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番外編:優しくて愛おしいあなたへ
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※ご無沙汰しております。大変お待たせして申し訳ございません。リクエストいただいた、ヘザーとハロルドのその後のお話をお届けです。この度はリクエストいただいたき、ありがとうございました!
――元王妃プリシラが事件を起こしてから、半年経った。
私とハロルドは相変わらず、満月の周期ごとに人間界と魔界を行ったり来たりしている。
今は人間界にいて、今日はハロルドとデートの日だ。
「ヘザー、とても綺麗だよ。まるで花の妖精が舞い降りて来たみたいで見惚れてしまうよ」
ハロルドは孤児院まで迎えにくるや否や、頬を少し赤くし、蕩けるような笑みを浮かべて褒めてくれる。
今日のハロルドは白いシャツにアイスブルーのジャケットとスラックスを合わせており、貴族らしく見える。
「お、大袈裟だよ。いつもと違う服を着ているから雰囲気が変わっただけだと思う」
今日の私はハロルドにプレゼントしてもらった、矢車草のような上品な青色のワンピースを着ている。
聖女の制服と簡素なブラウスとスカートしか持っていない私のために、よそ行きの服が必要だと言って持ってきたのだ。
「いや、今日のヘザーは本当に妖精のようだよ。その髪型も良く似合っている」
髪は孤児院にいる年長の女の子たちが三つ編みを編み込んだハーフアップにしてくれた。
私史上、一番おめかししたかもしれない。
ハロルドは右手を私に差し出し、騎士が貴族の女性をエスコートするような仕草をする。
「ヘザー、美しいあなたと今日一日一緒に過ごす栄誉を私にいただけますか?」
「あげるもなにも、そういう約束したじゃない」
「ははっ、そうだね。ヘザーと一日中ずっと一緒に居られるなんて夢のようだよ」
ハロルドの手が私の手をとる。
温かくてしっかりとした大きな手に握られると、ドキドキと胸が忙しなく鳴って落ち着かない。
「はぁ、このまま誰にも見せずに独り占めできたらいいのに」
ハロルドが溜息と共に小さく呟いたような気がしたけれど、あまりにも小さな声だったから聞き取れなかった。
***
王都に着いてすぐに、私は大通りの真っただ中で佇んでいるおばあさんを見つけた。
手荷物をたくさん持っているから、もしかすると地方から来た人なのかもしれない。
私はハロルドの手を引いておばあさんに歩み寄った。
「あの、もしかして道に迷いましたか?」
「ええ、そうなの。娘たちに会いに来たのだけど、待ち合わせ場所までどうやって行けばいいのかさっぱりわからなくて……」
王都の貴族街は整備されているが、平民街は入り組んでいるため、初めて来た人は迷いやすい。
「待ち合わせ場所はどこですか?」
「‶花の噴水広場″という場所よ。ご存じ?」
「ええ、ここからニ十分ほど歩いたら着きますよ」
「まあ、そんなに……」
おばあさんはふうと溜息をついて、途方に暮れたように空を仰ぐ。
ここに来るまでの長旅でかなり疲れているのだと零した。
「失礼します。少し、触れますね」
私はハロルドの手を離し、おばあさんの体に触れて治癒魔法をかけた。
「あら、疲れがとれたわ。あなた、もしかして聖女様?」
「元、聖女です」
「ありがとう。おかげでまだまだ歩けそうだわ」
とはいえ慣れない場所で人ごみの中を歩くのは大変だろう。
私とハロルドはおばあさんを道案内することにした。
私はおばあさんと並んで歩き、ハロルドがおばあさんの荷物を持つ。
「せっかくのデート中なのに、悪いわねぇ」
「まだまだデートは始まったばかりなので、気にしないでください」
ハロルドは笑顔でおばあさんに話しかける。
テンポよく会話を進めるから、初めは気まずそうにしていたおばあさんはいつの間にか笑顔になっていた。
ハロルドのさりげない気遣いや優しい言葉がすぐに出てくるところを見習いたいと思う。
やがて私たちは花の噴水広場″に着いた。
そこは街中なのに花畑になっており、真ん中に大きな噴水があるのだ。
噴水の縁は花で彩られており、この美しい噴水を見るために外国から旅行に来る者もいる。
家族を見つけたおばあさんに手を振って見送っていると、不意にハロルドが私の頬にチュッとキスをした。
私たちに手を振っていたおばあさんとその家族が、微かに頬を赤くして見つめてくる。
「い、いきなり何をするの!」
「ヘザーはやっぱり困っている人を放っておけない優しい人だなと思って、惚れ直して愛おしき持ちが溢れてしまったから」
「~~っ!」
どうして爽やかな笑顔でそのような恥ずかしいセリフをさらりと言えるのだろう。
私なんて、ハロルドを好きだと思っていても、なかなか伝えられないでいるのに。
「偶然、見かけたから声をかけただけだよ。私よりもハロルドの方が力になっていたし、優しい言葉をかけてあげていたし……」
「それは、ヘザーが助けようとしていたから、手伝っただけだよ」
ハロルドは私の手を取ると、その場に片膝をついて私を見上げる。
私の左手の薬指にキスをすると、ジャケットのポケットから小さな布張りの小箱を取り出して開ける。
「実は初めから、今日のデートでヘザーと一緒にここに行こうと思っていたんだよね。まさか人助けして到着することになるとは思ってもみなかったな」
箱の中には、水色の宝石がキラリと輝く銀色の指輪が現れた。
「お義父さんに認めてもらってからプロポーズするつもりだったけど、ヘザーと一緒に過ごすうちに我慢できなくなったんだ。毎日ヘザーの新しい一面を知るうちに、どうしてもこの先永遠に一緒にいたいと思ってしまうから――」
ハロルド様は指輪を私の左手の薬指に通す。
いつ私の指のサイズを測ったのやら、指輪は私の指にぴったりだ。
「ヘザー、私と結婚してください」
「……本当に、私でいいの? 私はハロルドみたいな優しい言葉をかけてあげられないのに……」
「ヘザーがいい。私にとってヘザーはこの世で誰よりも優しくて愛おしい人だよ」
ハロルドは水色の瞳を真っ直ぐ私に向けて返事を待ってくれている。
私も、そんなハロルドを、この世で誰よりも優しくて愛おしい人だと思う。
私はしゃがんで、ハロルドの唇にそっとキスをした。
「ええ、喜んで」
「……っ、幸せしすぎて死にそう」
ハロルドはそう言うと私を横抱きして立ち上がると、今度は彼の方からキスをしてきた。
唇が離れても何度も追いかけてきて、息継ぎができなくなった私がハロルドの肩をバンバンと叩いて抗議するまで続けられた。
***
それから数日後の、私とハロルドが再び魔王城に滞在したある日のこと。
ハロルドは、パパとの決闘の最中に「そろそろヘザーのウェディングドレス姿を見たいと思いませんか?」とパパの説得を試みた。
意外にもパパは否定せず、それどころか「うっ……卑怯な!」と恨めし気に声を上げると同時にハロルドに攻め込まれて剣を手放した。
後でママから聞いた話によると、ちょうどママが人間界の結婚式の話をパパにしたところで、私のウェディングドレス姿を見たいと言っていたところらしい。
そのタイミングでハロルド様が問いかけたため、パパの手元が狂ったようだ。
ルシファーの話によると、ハロルドとママが結託していたのだとか。
かくして私とハロルドは人間界にある教会で結婚式を挙げて、そこにパパとママとルシファーを始めとする魔界のみんながやって来たものだから、王都は一時騒然としたのだった。
――元王妃プリシラが事件を起こしてから、半年経った。
私とハロルドは相変わらず、満月の周期ごとに人間界と魔界を行ったり来たりしている。
今は人間界にいて、今日はハロルドとデートの日だ。
「ヘザー、とても綺麗だよ。まるで花の妖精が舞い降りて来たみたいで見惚れてしまうよ」
ハロルドは孤児院まで迎えにくるや否や、頬を少し赤くし、蕩けるような笑みを浮かべて褒めてくれる。
今日のハロルドは白いシャツにアイスブルーのジャケットとスラックスを合わせており、貴族らしく見える。
「お、大袈裟だよ。いつもと違う服を着ているから雰囲気が変わっただけだと思う」
今日の私はハロルドにプレゼントしてもらった、矢車草のような上品な青色のワンピースを着ている。
聖女の制服と簡素なブラウスとスカートしか持っていない私のために、よそ行きの服が必要だと言って持ってきたのだ。
「いや、今日のヘザーは本当に妖精のようだよ。その髪型も良く似合っている」
髪は孤児院にいる年長の女の子たちが三つ編みを編み込んだハーフアップにしてくれた。
私史上、一番おめかししたかもしれない。
ハロルドは右手を私に差し出し、騎士が貴族の女性をエスコートするような仕草をする。
「ヘザー、美しいあなたと今日一日一緒に過ごす栄誉を私にいただけますか?」
「あげるもなにも、そういう約束したじゃない」
「ははっ、そうだね。ヘザーと一日中ずっと一緒に居られるなんて夢のようだよ」
ハロルドの手が私の手をとる。
温かくてしっかりとした大きな手に握られると、ドキドキと胸が忙しなく鳴って落ち着かない。
「はぁ、このまま誰にも見せずに独り占めできたらいいのに」
ハロルドが溜息と共に小さく呟いたような気がしたけれど、あまりにも小さな声だったから聞き取れなかった。
***
王都に着いてすぐに、私は大通りの真っただ中で佇んでいるおばあさんを見つけた。
手荷物をたくさん持っているから、もしかすると地方から来た人なのかもしれない。
私はハロルドの手を引いておばあさんに歩み寄った。
「あの、もしかして道に迷いましたか?」
「ええ、そうなの。娘たちに会いに来たのだけど、待ち合わせ場所までどうやって行けばいいのかさっぱりわからなくて……」
王都の貴族街は整備されているが、平民街は入り組んでいるため、初めて来た人は迷いやすい。
「待ち合わせ場所はどこですか?」
「‶花の噴水広場″という場所よ。ご存じ?」
「ええ、ここからニ十分ほど歩いたら着きますよ」
「まあ、そんなに……」
おばあさんはふうと溜息をついて、途方に暮れたように空を仰ぐ。
ここに来るまでの長旅でかなり疲れているのだと零した。
「失礼します。少し、触れますね」
私はハロルドの手を離し、おばあさんの体に触れて治癒魔法をかけた。
「あら、疲れがとれたわ。あなた、もしかして聖女様?」
「元、聖女です」
「ありがとう。おかげでまだまだ歩けそうだわ」
とはいえ慣れない場所で人ごみの中を歩くのは大変だろう。
私とハロルドはおばあさんを道案内することにした。
私はおばあさんと並んで歩き、ハロルドがおばあさんの荷物を持つ。
「せっかくのデート中なのに、悪いわねぇ」
「まだまだデートは始まったばかりなので、気にしないでください」
ハロルドは笑顔でおばあさんに話しかける。
テンポよく会話を進めるから、初めは気まずそうにしていたおばあさんはいつの間にか笑顔になっていた。
ハロルドのさりげない気遣いや優しい言葉がすぐに出てくるところを見習いたいと思う。
やがて私たちは花の噴水広場″に着いた。
そこは街中なのに花畑になっており、真ん中に大きな噴水があるのだ。
噴水の縁は花で彩られており、この美しい噴水を見るために外国から旅行に来る者もいる。
家族を見つけたおばあさんに手を振って見送っていると、不意にハロルドが私の頬にチュッとキスをした。
私たちに手を振っていたおばあさんとその家族が、微かに頬を赤くして見つめてくる。
「い、いきなり何をするの!」
「ヘザーはやっぱり困っている人を放っておけない優しい人だなと思って、惚れ直して愛おしき持ちが溢れてしまったから」
「~~っ!」
どうして爽やかな笑顔でそのような恥ずかしいセリフをさらりと言えるのだろう。
私なんて、ハロルドを好きだと思っていても、なかなか伝えられないでいるのに。
「偶然、見かけたから声をかけただけだよ。私よりもハロルドの方が力になっていたし、優しい言葉をかけてあげていたし……」
「それは、ヘザーが助けようとしていたから、手伝っただけだよ」
ハロルドは私の手を取ると、その場に片膝をついて私を見上げる。
私の左手の薬指にキスをすると、ジャケットのポケットから小さな布張りの小箱を取り出して開ける。
「実は初めから、今日のデートでヘザーと一緒にここに行こうと思っていたんだよね。まさか人助けして到着することになるとは思ってもみなかったな」
箱の中には、水色の宝石がキラリと輝く銀色の指輪が現れた。
「お義父さんに認めてもらってからプロポーズするつもりだったけど、ヘザーと一緒に過ごすうちに我慢できなくなったんだ。毎日ヘザーの新しい一面を知るうちに、どうしてもこの先永遠に一緒にいたいと思ってしまうから――」
ハロルド様は指輪を私の左手の薬指に通す。
いつ私の指のサイズを測ったのやら、指輪は私の指にぴったりだ。
「ヘザー、私と結婚してください」
「……本当に、私でいいの? 私はハロルドみたいな優しい言葉をかけてあげられないのに……」
「ヘザーがいい。私にとってヘザーはこの世で誰よりも優しくて愛おしい人だよ」
ハロルドは水色の瞳を真っ直ぐ私に向けて返事を待ってくれている。
私も、そんなハロルドを、この世で誰よりも優しくて愛おしい人だと思う。
私はしゃがんで、ハロルドの唇にそっとキスをした。
「ええ、喜んで」
「……っ、幸せしすぎて死にそう」
ハロルドはそう言うと私を横抱きして立ち上がると、今度は彼の方からキスをしてきた。
唇が離れても何度も追いかけてきて、息継ぎができなくなった私がハロルドの肩をバンバンと叩いて抗議するまで続けられた。
***
それから数日後の、私とハロルドが再び魔王城に滞在したある日のこと。
ハロルドは、パパとの決闘の最中に「そろそろヘザーのウェディングドレス姿を見たいと思いませんか?」とパパの説得を試みた。
意外にもパパは否定せず、それどころか「うっ……卑怯な!」と恨めし気に声を上げると同時にハロルドに攻め込まれて剣を手放した。
後でママから聞いた話によると、ちょうどママが人間界の結婚式の話をパパにしたところで、私のウェディングドレス姿を見たいと言っていたところらしい。
そのタイミングでハロルド様が問いかけたため、パパの手元が狂ったようだ。
ルシファーの話によると、ハロルドとママが結託していたのだとか。
かくして私とハロルドは人間界にある教会で結婚式を挙げて、そこにパパとママとルシファーを始めとする魔界のみんながやって来たものだから、王都は一時騒然としたのだった。
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