悪役令嬢として断罪されたけど、攻略対象全員に溺愛されてます

ゆっこ

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 王国歴一一八七年。
 盛大な音楽と花の香りに包まれた王立学園の大ホールの中央で、私は一人立たされていた。

「リリアーナ・フェルステイン嬢。お前の悪行の数々、この場で断罪する!」

 婚約者である王太子アレクシス殿下の声が、ホールに響き渡る。
 私は静かに彼を見つめた。金の髪、宝石のような碧眼。その輝きはかつて、私にとって唯一無二の光だった。
 ……ほんの一週間前までは。

「あなたが恋したその平民の娘、エミリアをいじめたと言うのね?」
「白々しい! 彼女が泣きながら訴えたんだ。あなたが彼女のドレスを汚し、社交の場で侮辱したと!」

 群衆の中で「まぁ……」「なんてこと」と囁きが広がる。
 それでも私は一歩も引かなかった。

「証拠は?」
「証拠など不要だ! 彼女がそう言っている、それで十分だ!」

 ……まさか。
 この男、こんなに単純だったかしら?
 愛していた時間が馬鹿馬鹿しくなるほどに。

「――では、婚約は破棄だ。リリアーナ、お前のような悪女とはもう終わりだ!」

 アレクシスが高らかに宣言すると、拍手すら起きた。
 私はただ、淡く微笑んだ。

「……そう、殿下。ご自由に」

 その瞬間、私の中で何かが音を立てて切れた。




 断罪の翌日、私は王都を追放された。
 実家のフェルステイン侯爵家も、家名に傷をつけぬようと私を勘当。
 けれど――私は笑っていた。

「……予想通りね」

 だって、全部仕組まれたことを知っていたから。
 あの“聖女”を名乗る平民、エミリアが裏で操っていたのだ。
 殿下だけでなく、学園の人気者――攻略対象たちを次々と味方にし、私を孤立させた。

 でも、彼女は知らない。
 私がただの“悪役令嬢”ではないことを。

 私は“未来を知る者”。
 ――この世界が乙女ゲーム『永遠の誓い~蒼き王子と運命の花嫁~』の中だと知っている。
 そして、断罪イベント後、彼女は全員に裏切られ、闇堕ちして破滅する。

「まぁ……楽しませてもらおうかしら?」

 私は侯爵家の屋敷を離れ、辺境の別邸へと向かった。
 すると、そこには――予想外の人物が待っていた。

「よう、やっと来たか。待ってたぜ、リリアーナ嬢」

 深紅の髪をかき上げながら笑うのは、学園の問題児にして最強の剣士、ライナルト・ヴェイン。
 攻略対象の一人。
 ……断罪の場では、エミリアの味方をしていたはずの。

「どうしてあなたがここに?」
「どうしてって、お前が本気で悪女なわけねぇだろ。全部裏で嗅ぎまわってた。あの女――エミリア、裏で怪しい薬使ってたぜ」

 ライナルトの瞳が鋭く光る。
 私はその言葉に眉を上げた。

「……気づいていたのね」
「お前が泣くの、見たくなかっただけだ」

 頬を染めながらそんなことを言うから、思わず吹き出してしまった。
 ……やれやれ。やっぱりこの世界の“イベント”は、私の記憶通りには進まないらしい。



 数日後。
 別邸の庭でお茶を飲んでいると、また一人、来客があった。

「リリアーナ嬢……無事でよかった」

 銀髪の青年、宰相補佐のセドリック。
 知的で冷静な彼は、学園では「氷の貴公子」と呼ばれていた。
 断罪のとき、唯一声を上げなかった人物。

「私に何の用かしら?」
「誤解を解きたい。……そして、もう一度、あなたの傍に立ちたい」

 その言葉に、心が少しだけ揺れた。
 でも、すぐに笑ってしまう。

「今さら遅いわ。もう私は、悪役令嬢として断罪された女よ?」
「それでも構わない。むしろ――今のあなたが美しい」

 彼の手が私の頬に触れる。
 その仕草に、鼓動が跳ねた。
 ……おかしい。
 ゲームでは、彼は“聖女”ルートでしかデレなかったはずなのに。

「……ふふ、面白くなってきたわね」




 夜。
 部屋で地図を広げていると、今度は窓の外に影が落ちた。

「誰?」
「俺だ。……開けてくれ、リリアーナ」

 月明かりの下に立っていたのは――王国騎士団長、ユリアス・クロード。
 殿下の親友にして、もう一人の攻略対象。

「まさか、あなたまで……」
「お前を見捨てた自分が、許せなかった」

 彼は窓枠を跨ぎ、強引に私を抱きしめた。
 逞しい腕の中で、思わず息が詰まる。

「アレクシス殿下はもう駄目だ。エミリアの言葉に酔い、国政すら乱し始めている」
「……知ってるわ。彼女の“祝福”は偽り。魔族の力よ」
「やはり……!」

 ユリアスの表情が険しくなる。
 私は静かに彼の胸から離れた。

「この国、もうすぐ滅びるわ」
「リリアーナ、俺を使え。命令してくれ。お前のために剣を振るう」

 その真剣な瞳に、私は思わず言葉を失った。
 かつて“悪役令嬢”と罵られた私が、今や王国の運命を握る立場にある。

 ……いいわ。
 ここから、私のざまぁ劇を始めましょう。




 そして一週間後。
 王都では、聖女エミリアの祝福式が開かれていた。
 群衆の前に立つ彼女の周囲には、光の魔法が舞う。
 けれど、それは――魔法陣を媒介にした“闇の力”だった。

「……そろそろ幕を上げましょうか」

 私は黒のマントを羽織り、会場の屋上から見下ろす。
 背後にはライナルトとセドリック、そしてユリアス。
 三人の攻略対象が、私の味方として並んでいた。

「リリアーナ、準備完了だ」
「魔法陣、いつでも展開できる」
「お前が合図すれば、俺があの女を拘束する」

 胸の奥で、熱いものがこみ上げる。
 ――これが“断罪された悪役令嬢”の逆襲。

「ふふ……いいわね。じゃあ、始めましょう」

 私は指先を軽く上げた。
 その瞬間、王都を包む光が、闇に染まった。

 “聖女”の笑顔が恐怖に歪むのを、私は確かに見た。



 ――そして。

「リリアーナ様……あなたは、本当に悪女なのですか?」

 背後から、柔らかな声がした。
 振り向くと、そこには最後の攻略対象――王太子アレクシスがいた。
 彼の瞳は、混乱と後悔に揺れていた。

「俺は、間違っていたのか……?」

 私は微笑む。
 冷たく、けれどほんの少しだけ優しく。

「ええ、殿下。ようやく気づいたのね。
 でも、もう遅いわ――あなたは、“選ばれなかった”の」

 ざまぁの言葉を口にするその瞬間、
 私の背後で三人の男たちが、静かに私の手を取った。

 溺愛の気配が、甘く絡みつく。

「……私の物語は、ここからよ」

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