試さずにはいられない。

ひやむつおぼろ

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火種

 ギリギリだったプロジェクトが終わり、納期も無事に間に合った。皆に心地の良い充足が与えられた。新人に至っては、はじめて取り組んだプロジェクトが良い結果を残したことに涙を流していた。

 平井輝昭と書かれたタイムカードを切る。ヤァヤァ今日は一杯飲もうじゃないかと部長が全員に声をかけて回っていた。毎月月末になると彼はいつもこうで、でも部署内のみんなは彼の飲み会好きに辟易としながらも参加していた。

「どっか行きたい店あるか?」

「唐揚げとポテサラあればそれで良くないですか?」

 ぼそと口を挟めば部長がくるっと向き直る。

「お前今日は飲み会参加できるのか?」

「…来ちゃダメっすかね?」

「いや、そういうことじゃなくってさ!!いつもは門限がどうこうって。いっつもこないじゃん!?入社式の後の二次会なんか、束縛系彼女からラインすごく入ってたし」

 彼女と喧嘩でもしたか?いつもは粗暴なその手が、ポンポンと優しく背中を叩く。

「はは、あいつは彼女なんかじゃないですよ。それに……」

 それに、の後オレは何を言ったらいいか少し迷った。あいつは、男だし、ガキくさい嫉妬もするし、なんなら告白されたことないし……。職場という公衆の場所で、接続語の先に繋げていい、あいつを表す言葉は最初から存在していなかった。

「それに、ずっと部長たちと飲みたかったし?」

 当たり障りないことをいって誤魔化すように笑えば部長はガッハッハと笑い、先ほどと打って変わってどかんどかんと背を叩いた。かわいい奴めなんて、もう2年したら30の男に言うべきじゃないだろ。

「ならお前の食べたいやつか、好きなチェーンかを適当に予約しててくれよ。」

「…はーい」

 居酒屋の予約か。部長め、俺に幹事を押し付けようとしてるな。カチ、とスマホを取り出せば、メッセージアプリの通知が目に入る。着信履歴がズラリと並び、定時を過ぎるとその頻度はあがった。通知オフにして、近場の繁華街で何人でと条件を入れていく。5分ごとに着信が入り画面を占領するからなかなか決められなかった。

「居酒屋調べるのに社内PC使っても良いですか?」

「あはは。みんないつも使ってますよぉ~。天然入っててかわいいなぁお前は」

「…今日は部長が奢ってくれるんですね?ゴチになりまーす。」

「えっ、うそ待って、1人5000円までのとこにして!」

「いや奢るんですか」

 新人がオレに続いてごちそうさまです!と頭を下げる。一人暮らしを始めたばかりだという彼がたくさん食べれる場所を探してやろう。4000円代の飲み放題で、評判の良い場所を見つけ、早速人数と到着時間を電話した。

ーー

「平井さんってぇ、彼女とか居ないんですかぁ?」

 ふわりと上品な花の香りがする。薄ピンクの唇は安酒に濡れていて、アルコールで上機嫌な同僚の頭はゆらゆらと隣で揺れていた。血色のいいチークが浮いて見えるほどわざとらしい。

「いいや、彼女はいないな。」


「ただ…まぁ、ほっとけない奴がいて」

 オレには自称彼氏がいる。そう、自称彼氏だ。
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