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[ No−19 ]

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その後セルジオは、ラビスティアの誤解を解く為に、より一層城に居る時は会いに行き、屋敷では何時も膝の上に抱き上げて、愛を囁やき続け、ラビスティアの不安を払拭した。

「ティア…まだ私の愛を疑うのかい?確かにアンドレ王子には、何度も結婚の打診はされたよ…。それもあの頭のイカれた我儘娘を、押し付けて来て迷惑だった。
だが我が侯爵家は、たとえ王命で押し付けられた婚約でも、跳ね返す力を持ってるからね。私が嫌だと言ったら、陛下も無理に娶れとは言えないんだよ。テイラー侯爵家を敵に回す事になるからね。
だからティア…私はティアを愛しているから、結婚したんだと信じてくれるよね?」

そう真剣なセルジオを見て、ラビスティアは頷いた。

「ジオ様…、疑ってご免なさい…。私、ジオ様を信じるわ…私とケビンの為に、色々と手を尽くしてくれてるのに、疑った私を許してくれる?」

「勿論だよ。ティアのする事は、何でも許すよ?浮気以外はね。
あぁ…そうだ!!例の件も明日片付くから、今度の夜会は、一緒に出席しようか?そこではっきりと、私とティアがもう結婚した事を、陛下にも報告しよう…。本当はウエディングドレスが仕上がって、挙式の日にちが決まったら、報告しようと思ってたんだが、王子に余計な事を、言わせない様にしないとね…」

そう言ってセルジオは、ニヤリと笑った。

「ジオ様?明日、叔父夫婦の裁判ですか?ケビンや私も出席するのですか?」

「ケビンは当主であり、被害者としても出席しなければいけないが、ティアは出席しなくてもいいが、傍聴席から裁判の様子を見る事は可能だよ?出席するかい?」

暫く悩んだラビスティアは、頷いた。

「ジオ様、私…ちゃんと知りたいです。何が今迄あったのか…」

「解った…裁判は午後からだ…。私も一緒に行き、側にいるからね」


影達はセルジオの指示で、着々と叔母の悪事の証拠を集めて、裁判で当主に内緒で、叔母が独断で契約書を作成して借金をした事や、横領の証拠を提示して、ケビンが当主になる前の、犯罪だったと証明する証拠を集めていた。
そうしなければ、現当主のケビンも責任を問われるからだった。

叔父や叔母、その情夫や裏の組織を、影達が消すのは簡単だが、そう言う事は、噂がどこからともなく漏れて、疑いの目を向けられるので、ちゃんと貴族裁判で裁く必要があったのだ。
この裁判で、叔父夫婦を裁きケビンは被害者として、ミューズ伯爵家の長女は、ちゃんと生きていたとして、社交界に知らしめる必要もあった。

❛❝~貴族裁判~❞❜

貴族裁判の会場では、いつも以上に傍聴人が多かった。
最近若くして、伯爵家当主になったばかりの、家の不祥事など、噂好きな貴族達が、こぞって見に来くるのもあたり前の事だった。
だからセルジオは、二人を引き裂かれた姉弟として、世間の同情をかう為に、色々策を講じていた。

ラビスティアは目立たぬように、控え目なドレスの上に髪を隠す為の、丈の短めなローブを着て、フードを深く被り眼鏡をかけて、会場にやって来てた。
同じくローブを着たセルジオも、目立たない様にフードを被り、ラビスティアの隣に座っていた。

裁判が始まると、叔母が薄汚れたドレス姿に、乱れた髪のまま、引きづられて被告人席に、立たされた。
ラビスティアが、叔母を最後に見たのは16歳の時だった…。当時より体型はふくよかで、妊婦の様な腹をしていた。顔はやつれて見えるが、相変わらずキツイ目元で、ラビスティアは当時、影でよく髪を引っ張りながら、罵声を浴びせられていた事を思い出し、隣に座るセルジオの手を、ギュッと握り締めた。

「ティア…私が一緒だ…心配はいらないが…気分が悪いなら、出ようか?」

セルジオが心配して、ラビスティアの顔を覗き込み問うと、ラビスティアはふるふると頭を振りながら言った。

「少し昔の嫌なことを、思い出しただけです…。ちゃんと最後まで見届けますわ…」

そう言って身体を強張らせる、ラビスティアの手をセルジオは握り返して、叔母を睨みつけていた。

そして裁判が始まると、叔母の罪状が、長々と告げられた。

・義兄夫婦が亡くなると、当時12歳のケビンの後見人に夫がなると、夫をけしかけてミューズ伯爵家に、住まいを移した事。
・その夫と二人でミューズ家の資産を勝手に、好き勝手に使っていた事。
・ミューズ伯爵家の資産を勝手に売却した事。
・自分の実家の子爵家に、金を定期的に横流ししていた事。
・4年前から、若い男が身体を売る、怪しい店に出入りにするようになり、不貞を働いた事。
・その店の男を買い上げて、情夫として囲っていた事。
・ミューズ伯爵家の名を使い、借金をしていた事。
・ケビンが借りているアパートを、本人が不在の時を狙い、金や資産を奪おうと強盗を企んだ事。
・女性を拐かし高級娼館に売り払おうとした事。

が告げられた。それを聞いた傍聴席の貴族達は、皆、驚きでざわめきが起こっていた。
そして、弁護士が咳払いをしてから、話を続けた。

「これは未遂の件ですが、被告人はミューズ伯爵家の長女である、ラビスティア嬢が、亡くなっていると言う噂を利用して、密かに国に連れ戻し、裏の組織を利用して高値で売り裁く予定も、企ててました」

そう弁護士が告げると、御夫人達から悲鳴があがっていた。

「ラビスティア嬢は、日常的に被告人から虐められていた事も、当時屋敷で働いていた者達から、話を聞いています。それはラビスティア嬢が、14歳から16歳になるまで続いていたそうですが、その虐めの理由が、亡き母親似の美しい髪と、顔立ちの美貌に嫉妬したからだとは、呆れ果てますがね…。

そしてラビスティア嬢が16歳になると、ヴァスティ王国の学園に、最低限の支度だけで、たった一人で行かせて、ろくに仕送りもせずに、放っていたそうです。
ただラビスティア嬢は、大変成績が優秀でしたので、授業料や寮費は免除されていたので、そんな状況でも生き延びていられたようです。

ですが、今迄伯爵令嬢として過して来た御令嬢が、16歳になったばかりの時に、初めての外国で、侍女や下女もいない生活を強いられて、さぞ辛い思いをした事でしょう」

そう弁護士が話すと、会場からはすすり泣きが聞こえていた。

「被告人は、現当主ケビン様には、絶えず嘘の情報を伝えて、屋敷の使用人についても、ラビスティア嬢を追い出すと、家令以外は全て使用人を入れ替えて、家令については金を握らせ、何時も口裏を合わせていたようです。
当時まだ幼いケビン様には、そんな悪巧みは、知るよしも無かった事でしょう…。

それから被告人は、嘘の情報を世間には流しました。
(ラビスティア嬢は学園にも通えない程病弱で、他国の保養施設に入っている)と。
そして、ラビスティア嬢の卒業が近くなると、少ない仕送りを辞めて、国に帰って来れなくしたのです。

それ故、ラビスティア嬢は学園から仕事を紹介して貰い、卒業後は士官して、働きながら一人暮らしをしていました。もう何年も国に帰る事も無く、たった一人の弟と引き裂かれて、健気に慎ましく暮らしていたラビスティア嬢を、自分の借金を、棒引きにしてやると言われた被告人は、密かに連れ戻して売り払おうとしたのです!!」
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