悪役令嬢として断罪されたけど、攻略対象全員に溺愛されてます

ゆっこ

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 王都を覆っていた黒雲は、まるで生き物のように渦を巻いていた。
 闇の瘴気が空を裂き、城の塔の上にはひとりの男の影が立っている。

 黒の神官――レオン・ヴァルム。
 その背後には、倒れた兵士たち、崩れた石柱、そしてまだ消えぬ魔法陣。

「来たか、リリアーナ。
 お前が“光”なら、私は“影”。
 この世界に秩序がある限り、どちらかが消える運命だ」

 その言葉に、私は首を横に振る。
 もう、恐れはなかった。
 ライナルト、セドリック、ユリアス――彼らが傍にいる。
 私はもう、孤独な“悪役令嬢”ではない。

「運命なんて、私が壊してみせる」

「ほう……ならば、やってみろ」

 レオンが闇を放つ。
 黒い波が押し寄せる。
 ライナルトが前に出て炎を構えた。

「俺が先陣を切る!」

 炎の竜が唸りを上げ、闇を焼く。
 その背中を、ユリアスの剣が追い、閃光が迸る。

「お前の相手は俺だ、神官!」

 セドリックは祈りの詠唱を重ね、聖印を掲げた。
 淡い光が私たちを包み、魔法の加護を強める。

「リリアーナ嬢、貴女は中心で詠唱を。僕らが守ります」

「ありがとう。……いくわ!」

 私は目を閉じ、手を胸に当てた。
 心の奥で響く声がある――“神の加護”が、応えている。

 あの日、断罪されたとき。
 誰も私の言葉を信じてくれなかった。
 でも、今は違う。
 信じてくれる人がいる。愛してくれる人がいる。

 だから、私は――“聖女”として戦う。

「〈光よ、秩序を越え、真の名を取り戻せ〉!」

 天から光柱が降り注ぎ、城全体を包み込んだ。
 闇が裂け、レオンの影が弾かれる。

「なに……!? この力……!」
「あなたが封じた“加護”よ。
 神に選ばれたのは、あなたじゃない――この私」

 私は杖を掲げた。
 白金の魔法陣が足元に浮かび、風が巻き上がる。

「――〈聖光の審判〉!」

 閃光が走り、雷鳴が響いた。
 レオンの体を光が貫き、彼は苦悶の声を上げた。

 だが、その顔は笑っていた。
「美しい……やはりお前こそ、私の求めた存在だ。
 私を滅ぼすことで、この世界に均衡が戻る。
 だが、覚えておけ……“闇”は誰の心にもある」

 そう言って、彼の体は霧となり、空へと溶けていった。

 黒雲が散り、朝日が差し込む。
 王都を覆っていた闇が、ようやく晴れた。



 戦いが終わったあと、私たちは城の庭にいた。
 焦げた石畳の上に立ち尽くしながら、私は静かに空を見上げる。
 光の欠片が雪のように降り注いでいた。

 セドリックがそっと近づいてくる。
 白い外套の裾を翻し、柔らかな微笑を浮かべながら。

「……終わりましたね」
「ええ。けれど、あなたの祈りがなければ勝てなかったわ」

 私は彼の手を取る。
 その掌にはまだ、微かな光が宿っていた。

「セドリック、あなた……命を削ったでしょう」
「ええ。けれど、後悔はありません。
 貴女が笑っているなら、それだけで十分です」

 静かに抱きしめられ、胸に顔を埋めた。
 その温もりが切なくて、愛おしい。

「……本当に、あなたって人は」
「僕は聖職者ですから。祈りと愛が、すべてです」

 少し照れくさそうに笑うその顔に、私は微笑み返した。

 そこへ、ライナルトがやってきた。
 血と煤に汚れた顔のまま、にかっと笑う。

「おーい、いつまでくっついてんだよ」
「なによ、嫉妬?」
「当たり前だろ。俺の女に他の男が触れてるんだ。
 ――俺の番だ」

 そう言って、ライナルトは私の腕をぐいと引き寄せ、唇を重ねた。
 強引で、熱くて、けれど一瞬で世界が溶けた。

「……お前が無事で、本当によかった」
「……心配かけたわね」
「そりゃな。二度と離さねぇ。どんな運命でも、俺が焼き払ってやる」

 その真っ直ぐな言葉に、心臓が跳ねる。
 だけど、さらに横から低い声が割り込んだ。

「……お前たち、俺の前で堂々とやるな」

 ユリアスだ。
 冷静な顔で腕を組み、しかし耳が赤い。

「お前だって、嫉妬してるんでしょう?」私が笑うと、彼は目を逸らす。
「……当然だ。俺はお前を“誰のものにもしたくない”」

 その言葉に、息が止まった。
 彼はゆっくりと近づき、指先で私の頬をなぞる。

「お前は俺の誇りで、救いで……
 たとえ世界が敵でも、俺はお前を選ぶ」

 瞳の奥に映る真っ直ぐな想い。
 私の心が満ちていくのがわかった。

「……ありがとう、ユリアス」
「言葉じゃなくて、証がほしい」

 彼はそっと私の額に唇を落とした。
 それは誓いの口づけ。
 優しくて、どこまでも深い愛。



 ――三人に囲まれ、私はふと笑ってしまった。
 この旅が始まったとき、私は“断罪された悪役令嬢”だった。
 誰にも愛されず、誰にも理解されなかった。

 けれど今は、違う。

 光と闇を越えて、私はようやく自分の居場所を見つけた。
 それは、恋という名の奇跡。

 城の塔から見下ろす王都は、再び活気を取り戻していく。
 崩れた街に人々の笑顔が戻り、空には白い鳩が舞っていた。

「リリアーナ」
 背後から、三人の声が重なる。

「これからどうする?」
「聖女として国を導くのもいいけれど……」
「俺たちは、どんな選択でもお前についていく」

 私は少し考えて、笑った。

「そうね……今は、ただ生きたいわ。
 誰かの“役”じゃなくて、私として」

「いい答えだ」ライナルトが笑う。
「リリアーナらしいですね」セドリックが微笑む。
「……なら、俺が隣に立つ」ユリアスが静かに言った。

「全員、譲る気はないみたいね」

 笑いながら、私は朝日の中へと歩き出す。
 光が頬を撫で、風が金色に輝いた。


 その後、王国は新たな時代を迎えた。
 黒の神官が残した傷跡は深かったが、人々は希望を取り戻していった。
 そして、“断罪された悪役令嬢”は――

 “聖女リリアーナ”として、再び歴史にその名を刻むことになる。

 けれど、彼女の物語はそこで終わらなかった。

 王都の外れ、春の花咲く丘の上。
 リリアーナは小さな家を建て、時々訪れる三人の“騎士”たちと穏やかな時間を過ごしていた。

 紅茶の香りが漂い、笑い声が響く。
 愛に囲まれた穏やかな午後――それこそ、彼女が望んだ世界。

「ねぇ、リリアーナ」
 ライナルトが腕を組む。
「結局、俺たちの中で誰を選ぶんだ?」

 その質問に、セドリックが眉をひそめ、ユリアスがため息をつく。

「またその話ですか」
「飽きないな……」

 私は笑いながら紅茶を口にした。
 そして、わざと少し意地悪に言う。

「ふふ……まだ決めてないわ。だって、どの“愛”も本物なんですもの」

 三人が同時に固まる。
 次の瞬間、ライナルトが頭を抱えた。
「……こいつ、ほんとに罪な女だな!」

 私は笑って、空を見上げた。
 柔らかな青が広がり、白い雲が流れていく。

 ――もう、どんな過去も怖くない。
 私は“悪役令嬢”でも、“聖女”でもなく、ただのリリアーナとして生きていく。

 愛され、愛し返し、そして自分で未来を選ぶ。

 それが、私のざまぁ。
 そして、私の幸せ。

 終幕の鐘が鳴る頃、春の風が優しく頬を撫でた。
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