったが、やはりこの振動は異常であった。 

「おい、魔術で増援を送るように伝えてくれ。私達だけでは手に余るかもしれない、増員してこの周囲を詳しく探るぞ」

 青年は起き上がると、鐘を持っていた相方のエルフにそう告げた。
 何かの災いの前触れか?
 とてつもない事が起きようとしているのか?
 エルフの若者は、ただならぬ不安を感じていた。

「……なあ、おい、魔粒子が集まらないんだ。これじゃあ魔術が使えん」
「……なんだと」

 連絡のために魔術を行使しようとしていた相方エルフの言葉を聞いて、顔を色を変えた。
 そして任務に出掛ける前に族長に言われた言葉を思い出した。「魔術が使用できないと言う、異常な現象がおきたら一目散に撤退するのだ」と言う、内容を。 

「……急いで、ここから離れるぞ」

 しかし気がつくのが遅かった。すると、また激しい揺れに襲われた。
 そして大地が大きく引き裂かれた。

「バオォォォォ!!」

 地獄のごとき雄叫びが響き渡り、二人のエルフは天高く吹き飛ばされたのだった。
 大地を引き裂き、土煙をまといながら巨体が姿を表した。
 体長四十五メートル、体重七万五千トン。
 現状の生物学の概念ではあり得ないサイズの四足歩行の怪物であった。
 しかし、それは生物と言うよりも黒き火山と言えそうな灼熱の猛獣だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

異世界複利! 【単行本1巻発売中】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、 魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...