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第12話 潜入!王宮とミラクル(珍道中)プロジェクター
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貴族会議当日。空は皮肉なほど青く澄み渡っていた。私の心の中は、どんよりとした鉛色の雲が垂れ込めているというのに。
「花季様、これを…!」
隠れ家を出る直前、ミラベルが私に差し出したのは、昨日まで彼女が悪戦苦闘していた『真実を映すミラクル☆プロジェクター(最終調整版…のはず!)』だった。見た目は…やはり、ありとあらゆるガラクタを無理やりくっつけたような、前衛的オブジェにしか見えない。これ、本当に動くの…?
「あの、花季様、これ、起動スイッチが三つあるんですけど…えっと、確か…赤と青を同時に押して、それから黄色をゆっくりと…だったような…。間違えると、ちょっとしたサプライズ映像が流れちゃうかもなので、お気をつけて!」
「サプライズですって!? ミラベル! もっと重要なことは先に言いなさい!」
思わず叫ぶ私に、ミラベルは「で、でも、きっと大丈夫です! たぶん!」と力なく拳を握る。…不安しかないわ!
艶楼では、いつも通り洗濯係の仕事をこなしつつ、王宮へ向かうタイミングを窺う。すると、リナがそっと近づいてきた。
「花季さん、これ…」
彼女が差し出したのは、王宮へ食料品を届ける下働きの名簿と、厨房や裏口周辺が描かれた簡単な王宮内部の地図だった。名簿には、ご丁寧に私の偽名「花」が書き加えられている。
「リナ…ありがとう。でも、危険なことは…」
「いいんです! 花季さんには、お世話になってばかりだから…。どうか、お気をつけてくださいね…!」
リナの真っ直ぐな瞳に、胸が熱くなる。この子の信頼を裏切るわけにはいかない。私は彼女に力強く頷き、届け物係の侍女(ミラベルお手製の、絶妙に地味なもの)に変装し、大きな荷車と共に艶楼を後にした。目指すは、王宮!
王宮の裏門は、さすがに警備が厳重だった。屈強な衛兵たちが、鋭い目で出入りする者たちをチェックしている。
「待て、そこの者。荷物の中身を改めさせてもらう」
「は、はい! こちら、艶楼より献上の食料品でございます!」
私はできるだけおとなしく、そして少し怯えたような(演技よ、演技!)声で答える。衛兵は荷車の中をざっと確認したが、プロジェクター(布で厳重に包んでいる)には気づかなかったようだ。よし、第一関門突破!
しかし、王宮内部はまさに迷宮。リナの地図と、なぜか鮮明に思い出せる前世の記憶(私、前世で王宮に忍び込んだことでもあったのかしら?)を頼りに、会議場である大ホールを目指す。
途中、曲がり角で慌てていたらしい小太りの貴族とぶつかりそうになり、咄嗟に床に平伏!
「無礼者めが! 前を見て歩かんか!」
カン高い声で怒鳴られたが、幸い顔は見られずに済んだ。…今の貴族、〇〇侯爵派閥の人間ね。覚えておきましょう。
次に、長い廊下で巡回中の警備兵とバッタリ! まずい! 私は咄嗟に近くの扉を開けて中に飛び込んだ。そこは…掃除用具入れ!? 狭い空間に、モップやバケツと一緒にぎゅうぎゅう詰めになりながら、警備兵が通り過ぎるのを待つ。
(こ、こんな姿…! もし父上や母上が見たら、卒倒するに違いないわ…! いや、それ以前に、スパイとして三流すぎる!)
内心で自分にツッコミを入れながら、息を殺す。
なんとか大ホール近くの、今は使われていない小さな控え室に到着。ここなら、会議が始まるまで隠れていられるだろう。窓からは、貴族たちが続々と大ホールへ向かうのが見える。
私はホールの後方、大きなタペストリーの影に『ミラクル☆プロジェクター』を慎重に設置した。電源は、ミラベル特製の小型魔力バッテリー(持続時間…公称30分! 本当に大丈夫!?)。よし、あとはタイミングを見計らって、あの怪しげな三つのスイッチを押すだけ…。
厳かな雰囲気の中、貴族会議が始まった。議長席には国王陛下も臨席されている。そして、〇〇侯爵が、待ってましたとばかりに自信満々な態度で登壇し、何やら王国の未来を憂うような、芝居がかった演説を始めた。
(茶番はいいから、早く本題に入りなさいよ、このタヌキオヤジ…!)
私がプロジェクターの起動準備を最終確認していると、ふと、ホールの隅の柱の影に、見慣れた(見慣れたくない)人影を見つけた。
(カレル!? なんであいつがこんなところに…!)
彼は王族や有力貴族でもないのに、どうやってここに? まさか、彼も何か仕掛けるつもり…? カレルは私に気づくと、ニヤリと口元だけで笑い、片目を閉じてみせた。まるで、「面白くなってきたな」とでも言うように。あの男、本当に食えないわ!
〇〇侯爵の演説が、いよいよ佳境に入ってきた。
「…そして、我が国の輝かしい未来を阻み、王権を脅かす最大の要因! それは、現宰相ジャルジェ公爵、彼その人であります! 彼が、水面下で進めていた恐るべき国家転覆の陰謀の証拠を、今この場で、皆様にご覧に入れましょうぞ!」
(来たわ! まさにこのタイミング!)
私は『ミラクル☆プロジェクター』の、赤・青・黄色の三つのスイッチに手をかける。ミラベルの言葉が脳裏をよぎる。「正しい組み合わせじゃないと、サプライズ映像が…」。ええい、ままよ! 確か、赤と青を同時に、そして黄色を…!
私がスイッチを押し込もうとした、まさにその瞬間だった。
バァァン!!
大ホールの重厚な扉が、凄まじい勢いで開け放たれた!
「異議あり!」
凛とした、しかし怒気を含んだ声がホールに響き渡る。そこに立っていたのは…王都守備隊の制服に身を包み、腰に長剣を帯びた、ヴォルフガング中佐だった! 彼の後ろには、武装した守備隊の兵士たちがずらりと控えている!
(ヴォルフガング中佐!? なぜ、彼がここに…!?)
予期せぬ闖入者に、ホールは水を打ったように静まり返り、全ての視線が彼に注がれた。私の指は、スイッチを押す寸前で止まっていた。
(第12話 了)
「花季様、これを…!」
隠れ家を出る直前、ミラベルが私に差し出したのは、昨日まで彼女が悪戦苦闘していた『真実を映すミラクル☆プロジェクター(最終調整版…のはず!)』だった。見た目は…やはり、ありとあらゆるガラクタを無理やりくっつけたような、前衛的オブジェにしか見えない。これ、本当に動くの…?
「あの、花季様、これ、起動スイッチが三つあるんですけど…えっと、確か…赤と青を同時に押して、それから黄色をゆっくりと…だったような…。間違えると、ちょっとしたサプライズ映像が流れちゃうかもなので、お気をつけて!」
「サプライズですって!? ミラベル! もっと重要なことは先に言いなさい!」
思わず叫ぶ私に、ミラベルは「で、でも、きっと大丈夫です! たぶん!」と力なく拳を握る。…不安しかないわ!
艶楼では、いつも通り洗濯係の仕事をこなしつつ、王宮へ向かうタイミングを窺う。すると、リナがそっと近づいてきた。
「花季さん、これ…」
彼女が差し出したのは、王宮へ食料品を届ける下働きの名簿と、厨房や裏口周辺が描かれた簡単な王宮内部の地図だった。名簿には、ご丁寧に私の偽名「花」が書き加えられている。
「リナ…ありがとう。でも、危険なことは…」
「いいんです! 花季さんには、お世話になってばかりだから…。どうか、お気をつけてくださいね…!」
リナの真っ直ぐな瞳に、胸が熱くなる。この子の信頼を裏切るわけにはいかない。私は彼女に力強く頷き、届け物係の侍女(ミラベルお手製の、絶妙に地味なもの)に変装し、大きな荷車と共に艶楼を後にした。目指すは、王宮!
王宮の裏門は、さすがに警備が厳重だった。屈強な衛兵たちが、鋭い目で出入りする者たちをチェックしている。
「待て、そこの者。荷物の中身を改めさせてもらう」
「は、はい! こちら、艶楼より献上の食料品でございます!」
私はできるだけおとなしく、そして少し怯えたような(演技よ、演技!)声で答える。衛兵は荷車の中をざっと確認したが、プロジェクター(布で厳重に包んでいる)には気づかなかったようだ。よし、第一関門突破!
しかし、王宮内部はまさに迷宮。リナの地図と、なぜか鮮明に思い出せる前世の記憶(私、前世で王宮に忍び込んだことでもあったのかしら?)を頼りに、会議場である大ホールを目指す。
途中、曲がり角で慌てていたらしい小太りの貴族とぶつかりそうになり、咄嗟に床に平伏!
「無礼者めが! 前を見て歩かんか!」
カン高い声で怒鳴られたが、幸い顔は見られずに済んだ。…今の貴族、〇〇侯爵派閥の人間ね。覚えておきましょう。
次に、長い廊下で巡回中の警備兵とバッタリ! まずい! 私は咄嗟に近くの扉を開けて中に飛び込んだ。そこは…掃除用具入れ!? 狭い空間に、モップやバケツと一緒にぎゅうぎゅう詰めになりながら、警備兵が通り過ぎるのを待つ。
(こ、こんな姿…! もし父上や母上が見たら、卒倒するに違いないわ…! いや、それ以前に、スパイとして三流すぎる!)
内心で自分にツッコミを入れながら、息を殺す。
なんとか大ホール近くの、今は使われていない小さな控え室に到着。ここなら、会議が始まるまで隠れていられるだろう。窓からは、貴族たちが続々と大ホールへ向かうのが見える。
私はホールの後方、大きなタペストリーの影に『ミラクル☆プロジェクター』を慎重に設置した。電源は、ミラベル特製の小型魔力バッテリー(持続時間…公称30分! 本当に大丈夫!?)。よし、あとはタイミングを見計らって、あの怪しげな三つのスイッチを押すだけ…。
厳かな雰囲気の中、貴族会議が始まった。議長席には国王陛下も臨席されている。そして、〇〇侯爵が、待ってましたとばかりに自信満々な態度で登壇し、何やら王国の未来を憂うような、芝居がかった演説を始めた。
(茶番はいいから、早く本題に入りなさいよ、このタヌキオヤジ…!)
私がプロジェクターの起動準備を最終確認していると、ふと、ホールの隅の柱の影に、見慣れた(見慣れたくない)人影を見つけた。
(カレル!? なんであいつがこんなところに…!)
彼は王族や有力貴族でもないのに、どうやってここに? まさか、彼も何か仕掛けるつもり…? カレルは私に気づくと、ニヤリと口元だけで笑い、片目を閉じてみせた。まるで、「面白くなってきたな」とでも言うように。あの男、本当に食えないわ!
〇〇侯爵の演説が、いよいよ佳境に入ってきた。
「…そして、我が国の輝かしい未来を阻み、王権を脅かす最大の要因! それは、現宰相ジャルジェ公爵、彼その人であります! 彼が、水面下で進めていた恐るべき国家転覆の陰謀の証拠を、今この場で、皆様にご覧に入れましょうぞ!」
(来たわ! まさにこのタイミング!)
私は『ミラクル☆プロジェクター』の、赤・青・黄色の三つのスイッチに手をかける。ミラベルの言葉が脳裏をよぎる。「正しい組み合わせじゃないと、サプライズ映像が…」。ええい、ままよ! 確か、赤と青を同時に、そして黄色を…!
私がスイッチを押し込もうとした、まさにその瞬間だった。
バァァン!!
大ホールの重厚な扉が、凄まじい勢いで開け放たれた!
「異議あり!」
凛とした、しかし怒気を含んだ声がホールに響き渡る。そこに立っていたのは…王都守備隊の制服に身を包み、腰に長剣を帯びた、ヴォルフガング中佐だった! 彼の後ろには、武装した守備隊の兵士たちがずらりと控えている!
(ヴォルフガング中佐!? なぜ、彼がここに…!?)
予期せぬ闖入者に、ホールは水を打ったように静まり返り、全ての視線が彼に注がれた。私の指は、スイッチを押す寸前で止まっていた。
(第12話 了)
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