婚約破棄された令嬢ですが、なぜか国中の貴族が求婚してきます。ざまぁのつもりですか?残念、私もう聖女なんで!

ゆっこ

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婚約破棄の瞬間、私はただ静かに笑った。

「セシリア・アルトワ嬢。君との婚約は、本日をもって破棄する」

王太子、レオンハルト殿下は玉座の前で高らかに宣言し、周囲の貴族たちは驚愕の表情を浮かべた。

しかし、私は何も言わず、ただ一礼して立ち去った。

それが、すべての始まりだった。



セシリア・アルトワ。名門アルトワ公爵家の一人娘として育てられ、幼い頃から「王妃になるべき女性」として厳しく教育されてきた。優雅さ、知性、礼節、完璧なまでに叩き込まれたそのすべてが――婚約破棄という形で、呆気なく無に帰した。

殿下が選んだのは、平民出身の転生者であるアリシア・グラン。「努力の天才」であり「聖女候補」としてもてはやされている令嬢だった。

私? 悪役令嬢扱いされ、国中の噂の的よ。

でも、彼らは知らなかったの。
あの日、私が神託の場で選ばれていたことを――。



「セシリア様! 本当にお戻りにならないおつもりですか? 都には、まだ味方も――」

「いえ、エミリア。私はこの地で、新しく始めたいの」

私の侍女であり、唯一の理解者だったエミリアが、涙をこらえながら荷物をまとめている。ここは王都から遠く離れた北の大地、グラナ辺境領。凍てつくような寒風の吹くこの地に、私は自ら志願して移った。

――婚約破棄の数日後、私は「辺境教会の臨時聖職者」として任命されていた。

建前上は左遷。けれど、実情は違う。
この地で目覚めたのだ、私の「聖女の力」が。

初めはただの祈祷師として日々を過ごしていた。けれど、ある日、氷で閉ざされた村に奇跡を起こしたことで状況が一変した。

「奇跡だ……! 氷が、溶けた……! 水が、流れてる!」

「セシリア様が、祈っただけで……!」

村人たちは涙を流して私の手を取った。
私の中で、何かが確かに目覚めた瞬間だった。

神は、私を見捨ててなどいなかった。



それから一年。

「セシリア様宛の書状です。……また、求婚状のようですが」

「また? もう何通目かしら」

机の上には、山のように積まれた書状。すべてが、私への求婚を綴ったものだ。

「本日は、アドラー辺境伯の次男から。彼はかつて殿下の側近でしたが……最近になって、王都を離れたとか」

「ふうん……王都が退屈になったのかしら、それとも」

私が微笑むと、エミリアが苦笑した。

「セシリア様のご活躍が、王都にまで響いておりますから。聖女としての奇跡が、もう三十件以上……。そのうえ、容姿も、教養も、すべてが備わっていると評判で――」

「皮肉なものね。婚約破棄された時は、あれほど罵倒されていたのに」

そう。私が辺境に来る直前まで、「王妃失格」「冷たい女」「嫉妬深い悪役令嬢」など、好き勝手言われていた。それが今では「惜しいことをした」「殿下の見る目がなかった」と言われているという。

その殿下はというと、アリシアと共に公務に奔走しているそうだが……。

「アリシア様が聖女ではなかったと、ついに教会が正式に発表されたようです」

「……そう」

それも、仕組まれていたのだろう。転生者として、注目を浴びていたアリシアは、殿下にとって理想の聖女だったのかもしれない。けれど――神が選んだのは、私だった。

「……これが、ざまぁってやつかしらね」

誰に聞かせるでもなく呟いた私に、エミリアがそっとお茶を差し出す。

「でも、貴族たちの中には本気でセシリア様に心を寄せている方もいらっしゃるようです。特に――」

「ええ、誰かしら?」

「……フェリクス公爵家の当主、レイモンド様です」

その名を聞いた瞬間、私の手が止まった。

「……あの、氷の軍神?」

「はい。辺境の魔獣討伐でご一緒したときから、ずっと書状を……。最近は、頻繁に“直接お会いしたい”と」

冷静で無口な、あの鋭い目の男。私と同じように、王都の欺瞞に嫌気が差し、辺境を守ることを選んだ男。――あのとき、私の祈りが彼の部隊を救った。それを、彼は覚えていたのだ。

(まさか……彼までが、私に?)

混乱する私に、エミリアがさらに驚くべき言葉を口にした。

「そして……本日、王太子殿下よりの親書も届いております」

「――は?」

私は思わず、茶を噴き出した。

「殿下から、ですって?」

「……はい。内容は、簡単に言えば“誤解があった。再び話がしたい”とのことです」

「いまさら、何を――」

私の胸に、さざ波のような感情が広がった。

再び話がしたい? 誤解?

あなたは私を捨て、嘲り、侮辱し、そして――私を否定した。

そのあなたが、今さら?

「……ふふ」

笑いが、自然とこみ上げてくる。

もう遅いわ。
私はもう、王妃になるつもりなんて一切ない。

なぜなら――

「私は、聖女ですから」

そして今度は、私が選ぶ番。

王太子か。
氷の軍神か。
それとも――この中には、まだ現れていない“本当の運命の人”がいるのかもしれない。

新たな手紙を開く私の前に、また一つ、新しい運命が舞い降りようとしていた――。
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