Lost Resort:Phantom Pregnancy

天城小枝

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第1章「魔界に沈んだ町」

第1章第1節「魔界に沈んだ町」

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「いつから世界はこうなったのかって? そっか。あなたはこうなる前の世界を知らないもんね」
 果て無く続いている。そう思えるほどに長く長く続いていく線路を歩きながら、彼女は想いを馳せた。
「世界がこうなったのも、あなたが生まれたのも、あのパラダイムシフトが起きてから。って言っていいのかは分からないけどさ」
 地平線へと続く線路の行く末を眺める。
 当てどなくゆったりとした足取りで、線路に沿って歩む。
「だって、あなたの話が本当ならまだ私のお腹にいるんでしょ? それはっていうより、って感じ」
 周囲には視界を塞いでしまう建物はなく、疎らにコンテナが置かれている程度で殺風景だ。敷き詰められた砂利の間からは雑草が力強く生えており、人の気配は感じられない。
 当然と言うべきか、誰かと話している様子の彼女以外に人の姿はなかった。
「…………何度も言ってるでしょ? この町から出ることはできないんだよ」
 にも関わらず、彼女は説明するようにして口を開く。言葉に耳を傾けて相槌を打つ。
「うん。本当なら線路は町の外に続いてく。でも、この町は違う」
 砂利を踏み鳴らす音に飽きたのか、彼女はひょいっと線路の上に足を乗せる。そのまま上手くバランスを取りながら、カツコツと足を運んだ。
「『パラダイムシフト』が起きて、この町はどこか別の世界に幽閉されてしまった。だから、こうして線路を歩いたところで町の外には出られない。あるのは、あの日空に現れた黒い太陽だけ」
 頭上で燦々さんさんと輝いているのは、白と黒の光を放つ太陽。その様相は地上を照らすというよりも、まるで世界から色彩を奪っているようにも見えた。その証拠に、空は澄んだ青ではなく燻んだ灰色に染め抜かれている。雲一つない晴天に関わらず。
「まぁ、いいけど」
 どこか自虐的にさえ聞こえるが、それは単なる独り言ではなかった。
 その時、線路脇に建てられた標識に通りがかる。色褪せて劣化した標識には、彼女が住む町の名前が微かに刻み残されていた。
「どうせ帰る場所なんてないし。行くあてもなく一人でさまようのも、嫌いじゃない」
 彼女が住むのは、この世とあの世の狭間に沈んだ町アトランティス。
「ふふっ、そうだね」
 交わす言葉に笑みをこぼす彼女の名前は、セツナ。
 彼女は笑みを隠すように首に巻いたマフラーに口元を埋め、果てしない線路を歩き続ける。
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