オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

虹湖🌈

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第一章 オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる

第16話 我らが未来を選ぶ時

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「――撃て! 何をしている、奴らを撃ち殺せぇッ!」

 高官の金切り声が、大混乱の会場に響き渡った。
 その絶叫を合図に、我に返った兵士たちが一斉に銃口をこちらに向ける。俺は咄嗟に身を固くした。
 だが、その銃口が火を噴くより早く、鎖を引きちぎったレオンが、その鉄塊を武器のように振り回し、眼前の兵士たちを薙ぎ払った。

「アキ、俺の後ろへ下がっていろ!」
「いいえ!」

 俺は、彼の隣に並び立った。恐怖はあった。だが、それ以上に、この人の背中にもうすべてを背負わせたくないという想いが強かった。
「あなたの隣に立ちます。俺も、戦います!」

 俺の言葉に、レオンが一瞬だけ驚いたように目を見開く。そして、その口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。
「……面白い。ならば、せいぜい足を引っ張るなよ、相棒」

 その時だった。
 バツン、と音を立てて、会場のすべての照明が落ちた。世界が、完全な闇に飲み込まれる。招待客の悲鳴と、兵士たちの怒号が渦を巻いた。

『お待たせ!』
 事前に渡されていた小型のイヤモニから、サラの快活な声が響いた。
『暗視ゴーグルは持ってるね!? 30秒で非常用電源に切り替わる! それまでに、せいぜい派手に踊ってきな!』

「了解した!」
 レオンは即座に懐からゴーグルを取り出して装着すると、俺の手を強く握った。
「行くぞ、アキ!」

 緑色に染まった視界の中、レオンはまさに鬼神だった。闇の中で狼狽える兵士たちを、音もなく、しかし確実に無力化していく。俺は、その手に引かれながら、頭の中に叩き込まれたドームの施設構造図を必死に展開していた。

「レオンさん、こっちです!」
 俺は叫んだ。
「第二セクターの連絡通路! そこなら警備が手薄のはず!」
『よしきた!』
 イヤモニから、今度はジンの明るい声が聞こえる。
『その通路の先の電子ロック、今からこじ開ける! カウントダウン開始! 10、9、8……!』

 仲間との連携が、絶望的な戦況に活路をこじ開けていく。俺たちは、もはや孤独な逃亡者ではなかった。
 通路を駆け抜ける。だが、ジンのカウントダウンが終わる直前、非常用電源が復旧し、通路の先を赤い非常灯が照らし出した。そこには、屈強な精鋭部隊が分厚い壁を作って待ち構えていた。

「ちっ、間に合わなかったか!」
 レオンが舌打ちし、俺を庇うように前に出る。
「アキ、お前だけでも……」
「まだです!」

 俺は、彼の言葉を遮った。精鋭部隊の指揮官が、部下へ指示を出す声が聞こえる。その声に使われている通信機の、微かなノイズ。それは、ドームでも旧式とされる、セキュリティの甘い周波数帯だった。

「サラさん!」
 俺はイヤモニに叫んだ。
「敵の指揮系統にハッキングできますか!? 使っている周波数は――」
 俺が記憶から引き出したコードを伝えると、サラは呆れたように、しかし楽しげに笑った。
『無茶言うね、この天才司令官様は!……だが、面白そうだ! やってやるよ!』

 数秒の沈黙。
 そして、精鋭部隊の兵士たちのヘルメットから、偽りの命令が響き渡った。
『全部隊へ告ぐ! ターゲットは西ブロックへ逃走! 急行せよ!』

 一瞬の、しかし致命的な混乱。兵士たちの統制が乱れたその隙を、レオンが見逃すはずもなかった。
 彼は弾丸のように飛び出し、瞬く間に敵の壁を突き破る。

 通路を抜け、最後の隔壁を突破した時、レオンが俺を振り返った。その顔には、俺が今まで一度も見たことのない、満面の笑みが浮かんでいた。

「……大した司令官殿だな、アキ」
「あなたこそ、最高の騎士です、レオンさん」

 俺たちも、自然と笑い合っていた。
 その先には、サラたちが手配した小型の脱出用シャトルが、静かに俺たちを待っていた。

 シャトルに乗り込み、シートに身体を預けた瞬間、凄まじいGと共に機体が浮上した。窓の外に、大混乱に陥った〈エデン・ドーム〉が小さくなっていく。俺たちが生まれ、そして囚われていた、巨大な鳥籠だ。

『やったな、二人とも!』
 通信機から、ジンの歓声が聞こえてきた。
『最高にイカしてたぜ! で、これからどうするんだ?』

 その問いに、操縦桿を握るレオンが、静かに答えた。
 窓の外には、朝日が照らし出す、どこまでも広大な荒野が広がっている。

「決まっている。俺たちの……俺たちだけの共同体を作る」
 その言葉に、俺は力強く頷いた。
「道具でも、資源でもない。ただの一人の人間として、誰もが胸を張って生きていける場所を」

 俺たちの本当の戦いは、これから始まるのかもしれない。
 だが、もう恐れることはない。
 俺の隣には、最高の相棒がいるのだから。
 シャトルは、まだ誰も見たことのない、新しい世界の夜明けへと向かって、力強く飛んでいった。
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