大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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超魔の目覚め

崩壊と激突

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 ……死屍累々。
 多くの死体が重なりあって、むごたらしいさま、を意味するが。
 しかし、この場景はそれどころではない。
 なんと言っても、超獣の攻撃を受けた人々は、まともな死体などにはならないのだから。
 一撃で微粒子の血煙と無数の肉片にまで粉微塵にされ、破壊された建物の破片と混ざり合う。
 人間をすり潰して絵の具にし、ぶちまけたような光景、としか言いようがない。
 赤い粘液にまみれて濡れた、石、木材、残骸はおぞましきものであろう。

「いやあぁぁぁ!」
「……うわあぁぁぁ!」

 そして響き渡る老若男女の絶叫。
 しかし超獣の攻撃が止むことはない。
 三十ミリの超高速弾に耐えられる物が、この都市に存在しないのは言うまでもなく。
 それが容赦なく人々に掃射されるのだ、身を守ることさえできず、死ぬ以外に末路はなかろう。
 ……人は文明を持ち、他の動物とは別格で最高位の種にして世の支配者。
 と、思い上がる者もいるかもしれないが、この現実をみれば人と言えど、ただの肉の塊でしかないのかもしれない。

「ジュオォォォォ」

 しばらくして機関砲の射撃がおさまり、無機質なヴァナルガンの鳴き声らしき音が都市に響きわたった。
 超獣の周辺一帯は、もはや形と言う形はなく人を含めた全てが粉砕されていた。
 そして何かに気づいたのか、ヴァナルガンはやや遠くへと輝く複眼を向けた。

「なん何だ、あの化け物!?」
「好き勝手に暴れやがって!」
「行くぞぉ!」

 して視線の先にいたのは、都市に駐屯する国の兵士や滞在する冒険者達が入り交じった数百人規模の部隊であった。
 国と人々を守るのが兵士の役目。
 怪物を倒して利益を得るのが冒険者の仕事。
 なら国や住民や己に害を加える存在を撃滅するために立ち向かうは当然のこと。

「……うっ!」

 しかしヴァナルガンに紅く輝く目を向けらた瞬間、兵士達も冒険者達も動きを止めた。

「……ぐぬぬぬ」

 さっきまでの威勢はどこへやら、呻くような声をあげて武装した集団は後ずさる。
 魔族や魔物を相手にするために戦闘訓練を重ねてきてはいるが、はたして自分達の戦闘能力は視線の先にいる怪物に通用するだろうか?
 ヴァナルガンの体高五十八メートル、重量六万トン以上。
 接近したことで、そのあまりにも違いすぎるスケールは嫌でも理解できよう。
 自分達が手にしているのは剣、盾、槍、弓など。
 ……はたして、そんなものがこの怪物に通るだろうか?

「ジュオォォォォ!」

 してまたヴァナルガンの声が木霊する。
 そして、その全身の銀色の装甲が白熱に輝き出した。

「……うわぁ!」
「どわっ!」

 眩い閃光に包まれ兵士も冒険者も思わず、目を瞑り両手で顔を覆う。
 そして次の瞬間、灼熱の激痛がおとずれた。

「ぐぅあぁぁぁぁ!!」
「あ゙っ! ……あ゙ぁぁぁぁ!!」

 全身が焼け出し兵士や冒険者達は悲鳴を轟かせる。
 身に付けていた服は発火し金属類などはグニュグニュに変形し、表皮は焼けただれて炭化し、表皮内の水分が気化・膨張したことで皮膚が剥がれて垂れ下がる。
 そして周囲の瓦礫や辛うじて残っていた建物も、木造家屋は発火して石造りのものは表面が溶けて泡立った。
 それは全身の装甲を赤外線放射器官として用いた高熱放射攻撃であった。

「う……あぁぁぁぁ」
「ぐうぅぅぅ……」

 そして熱放射が終わり、パッと眩い閃光はおさまった。
 重々しく響くは、全身を丸焼けにされた兵士と冒険者が地面を這いずる音と呻き声である。
 皮膚が焼けて剥がれたため、もはや性別も素顔をも分からない姿となっていた。
 ……やはり、と言うべきか。
 辺境の町同様に、冒険者や兵士のような存在は殺されなかった。
 しかしこうなること考えると、いっそのこと一思いに殺された方が楽であっただろうに。

「ジュオッ」

 そして同じく情報収集が行われる。
 ヴァナルガンは、もがき苦しむ兵士や冒険者達に向けて右手をかざす。
 掌から無数の黒い繊維が現れ、それが躊躇なく熱傷で苦しみ足掻く者達に巻き付いた。
 繊維は彼等の穴と言う穴から体内に潜り込み、脳髄に電気パルスを送り込む。
 ビクビクと痙攣することに構うことなく、電気刺激が与えられ続けた。
 そして三十秒ほどして、無惨な遺体と成り果てた兵士や冒険者は解放される。

「ジュオッ!」

 この都市にはもう用がなくなったのか、ヴァナルガンは背部と足底から推進力たるプラズマを噴射させ、その銀色の巨体を上空へと昇らせた。
 ……まだ都市には多くの住民がいるが、見逃すのだろうか?
 いや、それはなかった。
 都市の上空に至ったヴァナルガンの胸部の装甲が左右に開き、そこから巨大な砲身が機械的な音を発して姿を現わしたのだ。
 そして都市上空にはキィーンッと言う高音が響き渡り、胸部の砲身が回転を始めた。
 エネルギーを充填しているのか、砲口内に青白い光が発生する。
 そしておおよそ四十秒の充填をえて、砲口から膨大なエネルギーが放たれた。
 エネルギーは指向性の光の柱となり、都の中心部に降り立った。
 指向性を得た光の照射時間は約一~二秒程だが、それはつまり膨大エネルギーが短い時間で一気に放出されたことを意味している。
 そして強力なエネルギーの奔流が降り立った都は閃光が走りぬけ、巨大な爆炎に飲み込まれた。
 夜空は真っ赤に染め上がり、発生した爆風は都周囲の木々も薙ぎ倒し、土砂もろとも天空へと巻き上げた。




 「……くそっ」

 モニター越しに都市が消滅するさまを見て、ハクラは苦し気な声を発する。
 都市を救うことはできないと分かりきってはいたが。
 ……しかし人々が焼きつくされる光景には感情を抑えることができなかった。
 そしてモニターに映る消滅した都市に、また目を向ける。
 都市があった場所は、巨大な溶鉱炉のごとく橙色に輝き灼熱と化している。あまりの高温でしばらくは近づくことはできないだろう。
 そして分析していたのかコンソールを操作していたリミールが口を開いた。

「どうやら、体内の融合器官に直結した強力な中性子ビーム砲のようです」

 先程の都市を消し去った攻撃のことだろう。
 そして彼女もモニターに映る灼熱に消えた都を見て、言葉を続けた。

「我々が戦った時には、あんな能力など……」
「いや、不思議なことではない」

 リミールの詰まった言葉に、ハクラが答える。

「奴等は常に成長と強化を繰り返して、自身の肉体を強力な武器や兵器として進歩させているんだ。その過程で新たな能力を獲得してもおかしなことではない」
「……うっ」

 ハクラの言葉を聞いて、リミールは息詰まる。
 つまり、かつて母星を破壊しつくした頃よりもヴァナルガンは、より強くなっていると言うことなのだ。
 そして都市上空に止まっていたヴァナルガンが動きだした。
 またプラズマ推進を噴射させ飛び去ったのだ。

「また別の都市か町に向かう気か?」

 モニター越しに飛び去るヴァナルガンを見て、ハクラは忌々しげに言った。

「次はどこに? ……むっ」

 そしてコンソールを操作していると、何かに気づいたようだ。

「奴め、北上している。……一番近くの人工密集地は現在地から東側にあるはずだが」

 どうやらヴァナルガンの行動パターンが変化したようであった。
 近間の人工密集地には目もくれず北上している。

「なるほどな、奴めまどろっこしいことはやめたようだ」

 ……その理由は大方理解できていた。
 向かうは恐らく、この国の最大の情報が集約している場所。
 国の中枢。

「メルガロスの王都に向かうきだ」




 闇夜を青白い閃光で照らしながら銀色の巨体が音速をこえ空中を疾走する。
 この怪物が姿を見せて、まだ一時間も経過してないだろう。
 しかし、もう何千の命が奪われたか。

「ジュオッ」

 すると、突如その破壊の化け物は減速し夜の天空で動き止めた。
 ……はるか前方、光を伴った複数の飛翔体の接近を感知したのだ。
 そして瞬時に、それが誘導弾であることを理解し迎撃行動に移った。
 紅く輝く複数の目、その内二つから強力な赤外線レーザーが照射された。
 精密に狙いをつけられた無数の誘導弾は、ヴァナルガンに着弾する前に全て撃墜され、空中で爆炎と成り果てた。

「ン゙マッシ!」

 そして、それが姿を現した。誘導弾の爆炎と黒煙を掻き分け、猛進してくる黒鉄の機体が。
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