嫌われ者の強欲聖女は気まぐれで助けた爽やか系執着聖騎士様に懐かれています

柳葉うら

文字の大きさ
18 / 18

番外編:優しくて愛おしいあなたへ

しおりを挟む
※ご無沙汰しております。大変お待たせして申し訳ございません。リクエストいただいた、ヘザーとハロルドのその後のお話をお届けです。この度はリクエストいただいたき、ありがとうございました!



 ――元王妃プリシラが事件を起こしてから、半年経った。
 私とハロルドは相変わらず、満月の周期ごとに人間界と魔界を行ったり来たりしている。

 今は人間界にいて、今日はハロルドとデートの日だ。

「ヘザー、とても綺麗だよ。まるで花の妖精が舞い降りて来たみたいで見惚れてしまうよ」

 ハロルドは孤児院まで迎えにくるや否や、頬を少し赤くし、蕩けるような笑みを浮かべて褒めてくれる。

 今日のハロルドは白いシャツにアイスブルーのジャケットとスラックスを合わせており、貴族らしく見える。

「お、大袈裟だよ。いつもと違う服を着ているから雰囲気が変わっただけだと思う」 

 今日の私はハロルドにプレゼントしてもらった、矢車草のような上品な青色のワンピースを着ている。
 聖女の制服と簡素なブラウスとスカートしか持っていない私のために、よそ行きの服が必要だと言って持ってきたのだ。

「いや、今日のヘザーは本当に妖精のようだよ。その髪型も良く似合っている」
 
 髪は孤児院にいる年長の女の子たちが三つ編みを編み込んだハーフアップにしてくれた。
 私史上、一番おめかししたかもしれない。
 
 ハロルドは右手を私に差し出し、騎士が貴族の女性をエスコートするような仕草をする。
 
「ヘザー、美しいあなたと今日一日一緒に過ごす栄誉を私にいただけますか?」
「あげるもなにも、そういう約束したじゃない」
「ははっ、そうだね。ヘザーと一日中ずっと一緒に居られるなんて夢のようだよ」
 
 ハロルドの手が私の手をとる。
 温かくてしっかりとした大きな手に握られると、ドキドキと胸が忙しなく鳴って落ち着かない。
 
「はぁ、このまま誰にも見せずに独り占めできたらいいのに」

 ハロルドが溜息と共に小さく呟いたような気がしたけれど、あまりにも小さな声だったから聞き取れなかった。

     *** 

 王都に着いてすぐに、私は大通りの真っただ中で佇んでいるおばあさんを見つけた。
 手荷物をたくさん持っているから、もしかすると地方から来た人なのかもしれない。

 私はハロルドの手を引いておばあさんに歩み寄った。
 
「あの、もしかして道に迷いましたか?」
「ええ、そうなの。娘たちに会いに来たのだけど、待ち合わせ場所までどうやって行けばいいのかさっぱりわからなくて……」

 王都の貴族街は整備されているが、平民街は入り組んでいるため、初めて来た人は迷いやすい。

「待ち合わせ場所はどこですか?」
「‶花の噴水広場″という場所よ。ご存じ?」
「ええ、ここからニ十分ほど歩いたら着きますよ」
「まあ、そんなに……」

 おばあさんはふうと溜息をついて、途方に暮れたように空を仰ぐ。
 ここに来るまでの長旅でかなり疲れているのだと零した。

「失礼します。少し、触れますね」

 私はハロルドの手を離し、おばあさんの体に触れて治癒魔法をかけた。

「あら、疲れがとれたわ。あなた、もしかして聖女様?」
「元、聖女です」
「ありがとう。おかげでまだまだ歩けそうだわ」

 とはいえ慣れない場所で人ごみの中を歩くのは大変だろう。
 私とハロルドはおばあさんを道案内することにした。

 私はおばあさんと並んで歩き、ハロルドがおばあさんの荷物を持つ。

「せっかくのデート中なのに、悪いわねぇ」
「まだまだデートは始まったばかりなので、気にしないでください」
 
 ハロルドは笑顔でおばあさんに話しかける。
 テンポよく会話を進めるから、初めは気まずそうにしていたおばあさんはいつの間にか笑顔になっていた。

 ハロルドのさりげない気遣いや優しい言葉がすぐに出てくるところを見習いたいと思う。
 
 やがて私たちは花の噴水広場″に着いた。
 そこは街中なのに花畑になっており、真ん中に大きな噴水があるのだ。
 噴水の縁は花で彩られており、この美しい噴水を見るために外国から旅行に来る者もいる。

 家族を見つけたおばあさんに手を振って見送っていると、不意にハロルドが私の頬にチュッとキスをした。
 私たちに手を振っていたおばあさんとその家族が、微かに頬を赤くして見つめてくる。

「い、いきなり何をするの!」
「ヘザーはやっぱり困っている人を放っておけない優しい人だなと思って、惚れ直して愛おしき持ちが溢れてしまったから」
「~~っ!」

 どうして爽やかな笑顔でそのような恥ずかしいセリフをさらりと言えるのだろう。
 
 私なんて、ハロルドを好きだと思っていても、なかなか伝えられないでいるのに。
 
「偶然、見かけたから声をかけただけだよ。私よりもハロルドの方が力になっていたし、優しい言葉をかけてあげていたし……」
「それは、ヘザーが助けようとしていたから、手伝っただけだよ」

 ハロルドは私の手を取ると、その場に片膝をついて私を見上げる。

 私の左手の薬指にキスをすると、ジャケットのポケットから小さな布張りの小箱を取り出して開ける。

「実は初めから、今日のデートでヘザーと一緒にここに行こうと思っていたんだよね。まさか人助けして到着することになるとは思ってもみなかったな」
 
 箱の中には、水色の宝石がキラリと輝く銀色の指輪が現れた。
 
「お義父さんに認めてもらってからプロポーズするつもりだったけど、ヘザーと一緒に過ごすうちに我慢できなくなったんだ。毎日ヘザーの新しい一面を知るうちに、どうしてもこの先永遠に一緒にいたいと思ってしまうから――」

 ハロルド様は指輪を私の左手の薬指に通す。
 いつ私の指のサイズを測ったのやら、指輪は私の指にぴったりだ。

「ヘザー、私と結婚してください」
「……本当に、私でいいの? 私はハロルドみたいな優しい言葉をかけてあげられないのに……」
「ヘザーがいい。私にとってヘザーはこの世で誰よりも優しくて愛おしい人だよ」
 
 ハロルドは水色の瞳を真っ直ぐ私に向けて返事を待ってくれている。
 私も、そんなハロルドを、この世で誰よりも優しくて愛おしい人だと思う。
 
 私はしゃがんで、ハロルドの唇にそっとキスをした。

「ええ、喜んで」
「……っ、幸せしすぎて死にそう」
 
 ハロルドはそう言うと私を横抱きして立ち上がると、今度は彼の方からキスをしてきた。
 唇が離れても何度も追いかけてきて、息継ぎができなくなった私がハロルドの肩をバンバンと叩いて抗議するまで続けられた。
 
     *** 

 それから数日後の、私とハロルドが再び魔王城に滞在したある日のこと。

 ハロルドは、パパとの決闘の最中に「そろそろヘザーのウェディングドレス姿を見たいと思いませんか?」とパパの説得を試みた。
 意外にもパパは否定せず、それどころか「うっ……卑怯な!」と恨めし気に声を上げると同時にハロルドに攻め込まれて剣を手放した。
 
 後でママから聞いた話によると、ちょうどママが人間界の結婚式の話をパパにしたところで、私のウェディングドレス姿を見たいと言っていたところらしい。
 そのタイミングでハロルド様が問いかけたため、パパの手元が狂ったようだ。

 ルシファーの話によると、ハロルドとママが結託していたのだとか。
 
 かくして私とハロルドは人間界にある教会で結婚式を挙げて、そこにパパとママとルシファーを始めとする魔界のみんながやって来たものだから、王都は一時騒然としたのだった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

なぁ恋
2024.01.03 なぁ恋

完結おめでとうございます
面白かった!!

悲しいところもありましたが、幸せな気持ちになる物語ありがとうございます!!

くっついた二人のその後もちょっぴり覗かせて貰えたら幸せです❤

2024.01.04 柳葉うら

感想をありがとうございます!
幸せな気持ちになる物語と言っていただけてとても嬉しいです!

また、リクエストをありがとうございます!
お時間をいただき恐れ入りますが、ぜひ二人のその後のお話を投稿させていただきますね(*´︶`*)♡

解除

あなたにおすすめの小説

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

殿下、私の身体だけが目当てなんですね!

石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。 それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。 ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。