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潜みし脅威

交渉決裂

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「……な、なんで? どうしてよ!」

 オボロのバッサリ切り捨てるような言葉を聞いて、ミアナは声を荒げた。
 現状を考えると、石カブトの協力なしで王国を奪還するなど不可能に近いのだ。
 無論のこと、彼等石カブトに頼まず他の国家から協力を得ると言う考えもあるかもしれない。
 しかし、国王はもう亡く、その後継ぎであるレオ王子はまだ赤ん坊、そして国民はバラバラに散っている。今、王国は国家として成り立ってない状態にあるのだ。
 そんな混乱極まりない状況で他国への要請など困難だろう。
 そして、なにより別の国のために超帝国に戦いをしかけるようなお人好しの国家などあるわけがない。
 現実的に考えれば、単独ひとりで一国を相手にすることができる石カブトを雇う以外に手段はないと言えよう。
 だからこそ、ミアナは必死になって説得を続ける。

「報酬の後払いが気に入らないの? 支払いは必ず約束するから、お願いだから力をかしてよ!」
「お嬢ちゃん……いや、ミアナ。これは報酬の問題じゃねぇんだ」

 オボロは初めて彼女の名前を口にすると、巨体を振り返らせる。またもや、大地がズンと揺れ動く。

「石カブトは、金を貰ってさまざまな仕事をこなす便利屋みてぇなもんだが戦争屋ではない。それに理由は言えねぇが、オレ達は国家間の争いごとには介入することは許されねぇ立場にある」
「でも野獣大戦の時に、あなたは傭兵として参加したじゃない」
「それは昔の話だ、今は傭兵じゃねぇ。それに、あんときゃまだオレはただの子供ガキだったからな。……変な正義感や価値観にとらわれた結果、あんな戦争をやっちまったわけだ」

 その言葉を聞いて、ミアナは困惑する。

「……が、ガキってどう言うこと?」
「あの血生臭い大戦の時、オレはまだ十代前半だったんだ。お前よりも幼かった」

 淡々としたオボロの発言でミアナは背筋を氷らせ戦慄した。

「こ、子供……じゃあ、あの大戦の損害は……」
「そうだ、クソガキだったころのオレの仕業だ」
「そ、そんな……子供が……あんなことを」

 ミアナは信じがたいと言わんばかりに、声を振るわせる。

「なら分かるだろ。オレ達は、もう人同士の戦いに立ち入ることはできねぇ、許されねぇことなんだ。だから帰るんだ。国の奪還の協力はしねぇが、難民としての援助ぐらいはしてやる」

 オボロはそう告げると、立ち去るようにズンズンと地を揺るがしながら歩き出すのであった。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 去ろうとする超人の背を見ながら、ミアナは震えながらも声を絞り出した。

「もとはと言えば、あなた達が……!」
「オレ達が、なんだ?」

 再び振り返るなりオボロは、言葉を続けるミアナをギョロリと睨み付ける。
 そのあまりの気迫に負けたのか、少女の声が途中で消え去った。

「確かに、魔導士達を壊滅させたのはオレ達だ。だが先に攻撃を仕掛けてきたのは、お前達だろうが」

 オボロは少女に鋭い視線を向けながら、濁ったような声で言うのであった。
 そんな恐ろしげな目を向けられながらも、ミアナはどうにか恐怖心を圧し殺しながら振るえる声を発する。

「……あ、あれは……あなた達がいきなり現れたから、状況が状況だったから……」

 あの時、サンダウロは紛争地帯だったゆえに魔導士達は皆極度に緊張状態であった。いつ敵であるギルゲスの軍が現れるか分からない状況だったのだ。
 そんな状況で、いきなりムラトのような巨大生物が転移してきたため、転移魔術を利用した敵軍の奇襲と誤解してしまい魔術の砲撃を開始してしまったのだ。
 そして互いに退けぬ状態になり、戦闘が始まってしまった。
 その結果は魔導士達の一方的な虐殺であった。

「状況が状況だった、だと。なら聴くが転移魔術による誤った地点への転送は極稀ではあるが、おこりうることだ。その際の対処は転移対象に攻撃を加えることか?」
「……」

 オボロの問いを聞いて、ミアナは言葉を失う。
 こと転移魔術の失敗で誤転移された対象が現れた場合の対処方法は、身元の確認や保護、状況によっては立ち退きを促すなどが決まりである。
 転移対象の正体を確認もせず、いきなり攻撃するなど野蛮極まりないこと。断じて、あってはならないことなのだ。
 ミアナ達は冷静さかいて、その過ちを犯してしまったのだ。

「騙されてサンダウロに転移させられたとき、オレ達はすぐさまその場から逃げ出そうとしていた。だが、お前らは問答無用にムラトの背に向けて魔術を放ってきたな。その後もオレ達はどうにか誤解をはらそうと対話を望んだが、それでもお前達は攻撃をやめなかった。だからこそ仕方なくオレ達も迎え撃つしかなかったんだ」

 冷たげにオボロは言うが大方正論だろう。ミアナは何も言い返すことができなかった。
 大損害を受けたのはこちらだが、石カブトに全ての責任があるなど、とても言えたものではない。
 自分達が賢明な状況判断ができずに、こうなってしまったのだ。戦いに身を置く者としては、あってはならないことだろう。

「……どうしても……要求をのんでくれないのね……それなら!」

 そして、交渉の失敗を悟ったミアナは最後の手段に出るのであった。

「ウォータ・プリズン!!」

 隻腕少女のいきなりの詠唱が響き渡る。
 ミアナの目の前に巨大な高密度の水球が形成され、その液体の球形牢獄がオボロに向かって放たれた。

「うわっぷっ!」

 オボロを包み込んだ魔術は、対象を水の球体に閉じ込める拘束の魔術であった。
 しかし、ただ相手を捕らえるだけではない。全身が水で覆われるため、窒息させることができるのだ。

「さあ溺死したくなかったら、わたしの言うことにしたがって!」

 こんなこと人として最低だろう。ミアナは、そう思うのであった。
 思い通りにいかなかったから、こんな攻撃的な手段にでるなど。 
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