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第三話
しおりを挟むモニカは心が折れそうだった。
ゲームでの行動と同じように、モニカはやや後悔しながらも懸命に授業を受け、ライナスとも接点を持とうと放課後、彼が自主訓練をしている運動場へと向かった。魔法騎士を目指している生徒の多くは放課後や早朝に運動場で剣術や馬術などの授業に向けての自主練はもちろん、体力づくりの走りこみなどをしている。ゲームでは主人公もそれに参加しようと運動場に赴き、一人で参加するのに不安を覚えてたまたま近くを通りかかったライナスに声をかけるのだ。
でも実際に同じ行動をしてみて、ゲームの主人公は勇気あるなとモニカは実感した。
ライナスは声をかけると立ち止まってくれたが、モニカには女子と一緒に訓練をした方がいいと言って去って行ってしまった。当然である。男子と女子ではそもそも体力に差があるし、モニカは女子でも体力的には普通の方だ。ライナスと一緒に自主訓練なんてそもそも無理がありすぎたのだ。
それでも授業を死にそうになりながらがんばっているんだから……という気持ちもあって、モニカはあきらめず、一年生の間はたびたびライナスに声をかけた。くじけそうになりながらも、何度も、何度も……もちろんライナスに断られた後は彼に言われた通り他の女子生徒と一緒に訓練をして帰ったが、今まで一度もライナスと一緒に行動をしたことはない。
「でも絶対に迷惑だと思われているし、そろそろ嫌われてきた気がする……」
一年間同じ行動をくり返してきて、モニカは内心そう思っていた。というか、自分だったら迷惑だ。ライナスはなんだかんだやさしいからいつもちゃんと立ち止まってくれるだけで、普通ならいい加減無視されているだろう。
そう、ライナスはやさしい……それも、モニカの心を折る要因になっていた。
「あきらめちゃうの? ライナスくんと一緒にいたくてがんばってきたのに?」
ティナの方が泣きそうで、モニカはちょっとだけ微笑んだ。
最初は、ゲームの推しだったからだ。それは間違いない。でも実際にモニカとして彼と接して、彼を見つめて、彼はゲームと同じように無愛想で、ゲーム以上に面倒見がよくやさしくて、そして何よりゲームでは知らなかった現実の彼は誰よりも努力家で……いつも放課後誰よりも遅くまでボロボロになりながら自主訓練をしている彼の姿を知って、いつの間にかモニカとして本気で彼を好きになっていた。
「でももう、二年生だから」
一年生が終わり、二年生になる前の長期休暇の間にモニカはいろいろと考え――そして、前世はあくまで大昔の思い出として心の奥にしまうことにした。ライナスのことをあきらめるのではなく、前世のゲームの推しであることを引きずったまま好きでいることは不誠実だと思った。それに――
「それに、治癒師になりたいなって思ってて……二年生の終わりに、進路選択があるでしょう? 今から治癒師にしぼって、勉強をがんばりたいなって」
「たしかにモニカはたくさん授業を受けてるし、もう少し減らした方がいいとは思ってたけど……」
ティナは納得いかない顔をしていた。
「ライナスくんのこと、あきらめるわけじゃないよ」
モニカは言った。
「あきらめられないし……でも、治癒師の夢もあきらめたくないの」
攻略のために選ぼうとしていた進路だが、実際に授業を受けたり治癒師の仕事を知ったりする中でこういう仕事をしたいと思うようになったのは本当だ。特に一年生の終わりに行った課外授業で治癒師の仕事を体験してからその気持ちは強くなっていった。
モニカのまだまだな治癒魔法を使って簡単なケガや不調を治したのだが、温かな笑顔とお礼の言葉を受けてやりがいを感じたのだ。
治癒師になるためのコースに進むには成績はぎりぎりで、魔法騎士のコースに必要な授業を捨てれば成績があがるのはわかっていた。実際に、教師にもそうするようにすすめられている。
「接点はなくなっちゃうかもしれないけど、見てるだけでも十分だし……」
「モニカ……」
胸の痛みには気づかないフリをして、モニカは静かにそう言った。
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