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琶国大使、敵を認識する。
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「私の名をご存じなのですか」
思わず、と言った風情で呟いた瑯炎の声が聞こえたのか、エグバードと名乗った客は目を光らせて瑯炎を睨みつける。
一般に他国の使節の姓名は知られてはいない。
そういったものは基本的に国の中枢部で必要なだけであり、あとは利にさとい商人が欲するものであったりする。
あとはその該当する国からやってきた外国人が、何らかの手続きであったり支援を求めてやってきたりするが、それでも知っているとなると限られてくる。
ぐ、と腕の中の妓女をわざとらしく抱え込んで、その耳に舌を這わせる。
そして蘭秀の上衣の襟を押し開き、そこから彼女の両の乳房を上半分露出させて口づけを落とした。
思わぬ乱入者に敵娼も動揺してるのか、それとも興奮しているのか。
息が荒い。
そして肌は微量な汗をかき、妓女の蠱惑的な体臭が匂う。
焚きしめられた香が汗と混じりあい、女の媚臭となってエグバードと名乗った男の脳髄を直撃する。
これはたまらない。
女の性的な臭いを嗅ぎ取り今日の獲物と見定めた女の香りに酔いつつ、けれど冷静な部分で闖入者を睨みつけ、牽制する。
それは自らの胤を植え付け、発芽させたいと願う雄としての本能だ。
この女を奪われるわけにはいかない。
客に無体を働かれるのを本能的に避けたいのか、蘭秀はできうる限りの力を込めて、距離を取ろうと腕を突っ張り、声をあげた。
「お客さま。どうか、別室にてお待ちくださいませ。早くその方を別室へ」
そう言って場の主導権を己の手に取り返そうと、身を捩じるがもはやびくとも動かないくらいに抱きしめられている。
命じられた新造が瑯炎を促すが、瑯炎は逆に抱きしめられた蘭秀に近づき、その体に手を掛ける。
「どうにも太夫は気が進まねえみたいなんだが、お前さん今日のところは引いちゃくれねぇか?」
今日の花代を既に支払っている客に対し、随分と上からの目線で言い放った。
「ほう? 今日は私が恋人。そうですよね、太夫?」
身体の上半身と下半身をその身を預けていた寝椅子越しに客たちに絡めとられ、身動きはできないが少なくとも妓楼の中では客であっても妓女の方が位は高い。
そうでなくては、この苦界で身を売る妓女たちの身を守れないからだ。
身分をかさに来た暴力から身を守るため、考え出された知恵。
この花街は官街にも近く、接待にも使われる。
そして、大門に高々と掲げられている皇帝の手による真筆は、ここが公的に認可された遊郭であることを示す。
もちろん、妓女の方が身分が高いと言うことは本来はありえないが、花街から少なくない冥加金を納めさせる代わりに遊郭を公的に認め、妓女の身分を保証したのだ。
だから、この中で最上位である太夫の命令は絶対である。
「お二方とも、どうかわちきの身体からお手を離してくださいませ。身体がバラバラになりそうですわ」
やんわりとお願いの形を取ってはいるが、蘭秀からそう言われた客たちは不承不承ながら蘭秀の身体から手を離した。
あちこちを力任せに掴まれて、赤くなってひりひりする。
それをさりげなく袖をめくって見た蘭秀はキッと二人の客を睨みつけた。
「いくら花代をお支払いいただいているからと言って、ここは花街。わちきどもはこの身ひとつで商売しておりまする。この身に何かあれば、蜃気楼の看板も背負えなくなりましてよ」
ここは多少なりと苦情を言わねば、蘭秀の肚も治まらない。
そう言った途端に目の前の佳人が見た目通りの女性ではないと思い至ったのか、大きな体をしゅん、とさせた。
「場合によっては、わちきと逢えなくなります。その位に、わちきのことはお好きではないの?」
そっと傍に寄り添う二人の客のそれぞれの頬に片手ずつ当てて、悲しげな顔を作った。
そして主導権を無事に取り返した、と安堵した途端。
エグバードが蘭秀の身体を抱き上げ、寝室に移動を開始する。
「美しい貴女の顔を曇らせるのは忍びない。お詫びに、天国に連れて行って差し上げます」
「あっ! おい、待て!」
蘭秀が反論する間もなく、蘭秀を抱き上げたエグバードとともにそれを追って瑯炎までが寝室に入っていった。
───
長くなったので一旦切ります。
本日で泣いても笑っても、第四回時代・歴史小説大賞の投票期間は終わりです。
投票時間終わるまでに投稿できるだけしたいと思います。
最後まで応援お願いいたします!
思わず、と言った風情で呟いた瑯炎の声が聞こえたのか、エグバードと名乗った客は目を光らせて瑯炎を睨みつける。
一般に他国の使節の姓名は知られてはいない。
そういったものは基本的に国の中枢部で必要なだけであり、あとは利にさとい商人が欲するものであったりする。
あとはその該当する国からやってきた外国人が、何らかの手続きであったり支援を求めてやってきたりするが、それでも知っているとなると限られてくる。
ぐ、と腕の中の妓女をわざとらしく抱え込んで、その耳に舌を這わせる。
そして蘭秀の上衣の襟を押し開き、そこから彼女の両の乳房を上半分露出させて口づけを落とした。
思わぬ乱入者に敵娼も動揺してるのか、それとも興奮しているのか。
息が荒い。
そして肌は微量な汗をかき、妓女の蠱惑的な体臭が匂う。
焚きしめられた香が汗と混じりあい、女の媚臭となってエグバードと名乗った男の脳髄を直撃する。
これはたまらない。
女の性的な臭いを嗅ぎ取り今日の獲物と見定めた女の香りに酔いつつ、けれど冷静な部分で闖入者を睨みつけ、牽制する。
それは自らの胤を植え付け、発芽させたいと願う雄としての本能だ。
この女を奪われるわけにはいかない。
客に無体を働かれるのを本能的に避けたいのか、蘭秀はできうる限りの力を込めて、距離を取ろうと腕を突っ張り、声をあげた。
「お客さま。どうか、別室にてお待ちくださいませ。早くその方を別室へ」
そう言って場の主導権を己の手に取り返そうと、身を捩じるがもはやびくとも動かないくらいに抱きしめられている。
命じられた新造が瑯炎を促すが、瑯炎は逆に抱きしめられた蘭秀に近づき、その体に手を掛ける。
「どうにも太夫は気が進まねえみたいなんだが、お前さん今日のところは引いちゃくれねぇか?」
今日の花代を既に支払っている客に対し、随分と上からの目線で言い放った。
「ほう? 今日は私が恋人。そうですよね、太夫?」
身体の上半身と下半身をその身を預けていた寝椅子越しに客たちに絡めとられ、身動きはできないが少なくとも妓楼の中では客であっても妓女の方が位は高い。
そうでなくては、この苦界で身を売る妓女たちの身を守れないからだ。
身分をかさに来た暴力から身を守るため、考え出された知恵。
この花街は官街にも近く、接待にも使われる。
そして、大門に高々と掲げられている皇帝の手による真筆は、ここが公的に認可された遊郭であることを示す。
もちろん、妓女の方が身分が高いと言うことは本来はありえないが、花街から少なくない冥加金を納めさせる代わりに遊郭を公的に認め、妓女の身分を保証したのだ。
だから、この中で最上位である太夫の命令は絶対である。
「お二方とも、どうかわちきの身体からお手を離してくださいませ。身体がバラバラになりそうですわ」
やんわりとお願いの形を取ってはいるが、蘭秀からそう言われた客たちは不承不承ながら蘭秀の身体から手を離した。
あちこちを力任せに掴まれて、赤くなってひりひりする。
それをさりげなく袖をめくって見た蘭秀はキッと二人の客を睨みつけた。
「いくら花代をお支払いいただいているからと言って、ここは花街。わちきどもはこの身ひとつで商売しておりまする。この身に何かあれば、蜃気楼の看板も背負えなくなりましてよ」
ここは多少なりと苦情を言わねば、蘭秀の肚も治まらない。
そう言った途端に目の前の佳人が見た目通りの女性ではないと思い至ったのか、大きな体をしゅん、とさせた。
「場合によっては、わちきと逢えなくなります。その位に、わちきのことはお好きではないの?」
そっと傍に寄り添う二人の客のそれぞれの頬に片手ずつ当てて、悲しげな顔を作った。
そして主導権を無事に取り返した、と安堵した途端。
エグバードが蘭秀の身体を抱き上げ、寝室に移動を開始する。
「美しい貴女の顔を曇らせるのは忍びない。お詫びに、天国に連れて行って差し上げます」
「あっ! おい、待て!」
蘭秀が反論する間もなく、蘭秀を抱き上げたエグバードとともにそれを追って瑯炎までが寝室に入っていった。
───
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