謝漣華は誘惑する。

飴谷きなこ

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蘭秀、客二人に翻弄される。 *R15*

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 「美しい貴女の顔をくもらせるのは忍びない。お詫びに、天国に連れて行って差し上げます」
「あっ! おい、待て!」

 蘭秀が反論する間もなく、蘭秀を抱き上げたエグバードとともにそれを追って瑯炎ろうえんまでが寝室に入っていった。
寝台にそっと丁寧に横たえられたかと思うと、エグバードは蘭秀の衣装を緩め始める。
そこでようやく追いついた瑯炎がエグバードの肩をつかんだ。

「待てって、おい!」
「なんです? 貴殿もご一緒になさいますか? そもそも今日は待ちに待った逢瀬の日なんです。邪魔しないでもらえますか?」

 蘭秀のはだけた衣装の隙間から、素肌に次々と口づけを落としていく。
水揚げされてから、今まで何人もの客と枕を交わしたが、基本的に蘭秀は花魁おいらんで、今は太夫だ。
そもそもが太夫が相手するのは、一日のうちに数人。
枕を交わすとなれば、それなりに金を落とした客かそうでなくても蘭秀が気に入った客とのみだ。
だが複数の相手をすると言うことは中級か下級の妓楼であればともかく、ここ蜃気楼しんきろうではまずやらないことだ。

 実際は先だって瑯炎が連れてきた漣華れんげの身体から媚薬を抜く際に、陰間である莱玲らいれいが漣華と礼記の二人を同時に相手をしたようなものだが、ああいった事態は滅多にない。
あれは明らかに妓楼側の過失と言うことで特別に相手をしたと言うことになる。
だが、今回は案内も請わずにずかずかと瑯炎が蘭秀の部屋に乗り込んできたので、妓楼側の過失になるのかどうかは微妙なところだ。

 その頃、小女から話を聞いた女将が慌てふためいて蘭秀の部屋を訪れたのだが、既に蘭秀を含めて三人は寝室に引き取った後。
しばらくは待っていたのだが、そのまま待ち続けるわけにもいかず、新造に何かあれば連絡するようにと言い含めて戻っていった。




 蘭秀は大いに戸惑っていた。
今まではおとこと言えば、ちょっと笑ってみせるだけで、狼狽ろうばいしたり蘭秀にのぼせ上って贈り物を寄こしたり、小首をかしげただけで相手がどう思うのかが手に取るように分かった。
理由なぞわからないが、誰に教えられなくてもそれがわかった。
が蘭秀が太夫に昇りつめた理由なのだが、本人は知るよしもない。

 おとこ二人が、自分を取り合っている。
こう言うことは客同士が直接顔を合わさずとも、蘭秀の部屋に贈り物を置いてあるだけで張り合ってより上質な金額の張るものを贈り合いをしたりはするが、客同士が顔を合わせて自分をより感じさせ乱れさせた方を蘭秀のおとことして認める、と言ったことはまずなかった。
蘭秀が別の客の相手をしていた場合は、莱玲らいれいなり蘭秀の抱える新造なりが相手をして時を過ごす。
もちろんその花代は客が支払う。
たとえ蘭秀がその客の前に姿を現さなくても、蘭秀が稼いだと言うことには変わりはなく、金額も変わらない。
蘭秀の代わりに対応した新造や陰間にはそれなりの手当が出るが、差はそれくらいなものだ。

 しかしこれは蘭秀が今までに経験も、想定すらもしたことがないものだった。
エグバードは蘭秀の乳房に吸い付き、乳輪を舐めあげ、乳首をその歯で軽くしごきながら舌で弾く。
その片手は下に伸び、両脚を広げさせて秘蜜ひみつで潤い始めた蜜口と、その秘蜜を指ですくい取り、硬く尖り始めた上部の蕾にまとわせて優しくくるくるとその周りを刺激し始める。
敏感な場所なのもあるが、常とは違って二人のおとこ翻弄ほんろうされつつあると言う異常な事態が皮肉にも蘭秀の身体も心もより興奮させていた。

 瑯炎は蘭秀の唇を優しく舌で叩いて、わずかに口を開けさせるとその舌を差し込んだ。
小さな真珠のような歯の奥に潜む、感じやすい舌を探り当てると、それをすすりこむように差し出させる。
味蕾みらいのひと粒ひと粒を丁寧に愛撫しながら、上あごをも愛撫する。
蘭秀は瑯炎とも枕を交わすようになってそれなりに長いが、このように丁寧に愛撫されるのは初めての経験だった。

 こういうことをしてくれるのなら、二人っきりでしてくれればいいのに。

 蘭秀は瑯炎を好いてはいるが、瑯炎の心には漣華れんげが棲みついている。
それはわかっていたことだ。
そもそも、蘭秀は漣華とをしていたおかげで、瑯炎から目を掛けられ、大事にされていたのだ。
それは瑯炎が漣華を連れてきた時点でわかっていた。
おそらくだが、元々の出身は同じ民族なのだろう。
同じ金茶の髪に青の瞳。
蘭秀の瞳は青いだけだが、漣華は北方にあるという青狼湖の色をそのまま映したようだった。
貧民街で両親からのいわれのない暴力と飢えにさらされ、もう少しで肺に棲みついた病でそのはかない命を終えてしまうところだった。

 瑯炎には随分と可愛がってもらったと思う。
引き込み禿かむろとなった頃から、なぜか成人前の瑯炎は頻繁に蜃気楼へ遊びに来て、蘭秀だけでなく禿たちと遊んでくれた面倒見のいい兄貴分だった。
そして長じて、水揚げを迎える頃に蘭秀は自ら頼んだのだ。

「自分を抱いてほしい」

 それは無事に叶えられ、今の太夫の地位にある。

「蘭秀」

 きゅっと乳首を突然捻られ、小さな叫び声を上げた。
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