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序章 憧れの志望校へ
4話 未来へ
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「はぁ……」
ゆっくりと目を開け、深く息を吸い込んだ。
過去から現在へと意識が返ってくるのを感じる。
一人しかいない部屋の静けさが妙に心地いい。
今思えば一生分の勉強をした気分。
その結果として入学する事が出来たんだから、万事オーケーだよね。
本当にあきらめなくてよかった。
――そうだよ、……ね。
テーブルのARiSS端末に手を伸ばしおもむろに電源を入れた。
画面に現れる一人の女性、
その姿に私の視線はいつも奪われる。
全てが純白で包まれた様な容姿。
画面に映る彼女はアルビノを持って生まれた。
肌も、髪も、まつ毛までもが白く、瞳の色も一般的な人とは異なっている。
指先で触れるたびに変わる写真。
それはすべて彼女の姿、私は小さなため息をついた。
――同い年で第一線級のCNS選手。
美しい見た目とは裏腹に繰り出される激しい連続攻撃。
極めて攻性で、速攻を得意するスタイル。
それが試合内容と合致した結果、
圧倒的に不利な状況をひとり打破しチームを逆転勝利へと導いた。
――心惹かれた。
部活を始めるきっかけは彼女。
華麗さと無骨さを持ち合わせる不思議な存在感。
知れば知るほど魅力は深まり憧れと尊敬の念を抱くまで時間はかからなかった。
――いつか同じ場所で――。
そう願って必死に部活をやっていた、
やっていたのに……。
――手放してしまった。
情熱や欲望を優先した事で文武のバランスは大きく崩れ、
取り戻す為に払った代償は想いの全て。
だから、
『後悔していない』って言葉だけは今でも言えない。
失ってまで頑張った受験勉強、最高の高校生活が待っていても良いはず……。
思わずため息が出そうになると、最後の一口でそれを流し込んだ。
『結果はどうあれ教えろよ?』
飲み終えた瞬間、頭の中で再生されたもの。
天井を見上げたまま身体が固まる。
「あー……」
聞き覚えのある声が脳内に残った。
担任がそんな事を言ってた気が……する。
本音を言うと泣き疲れてたのもあってちょっと面倒くさかった。
だけど、こういう事は早い方が良い、最悪行かない可能性すらある。
先生にはお世話になったんだ、報告を兼ねて顔を出しにいこう。
おかげで重くなりかけた気分が少し晴れた気もするし。
善は急げだ、私は手早く準備を済ませると勢いよく扉を開いた。
「うわ……、まぶしっ」
扉を開けた瞬間、全身に光が降り注ぐ。
風は冷たいけど外はとても晴れていた、日差しがほんのりと暖かい。
濡れた地面に光が反射してキラキラしている。
天気も私を祝福してくれているのかな。
中学校までは徒歩で20分くらい。
通学時間以外に歩くのってなんか新鮮、いつもは学校の中に居る時間だから。
見慣れた通学路をゆっくり歩く、急がなくていいなんてほんと最高。
いつもと違う速度で通り過ぎる町並みは、普段気にしないものまで目新しく感じた。
そして、
見え始める大きな建物。
「陽向中学校に到着っと」
ここが私の通っていた場所。
もう、過去形……。
その想いに少し寂しい気持ちを感じた。
「あれ?」
見慣れた校舎には、
開校60周年と書かれた横断幕が垂れさがっている。
卒業の時には無かった気がする、新学期に合わせて付けたのかな。
3年間休まずに通った私の母校。
築60年と年季の入った校舎は結構くたびれていた。
校門を抜け、いつも通った道の前D立ち止まる。
卒業した者に靴箱は存在しない、たとえ皆勤賞でもね。
今の私が向かう入り口は違う場所にある。
身体をひるがえし逆の方向へ進む。
そこは在校中にまず来ない通路。
来客者専用と書かれた扉をくぐり、来客者スリッパに履き替える。
「先生いるかな」
私は足元に違和感を感じながら、
久しぶりの校内に足を踏み入れた――。
「本当か!良かったな!弓木!」
数人しか居ない職員室に声が響く。
先生は満面の笑顔でそう言うと眼には涙が浮かんでいた。
「…………っ」
正直、この展開は予想もしていなかった。
その姿に目頭が熱くなる、こんな情熱系教師だったとは……。
「受け持った生徒で不合格者が出ると思ったら、
気が気じゃなくてな。本当、安心した」
――これだよ。
あンた、教師としてどうかと思う。
興ざめだった。
返してよ、私の純情な感情。
「まあ、冗談だよ、冗談――」
涙をぬぐいながら、はははと笑う先生。
私は大人の黒い部分に初めて触れた気がした。
「とにかく、学校も近いし、よかったな」
何よりもこれがうれしい、私は朝がとても重い人だから。
その後は他愛もない内容で話題が続き、30分ほどで職員室を後にした。
先生も喜んでいたし来てよかったと思う、
気分をへし折られた感じは否めないけど……。
「んんーー……」
来客口を出ると指を絡めて腕を持ち上げた。
見上げた空には夕日が出ている。
――もうこんな時間。
振り返ると、
校舎がオレンジ色に染まっていてきれいだった。
「もう、ここに来ないんだよね……」
進む以上、去る場所がある、
望んだ場所に行けるのだからその道は最善。
送った学校生活も色々あってうまく表現出来ないけど、
結果としては充実した時間を過ごせたと思ってる。
今は現状を受け止めるのがやっとで先の想像はつかない。
でも……、
――きっと何かある――!
膨らむ期待と不安、
私は精一杯の想いを込めてその一歩を踏み出す、
この先で待っている運命の悪戯を知らないまま。
「あー……、先生の所に証書忘れた……」
そう、
たくさんの悪戯を知らないまま――。
ゆっくりと目を開け、深く息を吸い込んだ。
過去から現在へと意識が返ってくるのを感じる。
一人しかいない部屋の静けさが妙に心地いい。
今思えば一生分の勉強をした気分。
その結果として入学する事が出来たんだから、万事オーケーだよね。
本当にあきらめなくてよかった。
――そうだよ、……ね。
テーブルのARiSS端末に手を伸ばしおもむろに電源を入れた。
画面に現れる一人の女性、
その姿に私の視線はいつも奪われる。
全てが純白で包まれた様な容姿。
画面に映る彼女はアルビノを持って生まれた。
肌も、髪も、まつ毛までもが白く、瞳の色も一般的な人とは異なっている。
指先で触れるたびに変わる写真。
それはすべて彼女の姿、私は小さなため息をついた。
――同い年で第一線級のCNS選手。
美しい見た目とは裏腹に繰り出される激しい連続攻撃。
極めて攻性で、速攻を得意するスタイル。
それが試合内容と合致した結果、
圧倒的に不利な状況をひとり打破しチームを逆転勝利へと導いた。
――心惹かれた。
部活を始めるきっかけは彼女。
華麗さと無骨さを持ち合わせる不思議な存在感。
知れば知るほど魅力は深まり憧れと尊敬の念を抱くまで時間はかからなかった。
――いつか同じ場所で――。
そう願って必死に部活をやっていた、
やっていたのに……。
――手放してしまった。
情熱や欲望を優先した事で文武のバランスは大きく崩れ、
取り戻す為に払った代償は想いの全て。
だから、
『後悔していない』って言葉だけは今でも言えない。
失ってまで頑張った受験勉強、最高の高校生活が待っていても良いはず……。
思わずため息が出そうになると、最後の一口でそれを流し込んだ。
『結果はどうあれ教えろよ?』
飲み終えた瞬間、頭の中で再生されたもの。
天井を見上げたまま身体が固まる。
「あー……」
聞き覚えのある声が脳内に残った。
担任がそんな事を言ってた気が……する。
本音を言うと泣き疲れてたのもあってちょっと面倒くさかった。
だけど、こういう事は早い方が良い、最悪行かない可能性すらある。
先生にはお世話になったんだ、報告を兼ねて顔を出しにいこう。
おかげで重くなりかけた気分が少し晴れた気もするし。
善は急げだ、私は手早く準備を済ませると勢いよく扉を開いた。
「うわ……、まぶしっ」
扉を開けた瞬間、全身に光が降り注ぐ。
風は冷たいけど外はとても晴れていた、日差しがほんのりと暖かい。
濡れた地面に光が反射してキラキラしている。
天気も私を祝福してくれているのかな。
中学校までは徒歩で20分くらい。
通学時間以外に歩くのってなんか新鮮、いつもは学校の中に居る時間だから。
見慣れた通学路をゆっくり歩く、急がなくていいなんてほんと最高。
いつもと違う速度で通り過ぎる町並みは、普段気にしないものまで目新しく感じた。
そして、
見え始める大きな建物。
「陽向中学校に到着っと」
ここが私の通っていた場所。
もう、過去形……。
その想いに少し寂しい気持ちを感じた。
「あれ?」
見慣れた校舎には、
開校60周年と書かれた横断幕が垂れさがっている。
卒業の時には無かった気がする、新学期に合わせて付けたのかな。
3年間休まずに通った私の母校。
築60年と年季の入った校舎は結構くたびれていた。
校門を抜け、いつも通った道の前D立ち止まる。
卒業した者に靴箱は存在しない、たとえ皆勤賞でもね。
今の私が向かう入り口は違う場所にある。
身体をひるがえし逆の方向へ進む。
そこは在校中にまず来ない通路。
来客者専用と書かれた扉をくぐり、来客者スリッパに履き替える。
「先生いるかな」
私は足元に違和感を感じながら、
久しぶりの校内に足を踏み入れた――。
「本当か!良かったな!弓木!」
数人しか居ない職員室に声が響く。
先生は満面の笑顔でそう言うと眼には涙が浮かんでいた。
「…………っ」
正直、この展開は予想もしていなかった。
その姿に目頭が熱くなる、こんな情熱系教師だったとは……。
「受け持った生徒で不合格者が出ると思ったら、
気が気じゃなくてな。本当、安心した」
――これだよ。
あンた、教師としてどうかと思う。
興ざめだった。
返してよ、私の純情な感情。
「まあ、冗談だよ、冗談――」
涙をぬぐいながら、はははと笑う先生。
私は大人の黒い部分に初めて触れた気がした。
「とにかく、学校も近いし、よかったな」
何よりもこれがうれしい、私は朝がとても重い人だから。
その後は他愛もない内容で話題が続き、30分ほどで職員室を後にした。
先生も喜んでいたし来てよかったと思う、
気分をへし折られた感じは否めないけど……。
「んんーー……」
来客口を出ると指を絡めて腕を持ち上げた。
見上げた空には夕日が出ている。
――もうこんな時間。
振り返ると、
校舎がオレンジ色に染まっていてきれいだった。
「もう、ここに来ないんだよね……」
進む以上、去る場所がある、
望んだ場所に行けるのだからその道は最善。
送った学校生活も色々あってうまく表現出来ないけど、
結果としては充実した時間を過ごせたと思ってる。
今は現状を受け止めるのがやっとで先の想像はつかない。
でも……、
――きっと何かある――!
膨らむ期待と不安、
私は精一杯の想いを込めてその一歩を踏み出す、
この先で待っている運命の悪戯を知らないまま。
「あー……、先生の所に証書忘れた……」
そう、
たくさんの悪戯を知らないまま――。
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