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第三章 命は巡り、愛は受け継がれることで永遠となる
第32話 愛のエレジー(讃歌)
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闇夜の共同体は、まるで戒厳令下のゴーストタウンだった。
ジンの起こした陽動のサイレンが遠くに響く中、俺とサラは、建物の影から影へと、息を殺して駆け抜けていた。すれ違う防衛隊の兵士たちの顔には、戸惑いと緊張が浮かんでいる。彼らは、自分たちが同胞に銃口を向けていることの意味を、まだ理解できずにいた。
「急ぐぞ、アキ!」サラが囁く。「停電は長くは続かない!」
「分かっています。……子供たちが、俺を呼んでいる……」
それは、比喩ではなかった。俺の心の奥底に、隔離された子供たちの恐怖と混乱が、直接的な痛みとなって絶えず流れ込んでくる。もう、一刻の猶予もなかった。
俺たちが目指す「保護施設」――冷たい響きを持つその収容所の前にたどり着いた時、内部から漏れ聞こえる不気味な機械の駆動音に、俺は息を呑んだ。
能力封印装置だ。レオンは、本気で子供たちの未来を、俺の命と引き換えに奪い去るつもりなのだ。
サラが特殊なツールで電子ロックを焼き切る。俺たちは、警備兵が駆けつけるよりも一瞬早く、施設の中へと滑り込んだ。
メインルームの光景は、地獄のようだった。
部屋の中央では、巨大な金属のアークが青白い光を放ち、不気味な高周波音を響かせている。その周りで、レン先生が苦痛に顔を歪めながら、起動シーケンスを進めていた。そして、部屋の隅には、「夜明けの子供たち」が、怯えきった顔で互いに抱き合い、泣きじゃくっていた。
「――やめてください、レン先生!」
俺の叫びに、その場にいた全員が、弾かれたようにこちらを振り返った。
「アキ君!? なぜここに……!」
「アキ!」
レン先生の驚愕の声と、サラの警戒の声が重なる。
だが、そのすべてを、重々しいブーツの音がかき消した。
入口に、レオンが、鬼の形相で立っていた。
「……アキ」
彼の声は、怒りと、裏切られたことへの深い悲しみで震えていた。
「何をしている。すぐに部屋へ戻れ。これは、お前のためなんだ」
「違う!」
俺は、泣きじゃくる子供たちの前に、両腕を広げて立ちはだかった。もう、震えはなかった。
「これは、俺のためじゃない! あなたのエゴだ!」
銃を構えた兵士たちが、俺たちを取り囲む。サラが、俺を守るようにナイフを構えた。
究極の、対峙。
俺は、兵士たちではなく、ただ一人、レオンの瞳だけを見つめていた。
「俺は、誰かの未来を犠牲にしてまで、生きたいとは思わない」
その静かな、しかし揺るぎない言葉に、レオンの表情が苦痛に歪んだ。
彼は、悲痛な声で叫んだ。
「ふざけるなッ! お前が死んだら、俺の未来はどうなる!? 俺は――お前がいない世界で、どうやって生きていけばいいんだ!」
その魂の叫びに、俺の心は張り裂けそうだった。
分かっている。あなたの痛みは、誰よりも。
だからこそ、俺は、この選択をする。
俺は、ゆっくりと彼に近づいた。驚くサラも、銃を構える兵士たちも、なぜか俺を止めることができなかった。
俺は、泣きそうな顔で立ち尽くすレオンの、その大きな手を、そっと取った。
そして、今までにないほど、穏やかに微笑んでみせた。
「レオン、愛してる。心の底から」
彼の灰色の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「だから、俺の最期を、そして俺たちの始まりを、見届けて」
俺は、そっと彼の手を離した。
そして、子供たちの方へ向き直る。怯える彼らに、俺は優しく語りかけた。
「もう大丈夫だよ。怖くない」
俺は、ゆっくりと目を閉じた。
身体中の細胞が、熱を帯びていくのを感じる。それは、死への恐怖ではなく、次なる生命へと受け継がれていく、歓喜の歌。
俺の身体から、穏やかで、温かい光が、溢れ出し始めた。
それは、俺が選んだ、俺だけの「決断」の光だった。
レオンは、そのあまりにも美しく、そして残酷な光景を、ただ立ち尽くして見つめていることしかできなかった。
ジンの起こした陽動のサイレンが遠くに響く中、俺とサラは、建物の影から影へと、息を殺して駆け抜けていた。すれ違う防衛隊の兵士たちの顔には、戸惑いと緊張が浮かんでいる。彼らは、自分たちが同胞に銃口を向けていることの意味を、まだ理解できずにいた。
「急ぐぞ、アキ!」サラが囁く。「停電は長くは続かない!」
「分かっています。……子供たちが、俺を呼んでいる……」
それは、比喩ではなかった。俺の心の奥底に、隔離された子供たちの恐怖と混乱が、直接的な痛みとなって絶えず流れ込んでくる。もう、一刻の猶予もなかった。
俺たちが目指す「保護施設」――冷たい響きを持つその収容所の前にたどり着いた時、内部から漏れ聞こえる不気味な機械の駆動音に、俺は息を呑んだ。
能力封印装置だ。レオンは、本気で子供たちの未来を、俺の命と引き換えに奪い去るつもりなのだ。
サラが特殊なツールで電子ロックを焼き切る。俺たちは、警備兵が駆けつけるよりも一瞬早く、施設の中へと滑り込んだ。
メインルームの光景は、地獄のようだった。
部屋の中央では、巨大な金属のアークが青白い光を放ち、不気味な高周波音を響かせている。その周りで、レン先生が苦痛に顔を歪めながら、起動シーケンスを進めていた。そして、部屋の隅には、「夜明けの子供たち」が、怯えきった顔で互いに抱き合い、泣きじゃくっていた。
「――やめてください、レン先生!」
俺の叫びに、その場にいた全員が、弾かれたようにこちらを振り返った。
「アキ君!? なぜここに……!」
「アキ!」
レン先生の驚愕の声と、サラの警戒の声が重なる。
だが、そのすべてを、重々しいブーツの音がかき消した。
入口に、レオンが、鬼の形相で立っていた。
「……アキ」
彼の声は、怒りと、裏切られたことへの深い悲しみで震えていた。
「何をしている。すぐに部屋へ戻れ。これは、お前のためなんだ」
「違う!」
俺は、泣きじゃくる子供たちの前に、両腕を広げて立ちはだかった。もう、震えはなかった。
「これは、俺のためじゃない! あなたのエゴだ!」
銃を構えた兵士たちが、俺たちを取り囲む。サラが、俺を守るようにナイフを構えた。
究極の、対峙。
俺は、兵士たちではなく、ただ一人、レオンの瞳だけを見つめていた。
「俺は、誰かの未来を犠牲にしてまで、生きたいとは思わない」
その静かな、しかし揺るぎない言葉に、レオンの表情が苦痛に歪んだ。
彼は、悲痛な声で叫んだ。
「ふざけるなッ! お前が死んだら、俺の未来はどうなる!? 俺は――お前がいない世界で、どうやって生きていけばいいんだ!」
その魂の叫びに、俺の心は張り裂けそうだった。
分かっている。あなたの痛みは、誰よりも。
だからこそ、俺は、この選択をする。
俺は、ゆっくりと彼に近づいた。驚くサラも、銃を構える兵士たちも、なぜか俺を止めることができなかった。
俺は、泣きそうな顔で立ち尽くすレオンの、その大きな手を、そっと取った。
そして、今までにないほど、穏やかに微笑んでみせた。
「レオン、愛してる。心の底から」
彼の灰色の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「だから、俺の最期を、そして俺たちの始まりを、見届けて」
俺は、そっと彼の手を離した。
そして、子供たちの方へ向き直る。怯える彼らに、俺は優しく語りかけた。
「もう大丈夫だよ。怖くない」
俺は、ゆっくりと目を閉じた。
身体中の細胞が、熱を帯びていくのを感じる。それは、死への恐怖ではなく、次なる生命へと受け継がれていく、歓喜の歌。
俺の身体から、穏やかで、温かい光が、溢れ出し始めた。
それは、俺が選んだ、俺だけの「決断」の光だった。
レオンは、そのあまりにも美しく、そして残酷な光景を、ただ立ち尽くして見つめていることしかできなかった。
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