追放令嬢(20)、お忍び遊郭で最強スパイに成り上がり、私を陥れたクズ貴族どもに地獄を見せます 〜前世はエリート諜報員なので、情報操作も潜入も

虹湖🌈

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第10話:決意の夜と反撃の狼煙(のろし)

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 カレルに引きずり込まれたのは、埃をかぶった女神像の裏だった。…趣味が悪くない? もっとマシな隠れ場所はなかったの?
 女神像の隙間から、すぐそこを通り過ぎる王都守備隊の足音と、ヴォルフガング中佐の低い声が聞こえる。

「…妙だ、確かに気配がしたのだが」
「見間違いでは? 中佐」
「……いや。この辺りを重点的に調べろ。何か見落としがあるかもしれん」

 心臓が早鐘のように打つ。見つかる…! 私は息を殺し、カレルの腕の中で(不本意ながら!)小さくなる。カレルは…なぜか落ち着き払って、私の耳元で囁いた。

「安心しろって。あのカタブツ、鼻は利くが、こういう場所でのカンは鈍い」
(…あなた、なんでそんなこと知ってるのよ)

 やがて、守備隊の足音は遠ざかっていった。ふぅ…助かった。私はすぐにカレルの腕を振り払い、距離を取った。

「…なぜ助けたの? あなたも、あの悪党たちの仲間なんでしょう?」
 睨みつけながら問い詰めると、カレルは肩をすくめて、いつもの食えない笑みを浮かべた。

「さあな? 面白いオモチャが、つまんねぇ奴らに壊されるのは、見てて気分が悪いからな」
「誰がオモチャですって!?」
「それとも、借り、かな? この前の運び屋の。あの程度でへこたれるタマじゃねぇとは思ってたが、まさかここまでやるとはな」
 彼は私の足元(まだちょっと光ってる透明マントの名残?)を見て、クツクツと笑う。

(やっぱり気づいてたのね…! この男、どこまで…!)

「ま、長居は無用だ。奴ら、また戻ってくるかもしれねぇぜ。さっさとずらかるんだな、"花季"」
 カレルはそう言うと、あっさりと背を向けた。

「待ちなさい! あなたは一体…」
「俺か? 俺はただの、金次第で転ぶ情報屋さ」
 彼は一瞬だけ振り返り、意味深な光を瞳に宿して言った。
「だがな、覚えとけ。お前が思ってるより、この街の闇は深くて、タチが悪いぜ。…下手に首突っ込むと、今度こそ本当に『始末』されるかもな」
 忠告…? それとも脅し?
 カレルはそれだけ言うと、近くの窓枠に軽々と飛び乗り、まるで猫のように闇の中へと消えていった。

(…なんなのよ、一体…!)

 嵐のように現れて去っていったカレル。彼の真意は全く読めない。しかし、彼の最後の言葉は、妙にリアリティを持って胸に響いた。

 隠れ家への帰り道、私の頭の中は、盗聴した情報、カレルの不可解な行動、そして守備隊の動きでいっぱいだった。
 王位簒奪、ジャルジェ侯爵暗殺計画、武器密輸、そして私の「始末」…。
 これは、単なる貴族の権力争いではない。王都を、いや、この国そのものを根底から揺るがす、巨大な陰謀だ。私の復讐なんて、この大きな悪の前では、ちっぽけなことなのかもしれない。

(でも…だからこそ、止めなければ!)

 このまま奴らの好きにさせてたまるものか。私の失われた名誉のためだけじゃない。リナやミラベルのような、この街で懸命に生きる人たちのためにも。そして、この国の未来のためにも。
 腹の底から、新たな、そしてもっと強い決意が湧き上がってくるのを感じた。

 隠れ家に飛び込むと、ミラベルが心配そうに駆け寄ってきた。
「花季様! ご無事でしたか!? 何かあったんですか!?」
 私は彼女に、盗聴した全ての内容と、カレルや守備隊との遭遇を、ありのままに話した。

 ミラベルは話を聞くうちに顔面蒼白になり、わなわなと震えだした。
「ひぃぃ…! お、王位簒奪!? 暗殺!? そ、そんな大変なことに…! わ、私、どうしましょう花季様…!」
 パニックになって涙ぐむミラベル。…まあ、無理もないわよね。

「落ち着いて、ミラベル。大丈夫よ」私は彼女の肩をしっかりと掴んだ。「私たちが、止めるのよ」
「わ、私たちが…?」
「ええ。私と、あなたで。私たちなら、きっとできるわ」
 私の真剣な眼差しに、ミラベルは涙をぐっと堪え、そして、決意を秘めた瞳で私を見返した。
「…はい! わ、私、花季様と一緒に戦います! どんな危険なことでも、花季様のお役に立ってみせます! だから…だから、私にも命令してください!」

 健気な言葉に、胸が熱くなる。本当に、この子には助けられてばかりね。
「ありがとう、ミラベル。心強いわ」

 私たちは徹夜で、反撃計画を練り始めた。残された時間は少ない。
 目標は二つ。
 ①【貴族会議での陰謀暴露】 明日開催される貴族会議の場で、奴らの計画を公にし、中止に追い込む。
 ②【月蝕の夜の襲撃阻止】 数日後に迫った月蝕の夜、王宮で行われるであろう襲撃計画を阻止する。

 そのために必要なのは…
【証拠】 盗聴記録だけでは、言い逃れされる可能性がある。武器密輸の物証など、動かぬ証拠が必要だ。
【協力者】 私たち二人だけでは限界がある。特に、王宮襲撃を阻止するには、公的な力が必要…やはり、ヴォルフガング中佐か…?
【暴露手段】 貴族会議という閉鎖空間で、どうやって証拠を突きつけるか? ミラベルの新たな発明に期待するしかないわね…。
【戦力・道具】 襲撃阻止のためには、最低限の自衛手段と、敵の計画を妨害する道具が必要になる。

「協力者…やはり、ヴォルフガング中佐に接触するべきかしら…」
 私が呟くと、ミラベルは「で、でも、守備隊の人に正体がバレたら…!」と心配する。
「ええ、リスクは高いわ。それに、彼が私たちの話を信じてくれる保証もない…。今はまだ、その時ではないかもしれないわね」

 まずは、確たる証拠集めと、暴露手段の準備が最優先だ。
「ミラベル、お願いがあるの。盗聴したこの記録を、大勢の前で再生して、さらに視覚的にも分かりやすく見せられるような…そうね、幻灯機みたいな魔道具、作れる?」
「げ、幻灯機…ですか? し、しかも音付きで、記録再生機能も…? や、やったことないですけど…で、でも、花季様のためなら、やってみます!」
 ミラベルは目を輝かせ(若干、不安な光も混じっているけれど)、早速設計図を描き始めた。(本当にできるのかしら…?)

 私は私で、武器密輸の物証を押さえるための計画と、貴族会議の会場に潜入(また潜入!?)する方法を考え始める。時間は刻一刻と過ぎていく。

 紅灯区の片隅、ボロボロの隠れ家で、元公爵令嬢と気弱な錬金術師による、国を揺るがす陰謀への反撃計画が、静かに、しかし力強く始動した。
 第三幕の戦いの火蓋は、もう切って落とされたのだ。

(第10話 了)
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