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[ No−20 ]

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そう弁護士が告げると、傍聴人達は立ち上がり、指を指して叔母を罵り出した。
(なんと醜い心の女だ!!)(悪女め!!)(恥を知れ!!)と口々に叫んでいた。

セルジオは震えるラビスティアを抱き寄せて、優しく背中を撫でていた。

(カン・カン・カン)

「静粛に!!皆、席に着け!!」

裁判官が、声を上げて傍聴人を、席に座らせると、ケビンに声を掛けた。

「ミューズ伯爵、今の弁護士の話しは、証拠も提示されているが、今迄全く知らなかったのですか?それにラビスティア嬢から手紙等の、交流もなかったのでしょうか?」

「裁判長、申し上げます。姉がまだ屋敷に一緒に住んでいた時は、姉は私を気遣い、叔母からの虐待は隠していました。そして、ヴァスティ王国の学園に行くのは、姉のたっての希望だから、邪魔をしてはいけないと、何度も叔父夫婦に、言い含められたのです。それを幼い私は愚かにも信じて、しまいました。

その後、私は毎月手紙を出していましたが、姉が学園に通っていた時には、誕生日カードだけが、送られてきました。後に姉が一人暮らしをしていた時に、その事を尋ねると、姉は毎月送ってくれてたようですが、叔母が手紙を隠していたようです。

それに、私が学園に通う歳になった16歳になると、叔父夫婦は私が寮に入り、そこから学園に通うように勧めました。その方が近くて勉強に専念出来るだろうと言って…。
私も、叔父夫婦といるよりは寮生活の方が、気が楽でしたから、屋敷に帰る事は殆どありませんでした。そのせいで、叔父夫婦の金遣いについても、知らずにいました…。
それと、姉の噂について尋ねると、これは姉の為だと聞かされたのです」

「ミューズ伯爵、姉の為とはどう言う事ですか?」

「はい…。当時叔母は、こう言いました。姉は隣国で、勉強もせずに自由に遊んでいると…。だから、国に帰って来た時に、悪い噂が立つと、いい縁談が来ないから、仕方なく嘘の噂を、流しているのだと言いました。
私も、姉は一人でいるのが寂しくて、友人達と楽しんでいるならばと、それ以上は追求しませんでした。そして叔父は、多額の仕送りをしている証拠だと言って、帳簿を見せて来たのです。私は、後見人の叔父を信じてましたから、また愚かにも、騙されてしまったのです…」

そう言ってケビンは涙を流し、悔しさに肩を震わせていた。
そして会場は静まり返っていた…。

「裁判長、私からも宜しいですか?」

「弁護士殿、発言を許します」

「ありがとう御座います。提示した証拠の中にもありますが、叔父夫婦は実に巧妙な手口で、ミューズ伯爵を騙してました。
子供の頃から屋敷にいる家令を使って、叔父は頼りになる味方だと、ミューズ伯爵に吹き込み、叔父に領地や屋敷の管理を任せれば、問題はないと言わせ続け、信じさせたのです。

そして、ミューズ伯爵に見せるのは、偽の帳簿でした。まだ学生で領地経営を、学んでいないのですから、簡単に騙せた事でしょう…。それに寮へ入れて、屋敷には寄りつかせないようにしていたり、卒業後は騎士団勤務の為、勤務時間が不規則ですから、アパートを借りて住む様に勧めたりして、出来るだけ屋敷には戻らない様にしてましたからね…」

裁判長は(はぁ…)と、ため息をついてから話しだした。

「12歳では、頼れる者を選べる歳ではないですよね…。周りの大人の言いなりでしょう…。ミューズ伯爵と姉のラビスティア嬢にとって、叔父が後見人になった事で、今回の事件が起きてしまったのですね…。証拠も揃っていますので、ミューズ伯爵は、被害者と解りました。暫し休憩後、処罰を言い渡します。陪審員の皆さん、部屋を移動して下さい」

そう裁判長が言うと、それまで黙っていた叔父が、ケビンに向って小さな声で(すまないケビン…。私が彼女を止められなかった…)と、ぽつりと言った。
叔母は最後まで何も言わず、うつむいていた。

一時中断後、判決は言い渡された。この国に死刑制度はないので、叔母は北の鉱山で生涯働き、その金額はミューズ伯爵家へ渡される事になった。
そして叔父は、南の辺境で城壁造りの工員として、15年の刑を言い渡された。勿論叔父の給金も、ミューズ伯爵家への賠償にあてられる。

その後家令や、叔母の実家の子爵家の裁判が、続けて行われたが、ラビスティアとセルジオは、会場を後にした。
同時刻、叔母の情夫や、裏の組織の連中の裁判は、平民用の裁判所で裁かれていた。

「ティア…疲れただろう?後の事は、弁護士とケビンに任せればいいよ。うちの弁護士は優秀だから、心配はいらないよ…」

セルジオがそう、ラビスティアに言うと、寂しそな顔をしてラビスティアは、ぽつりと言った。

「叔父様は、どうしてあそこまで、叔母を好き勝手に、させてたんでしょう…。それに…情夫の存在も知ってたんでしょうか…」

「知ってた筈だよ…。知ってて、知らぬふりをしてたのさ…。昔、あの女が妊娠した時に叔父君が、ほんの出来心で女遊びをしたらしい…。
それが金髪の女性だったらしくて、あの女は悔しさで当たり散らした時に、腹の子は流れるし、投げつけた花瓶が叔父君の、イチモツを傷つけたようだ。それで男性機能は不能になるし、自分も二度と、子を産めなくなったそうだよ。それでも離婚はしなかったので、叔父君は負い目があったのだろう…」

「そうでしたか…。だから叔父夫婦には、子がいなかったのですね…。それに叔母は、ケビンだけは、可愛がってましたし…」

「ティア、もう気にするんじゃない…。これからは、私がそんな嫌な事を、思い出す暇もないくらい君を愛するよ…。さぁ…帰って美味しい物でも食べよう?きっと屋敷では、ティアの好きな物を、作って待っているよ…」

「ふふっ…ジオ様ったら…」

それから二人は屋敷に帰り、弁護士とケビンの帰りを待つ事にした。
夕方にケビンと弁護士が帰って来ると、セルジオと一緒に、その後の話を聞くと、家令は叔父と一緒に南の辺境で城壁造りの工員として、5年の刑を言い渡されそうだ。

そして、叔母の実家の子爵家は、受け取った金品を一ヶ月以内に、返還を言い渡されたそうだ。だがそんな大金は今の子爵家には、ないので屋敷を売り払い、爵位も返上する事になるだろうと聞かされた。


翌日の新聞にも、その裁判が取り上げられたので、それから数日間は、社交界はその話題でもちきりだった。特にケビンは時の人となり、仕事にならず苦労していた。
皆の関心は、悲劇のケビンの姉の事だった。(今は無事なのか?いつ国に呼び戻すのか?)とケビンに詰め寄るからだ。
だがケビンは、セルジオとの約束で、次の夜会までは、ラビスティアが結婚したのは、内緒にしなければならないので、国に帰って来ている事しか言えなかった。
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