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四話
5
しおりを挟むゲームの舞台は、ゾンビのようになった人間がそこら中にいる世界だった。続きからやらされているから、物語があるかどうかもわからない。わかることはただ、操作する自分が近くを歩くゾンビを殺さなければ、自分が殺されてゲームオーバーになるということだけ。
「ほら、来たよ」
卓が言う。僕の操る主人公が、廃墟のような建物へ足を踏み入れたところだった。少し先にふらふらとゾンビが歩いている。あれに三回もやられた。僕はほとんどやけくそに装備している拳銃の標準を合わせようとする。でも、卓が口を出した。
「凪、銃はやめよう」
「なんで」
「他のやり方、教えてあげる」
そんなものがあるなんて聞いてないけど、と心の中で悪態をつく。
「まず、そこの柱の裏に隠れて。ゆっくりね」
画面の右端に映る柱を、卓が指さす。僕はその柱の裏まで移動して、ゾンビの方を覗き込んだ。
「そいつはこのあと、そこにあるテーブルの周りを一周する。あっち向いたら、凪も後ろからついて行って」
卓は僕の右肩に顎を乗せる。
「……」
「いま。行っていいよ。しゃがむボタン押しっぱで進んで」
耳元で聞こえる卓の声を聞きながら、僕は言う通りに進んだ。
「追いついたらボタンが出るから、それ押して」
卓は声を潜める。まるで画面の中に自分たちがいるような気になってしまう。
僕は卓の言った通りに、ゾンビの背後に追いついた。すると、画面に「つかむ」という文字とボタンが表示され、僕は反射的にそれを押す。
「連打!」
押し殺したままの声で、卓が言った。その通りにする。
しゃがんでいた主人公は、ゾンビの真後ろですっと立ち上がり、それの首を後ろから回した左腕で絞め上げた。部屋にはゾンビのもがき苦しむ奇妙な声が響く。それがしばらく続き、最後には右手でナイフを取り出して、絞めていた首を真横に切り裂いた。ゾンビはあっけないほど静かに倒れ、床に血溜まりができる。
「やった、ナイス!」
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