完全犯罪計画部!~ご相談につきどんな完全犯罪でも創ります!~

夜野舞斗

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2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談

19.ためらうぼくと恐れる君

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「えっと……ぼくが電話をかけるのか……電話を!? うわあ!」

 驚いたせいで自分の座っていた椅子を倒して、派手に頭を打ってしまった。ぶつけた部分を優しく擦りながら、東堂さんに確認を取る。

「えっと、ぼくが電話するんですよね」
「うん」
「その真意は何ですか? 東堂さん……もできますよね」

 そこに古月さんと河井さん。

「何で、絵里利だけなのよ! アタシは役に立たないって訳? 絶対そんなことないから。安心して」
「うち……そういうの……無理……だと思われてる?」

 二人とも自分から、原因を示し始めてくれた。古月さんは人を見下す性格だから何か言われたとき、すぐにボロを出してしまうだろう。河井さんは無口だから、交渉が苦手だと推測できた。
 しかし、ぼくだって話し合いをしている最中に口を滑らしてしまう可能性があるのだが。東堂さんも知っているはずだ。

「ええと。やっぱり女の人って特に蛭間氏みたいな男性に舐められちゃうのよ。それに女の人から、そんなアダルトサイトに出てくる動画の題名を口から出されるのはちょっとねえ……」
「そこのエロ野郎なら、させると思うよ? アタシたちに言わせると思うんだけど」
「ユニちゃん、さっきからどんどん口悪くなってない?」

 そこまで考えておけば良かったという話ですか。仕方ない。ぼくも男だ。下ネタや隠語の一つや二つ言ってやろう……あれ。男の定義がおかしくない?

「じゃあ……電話は……御影に……任せる……よろしくね……」
「あっ。エナちゃん。ユニちゃん。彼が失敗すると困るからさ。近くに……」
「ごめん。パス! パス! パス!」

 古月さんが手を振って必死に拒否してくれたことで、胸をなでおろす。お嬢様にそれを聞かせることをためらっていたところだ。だけど、東堂さんと今、嫌な反応を見せなかった河井さんは静聴するのですかね……危険な方向に曲がっていくぼくたち。
 不安がのしかかってくるのを必死に避ける所存だ。本当にどうしようもない部活だな。「完全犯罪計画部」。

――――――――――――――――――――

 ぼくは重い鞄を持ち上げ転んだ体を起こす。
 話し合いも終わって確かに急いで帰ろうとしていた。東堂さんが帰った後に連絡アプリで残りの情報を送ってくれると教えてくれたので、期待を胸に走っていた。
 こちらにだって非はある。しかしスマートフォンを見ながら、自転車を運転していたのは相手だろう?彼は気にもせず、人に自転車をぶつけたのを隠そうともせず街に消えていく。
 人通りの少ない場所であるために誰も目撃者がいなかった。非常に残念である。
 体にはほとんど痛みは残っていない。だが、鞄の中にあったスマートフォンには大きなヒビが入ってしまった。憂鬱な気分でそれを手に取って、考えた。

「自分が犯罪をやるしかないのか……?」

 今回の依頼についての見解だ。大金を騙し取られた依頼人の父親。そこから暮らしが変わっていったのか等、依頼人の人生に何か大きな支障が出たのかもしれない。
 それを脱出するには、努力?勇気?気の持ちよう?それで済むのなら、誰だってやっている。最終的に犯罪をするところまで陥ってしまう人だっている。最初は被害者だったのに、犯人になってしまうのだ。哀れ……哀れだけれど、今、少しだけ気持ちが分かったような気がする。
 「毒には毒をもって制す」そんな言葉があった……

「けど……なんで? なんで? 東堂さんは完全犯罪なんてやろうとしてるんだ?」

 興味本位だとは考えにくい。
 あの笑顔からは、犯罪をして誰かを困らせようという気持ちが全く伝わってこない。何故?
 何故なんだ……?
 どうして東堂さんと河井さんは……?

「何で、完全犯罪なんか考えて。人を助けようとしたいなら、正義の方法でやればいいじゃないか! 何でそんな下らないことをやるんだ!?」

「下らない……だから……それを……改めて実感……してもらう……ため。犯罪なんて……復讐しても……虚しいって……自ら……悪役に……なるだけ」

 ぼくの真後ろには、薄い雲に隠れてしまった月を背にした河井さんが制服姿で立っていた。

「大丈夫……? さっき……」
「大丈夫だけど、見てたの?」
「ごめん……怖くて……見て……るしかなかった」

 足が震えていたのが見て取れた。その姿にぼくは小さく笑う。

「え?」
「だって、さっきは犯罪のことばっかり言ってたのに、今んなって」
「うち……強がってる……だけだから……言葉なら……なんでも……言える……嫌味だって……『あなたが好き』……とか……馬鹿馬鹿しい……言葉も」
「……!?」

 突然、過呼吸になってしまう。どうした!?落ち込んでいたはずではなかったのか!?
 彼女の赤くなった頬に何を感じていたのか分からずに、急いで胸をおさえた。

「ぶつけた……ところ……悪かった……?」
「いや。全く。なんでも。ない。です」

 ぼくの言葉が危うくなってきている。これでは、不審者だ。誰かに見られたら、警察に捕まる……
 何故か、ありもしない罪悪感を背負ってぼくはその場から逃げ出そうとした。

「じゃあね……あっ……待って」

 僅かな空気の振動を鋭く感じ取り、ぼくはムーンウォーク(後ろ向きに歩くこと)をして戻った。

「……随分……個性的……まあ、いいや……明日……授業を終わるの……早いから……みんなで……依頼人の塩見さん……のとこに……電話して……練習させてもらうことに……なったから」

 練習か。勿論、させて貰おう。
 ぼくは決意した。東堂さんの期待に応え、何故この部活を作ったのか尋ねるのだ。そのためにも成功させて、彼女を喜ばせる。
 練習がその糧になるのなら、何回でもやってやるのだ!

「じゃあ、いっちょやるか。おー!」
「おー?」

 河井さんは弱弱しくも輝いている星空に向けて、腕を可愛く振り上げた。
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