追放令嬢(20)、お忍び遊郭で最強スパイに成り上がり、私を陥れたクズ貴族どもに地獄を見せます 〜前世はエリート諜報員なので、情報操作も潜入も

虹湖🌈

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第9話:潜入! 紅玉の間と足だけ透明マント

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 秘密会合当日。月が煌々と紅灯区を照らす夜。私はいつものように洗濯係として、大量のシーツと格闘していた。しかし、心はここにあらず。意識は数時間後に迫った潜入ミッションへと飛んでいる。

(今日の月は満月…まさに『月満つる夜』ね。ご丁寧にどうも、悪党ども)

 オババ様の「さっさと手を動かせ!」という怒声で我に返る。いけない、集中しないと。私は平静を装いながら、脳内で潜入ルートを何度もシミュレーションする。従業員用通路を抜け、3階の物置部屋のダクトから最上階へ…。計画は完璧なはずだ。ミラベルの道具がちゃんと機能すれば、の話だけど。

 仕事の合間を縫って、私はこっそりと人気のない物置部屋へ忍び込んだ。いよいよ決行の時だ。懐から取り出したのは、ミラベル渾身の作、『うっかり透明マント(試作品5号・たまに足だけ見える!)』(…ネーミング!)。深呼吸一つ、意を決してマントを羽織る。

 ふわり、と体が軽くなるような感覚。自分の手を見ると…おお、透けてる! 成功だわ!
 …と思ったのも束の間、足元に視線を落として、私は愕然とした。足首から下が、くっきりと、それはもう見事に、見えている。

(ミラベルーーー!! なんで最後の詰めが甘いのよぉぉぉ!!!)

 内心で絶叫する。これじゃ「うっかり」どころじゃない、ただの「足だけ見えてるマント」じゃないの!
 しかし、今さら引き返すわけにもいかない。私は抜き足差し足忍び足、可能な限り音を立てず、そして足元を見られないように祈りながら、ダクトへの潜入を開始した。

 狭く埃っぽいダクトの中を、匍匐前進で進む。元令嬢がこんなところを這いずり回っているなんて、誰が想像するだろうか。途中、何度か下の階の話し声が聞こえてきたが、幸い気づかれる様子はない。問題は、最上階の紅玉の間周辺だ。警備が厳重なはず…。

 目的地の真上、ダクトの格子から下の様子を窺う。…よし、紅玉の間の扉の前には、見張りが二人。いかにも強そうだわ。正面突破は不可能ね。
 私は懐から、もう一つの秘密兵器、『カタツムリ型盗聴器(改・たまに自走する!)』を取り出した。これを扉の隙間に滑り込ませれば…。

 そっと格子を外し、カタツムリ(見た目は可愛い)を隙間に向かって放つ。…が! カタツムリはあらぬ方向へ猛ダッシュ! ちょ、待ちなさい! そっちは壁よ!
 慌てて手を伸ばし、壁に激突寸前でカタツムリをキャッチ! ふぅ、危なかった…。今度こそ、慎重に扉の隙間へ。よし、成功! ミラベル、余計な機能つけるのやめてくれる!?

 盗聴器から、部屋の中の会話が微かに聞こえてきた。雑音混じりだが、集中すれば聞き取れる。
「…ふん、これでジャルジェ侯爵も終わりだな。例の『忘却の香』、効果は確かだろうな?」
「はっ! 我が組織が精製した逸品。明日の貴族会議で奴が醜態を晒せば、失脚は免れまい」
「うむ。そして、月蝕の夜、王宮の警備が手薄になる隙に、一気にケリをつける。武器の準備は抜かるなよ、武器商人殿」
「お任せを。最新式の魔導銃、例の倉庫に運び込みました。あとは合図を待つばかり…」
「邪魔だったヴィルヘルム公爵令嬢も、すでに始末した。我らの計画を阻むものは、もう何もない!」

(なんですって…!?)

 王位簒奪、ジャルジェ侯爵の暗殺(薬殺?)、そして武器密輸! さらに、私の追放だけでなく、「始末」…? 彼らは、私が死んだと思っている…?
 衝撃的な内容に、怒りで体が震える。許せない…! 絶対に、この悪事を白日の下に晒してやる!

 ふと、会話の中に聞き慣れた名前が出た。
「例の情報屋、カレルとかいう小僧にも、しっかり口止め料を払っておけ。奴は金の匂いに敏感だからな」
「ふん、信用ならんチンピラだが、今は利用価値がある。事が終われば、奴も…」

 やはりカレルはこの計画を知っていて、情報を売っていた! しかも、用済みになれば消される運命…? あの男、一体何を考えているの…?

 全ての情報を記憶に刻み込み、私はそっとその場を離れることにした。これ以上の情報は望めないだろう。問題は、どうやってここから脱出するか…。
 再び『足だけ見えてるマント』を羽織り、ダクトから廊下へ。細心の注意を払いながら、従業員用通路を目指す。

 ――その時だった。

「そこで何をしている!」

 凛とした、厳しい声! まさか!
 廊下の向こうから、松明の光と共に現れたのは、王都守備隊の一団! そして、その先頭に立つのは…やはり、ヴォルフガング中佐! まっすぐに、私のいる方向を見据えている!

(まずい! 見つかった!?)

 しかも最悪なことに、透明マントの効果が切れかかってきたのか、体が蛍光灯のようにチカチカと点滅し始めた! 足だけじゃなくて、全身が! これじゃ隠れようがない!

(お、終わった…!)

 私が絶望しかけた、その瞬間。
 ぐいっ、と強い力で腕を引かれた!

「こっちだ、ドジな蛍光洗濯係」

 低い、呆れたような声。振り返ると、そこには、いつの間に現れたのか、壁の影に潜んでいた情報屋カレルの姿が!

「え…カレ、」
「しっ! 黙ってろ!」

 カレルは私の口を塞ぎ、有無を言わさぬ力で、近くの物陰へと引きずり込んだ。ヴォルフガング中佐率いる守備隊が、すぐそこまで迫ってきていた――!

(第9話 了)
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