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陽だまりのアトリエと、小さな麦の穂 〜守り神と育む、家族のレシピ〜
第91話 王宮からの辞退と、陽だまりへの帰還
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王宮の大広間での「公開実験/討論会」が終わり、フィオナ・フォン・シルフィードは「王家特別賞」という最高の栄誉を勝ち取り、息子アルトの能力をアカデミーの支配から完全に解放させた。
喧騒が去った後、フィオナは王太子ライアス・エル・クレイストと、玉座の間から続く静かな回廊で向き合っていた。ライアスは、かつての冷酷な婚約者ではなく、フィオナの才能と信念に心から敬意を払う一人の男の顔をしていた。
「フィオナ。君のパンは、我々すべての期待を遥かに超えた。君が証明した『愛と絆の力』こそが、この国の未来に不可欠なものだ」。
ライアスは、玉座に座る国王陛下の意向も伝え、フィオナに対し爵位の復帰や莫大な褒賞、さらには宮廷顧問の地位など、様々な公的な栄誉を提案した。
フィオナは、深々と、しかし背筋を伸ばしたまま頭を下げた。その姿は、かつての公爵令嬢の完璧な作法ではなく、誇り高きパン職人のそれだった。
「ライアス殿下。もったいないお言葉、心より感謝いたします」
彼女は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつて婚約破棄を宣告された時の涙も、諦めも、そして王宮のきらびやかな光への羨望もなかった。
「ですが、私は、全てを丁重にお断りさせていただきます」
ライアスは、予想通りの答えに、寂しさを滲ませながらも、静かに微笑んだ。
「……やはり、そうか。君の宝物は、この王宮の冷たい輝きの中にはない、ということだな」。
「はい」
フィオナは、穏やかな笑みを浮かべた。
「私の本当の幸せは、豪華絢爛な宮殿で歴史に名を残すことではありません。あの路地裏の小さな店で、人々のささやかな日常の、その隣に立つことなのですわ」
ライアスは、フィオナの揺るぎない信念に、深い尊敬の念を示した。
「君こそが、この国に真の豊かさをもたらす光だ。友人として、これからの君の活躍を心から応援している」。
### 陽だまりへの帰還
フィオナは、マルセルとルーカスに護衛され、冷たく威圧的な王城の回廊を後にした。きらびやかなシャンデリアの光 が届かない、慣れ親しんだ路地裏へと馬車が向かうにつれ、フィオナの心臓は、王宮の空気で締め付けられていたコルセットのような緊張から解放され、温かい安堵感で満たされていくのを感じた。
古びた木の扉を開ける。そこは、世界で最も温かい光に満ちた、彼女の「陽だまり」
店の中では、エリィが歓喜のあまり泣きながら飛びついてきた。
「フィオナ様ー! 本当に、おかえりなさいませー! 勝ちましたね! 王子様のお妃様にはなれなかったけど、私、フィオナ様の選んだ道が一番素敵だって、心からそう思います!」。
フィオナはエリィを力強く抱きしめ、旅の終着点を見つけた幸福を噛みしめた。
店の奥、厨房へと続く場所で、ルーカスが腕組みをして立っていた。その手には、大剣ではなく、金槌と鉋(かんな)が握られている。彼の足元には、上質な樫の木材が散らばっていた。
「……てめえは、本当にバカだな」
ルーカスは、照れくさそうにぶっきらぼうに言った。
「王族からの褒賞も、爵位も、全部蹴っちまうなんてよ。だが、まあ、お前らしい選択だ」。
彼の目の前には、完成間近の小さな家のようなものが置かれていた。それは、ホズネ(聖獣)のためにルーカスが作っていた、大きく、立派な新しい寝床だった。アルトの危機を乗り越え、フィオナへの不器用な愛を、ルーカスは言葉ではなく、この手作りの贈り物で表現したのだ。
「ルーカス……」
フィオナは、その不器用で、しかし誰よりも深く、温かい愛に満ちた贈り物を見て、涙が滲むのを感じた。
「あの……その寝床、もう少し、大きく作ってもらえませんか?」。
「はあ? あのチビには、これでもデカすぎるくれえだろ」ルーカスは戸惑った顔で言った。
フィオナは、小麦粉で汚れた頬を赤らめながら、小さな声で言った。
「……だって、いつか、この家に、家族が、増えるかもしれないでしょう?」
トン、と。ルーカスの金槌が、止まった。彼は、ゆっくりと顔を上げると、真っ赤になった顔でフィオナを睨みつけた。
「……てめえ……そういうことは、もっと、こう……」
その二人の、不器用で、ぎこちないやり取りを、ホズネが、一番暖かい陽だまりの指定席で、幸せそうに見守っていた。
フィオナの心には、伝説のパン職人としての誇りと、そして、愛する家族と共に歩む、永遠の日常という名の、新しいレシピが生まれていた。
喧騒が去った後、フィオナは王太子ライアス・エル・クレイストと、玉座の間から続く静かな回廊で向き合っていた。ライアスは、かつての冷酷な婚約者ではなく、フィオナの才能と信念に心から敬意を払う一人の男の顔をしていた。
「フィオナ。君のパンは、我々すべての期待を遥かに超えた。君が証明した『愛と絆の力』こそが、この国の未来に不可欠なものだ」。
ライアスは、玉座に座る国王陛下の意向も伝え、フィオナに対し爵位の復帰や莫大な褒賞、さらには宮廷顧問の地位など、様々な公的な栄誉を提案した。
フィオナは、深々と、しかし背筋を伸ばしたまま頭を下げた。その姿は、かつての公爵令嬢の完璧な作法ではなく、誇り高きパン職人のそれだった。
「ライアス殿下。もったいないお言葉、心より感謝いたします」
彼女は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつて婚約破棄を宣告された時の涙も、諦めも、そして王宮のきらびやかな光への羨望もなかった。
「ですが、私は、全てを丁重にお断りさせていただきます」
ライアスは、予想通りの答えに、寂しさを滲ませながらも、静かに微笑んだ。
「……やはり、そうか。君の宝物は、この王宮の冷たい輝きの中にはない、ということだな」。
「はい」
フィオナは、穏やかな笑みを浮かべた。
「私の本当の幸せは、豪華絢爛な宮殿で歴史に名を残すことではありません。あの路地裏の小さな店で、人々のささやかな日常の、その隣に立つことなのですわ」
ライアスは、フィオナの揺るぎない信念に、深い尊敬の念を示した。
「君こそが、この国に真の豊かさをもたらす光だ。友人として、これからの君の活躍を心から応援している」。
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フィオナは、マルセルとルーカスに護衛され、冷たく威圧的な王城の回廊を後にした。きらびやかなシャンデリアの光 が届かない、慣れ親しんだ路地裏へと馬車が向かうにつれ、フィオナの心臓は、王宮の空気で締め付けられていたコルセットのような緊張から解放され、温かい安堵感で満たされていくのを感じた。
古びた木の扉を開ける。そこは、世界で最も温かい光に満ちた、彼女の「陽だまり」
店の中では、エリィが歓喜のあまり泣きながら飛びついてきた。
「フィオナ様ー! 本当に、おかえりなさいませー! 勝ちましたね! 王子様のお妃様にはなれなかったけど、私、フィオナ様の選んだ道が一番素敵だって、心からそう思います!」。
フィオナはエリィを力強く抱きしめ、旅の終着点を見つけた幸福を噛みしめた。
店の奥、厨房へと続く場所で、ルーカスが腕組みをして立っていた。その手には、大剣ではなく、金槌と鉋(かんな)が握られている。彼の足元には、上質な樫の木材が散らばっていた。
「……てめえは、本当にバカだな」
ルーカスは、照れくさそうにぶっきらぼうに言った。
「王族からの褒賞も、爵位も、全部蹴っちまうなんてよ。だが、まあ、お前らしい選択だ」。
彼の目の前には、完成間近の小さな家のようなものが置かれていた。それは、ホズネ(聖獣)のためにルーカスが作っていた、大きく、立派な新しい寝床だった。アルトの危機を乗り越え、フィオナへの不器用な愛を、ルーカスは言葉ではなく、この手作りの贈り物で表現したのだ。
「ルーカス……」
フィオナは、その不器用で、しかし誰よりも深く、温かい愛に満ちた贈り物を見て、涙が滲むのを感じた。
「あの……その寝床、もう少し、大きく作ってもらえませんか?」。
「はあ? あのチビには、これでもデカすぎるくれえだろ」ルーカスは戸惑った顔で言った。
フィオナは、小麦粉で汚れた頬を赤らめながら、小さな声で言った。
「……だって、いつか、この家に、家族が、増えるかもしれないでしょう?」
トン、と。ルーカスの金槌が、止まった。彼は、ゆっくりと顔を上げると、真っ赤になった顔でフィオナを睨みつけた。
「……てめえ……そういうことは、もっと、こう……」
その二人の、不器用で、ぎこちないやり取りを、ホズネが、一番暖かい陽だまりの指定席で、幸せそうに見守っていた。
フィオナの心には、伝説のパン職人としての誇りと、そして、愛する家族と共に歩む、永遠の日常という名の、新しいレシピが生まれていた。
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